61:夢か現か
「この山は豊かだね。色んな果物がなってる」
「旧王都の森ほどじゃないが、色々なっているね」
今日は移動は休みで、みんなで近くの山で果物採取してゆっくりしている。
地球で見慣れた物に近い物や、見た事もないものや色んな果物がなっている。
栄養が偏らないように、食卓になるべく果物も出すようにしているのでたくさん採取出来れば有難い。
みんなの今のお気に入りは、自家製練乳をつけたいちご。練乳は牛乳に砂糖を入れ、とろ火でじっくり煮詰めた簡単なものだ。
ここは地球とは違う世界なので、たまにこれって今が旬だったかと悩むものもあって面白い。
「グレープフルーツがたくさん採れましたね。嬉しい」
品種改良されてないせいか、小ぶりで甘みは日本で食べてたものと比較にならないくらい酸っぱい。
それでもグレープフルーツが好きだから、たくさん収穫した。
グレープフルーツはぶどうの房みたいに固まってなっているのも面白い。
こんな寒い気候帯にあったかな?などという疑問は持たない。だって、地球じゃないんだから。
「びわもたくさん採れたよ」
「こっちはオレンジと李」
こっちの李。何とジャボチカバみたいに木の幹になっている。なので最初、李だと思わなった。
他にも何種類かこの実の付き方の果物があるって。
「こっちはベリーが何種類か」
ちなみにベリーはとても大きい。ライチくらいの大きさの実だ。しかも春と秋に実がなるって!
◇
水晶の中に、地名を冠した物がある。ヒマラヤ水晶やハーキマーダイヤモンドなどだ。
ヒマラヤ水晶は、もともと僧侶が修行の一環として水晶を採掘した物が特別な水晶とされていた。
ハーキマーダイヤモンドは、ニューヨーク州のハーキマーで見つかった。ダイヤのような輝きと、両剣水晶が特徴の水晶を指す。
私が結界のブレスにしていたのも、この類の水晶だ。だからなかなか手に入らない。
お守りがないので、普段は気を付けている。今日は果物の採取に夢中になって、油断した。
「に…、へびーっ!!」
景色が良かったので、少し張り出した崖でお昼を食べていたのも間が悪かった。へびに驚いて飛び退ったはずみで、崖から足を踏み外した。
切り立った断崖絶壁でもないし、高さもそこまでないのは幸いだったが…。
ヤバい!と結界は張ったが、背中を斜面に叩きつけたのはほぼ同時だった。
「…ッ!!」
◇
…匠。師匠。
ぼんやり、ユリシーズさんの声が聞こえる…。泣いてるの…?
「…ん…」
何度も呼ばれ、やっと目が開く。
「師匠!」
ユリシーズさん、泣き腫らしたの…?顔がそんな感じだよ。
「い…っつ…」
「ポーション飲ませるから、結界解いて」
いつもみたいに一度で張れなかったが、何度目かで結界は張れていたらしい。結界を解くとクーとルーが手をぺろぺろ舐めて来た。くすぐったい。
〘ユウ…〙
〘大丈夫?〙
「心配かけてごめんね。ユリシーズさんがポーション飲ませてくれたから、もう大丈夫だよ」
ポーションを飲むと、砂利なんかの異物が先ず傷から押し出される。どういう原理か分からないが、とても助かる。その後傷は治ってゆく。
ああ、まだユリシーズさんにも言ってなかった。
「ユリシーズさんも、心配かけてごめんなさい」
「へびが出たんだろ?それに驚いたのはしかたない。
………。打ち所が悪くて、死ななくて良かった……」
ポーションで怪我はすぐ治るが、痛みは完全にはなくならない。それを踏まえても左肩はもしかしたら骨が折れているのか、かなり痛い。
落ちながらとっさに頭を手で抱えたから、頭は痛くないが肩はぶつけた様だ。ぶつけた記憶はないけど。
右腕をなんとか持ち上げ、ポーションを持つユリシーズさんの手に触る。少しでも多く、気持ちが伝わるように。
「うん、本当にそうだね。
後、ここまで来てくれてありがとう」
ユリシーズさんと男の子達、クーとルーは狩りへ行っていた。アカザさん達からの連絡で、クーとルーが臭いを頼りに探してくれたのだろう。
「良いよ、もう。生きててくれたから、それで良い。
念の為、ハイポーションも飲んで」
ポーションでは腱の断裂や、指以上の太い骨の骨折は治らない。ポーションを飲んで回復しきらなければ、ハイポーションを飲む。
逆にハイポーションでは、異物の排出はされない。代わりに完全な正しい位置で、腱や骨は繋がる。
ハイポーションを飲ませてもらうと、肩の痛みが嘘のようにずいぶん引いた。
目を閉じて少し休む。
「アカザさん、ユリシーズだ。
聞こえてた?師匠は気が付いたよ。ポーションとハイポーションを飲んだところ」
ユリシーズさんは心配しているだろうアカザさん達に、スマホで連絡を取っている。
「ユリシーズさん、後で代わって」
話しながらユリシーズさんは頷き、話しが終わると代わってくれた。
「アカザさん、アカギさん、ナハルさん、リラさん、カールくん、マーズくん。みんな心配かけてごめんなさい」
一人ひとり名前を呼び、心から謝る。
みんな優さんのへび嫌いは知っている。あれは条件反射みたいなものだから仕方ない、生存で良かったと口々に言ってくれる。
それどころか、手を掴むなりして助けてやれなくて申し訳ないと凄く謝られた。
一頻りスマホ越しに謝ると、もう代わらなくて良いとの事で通話を切る。
「師匠。今夜はここに泊まるから。テント張れるスペースがないからコットだけだけど、師匠はそこで休んで。
食事は弁当で良いよな?」
ユリシーズさんは立てると聞きつつ、立つのを手伝いコットに寝かせてくれた。
「コット取っちゃってごめんね」
「元々なかったから、なくても平気」
毛布を掛けながら、そう応えられた。
「まだ痛みがあるんだろ?少し休んで。
起きてから、食欲があれば食事にしよう」
ユリシーズさんは大きな手で私の目を覆う。
前にもこうされた後で聞いたが、人を眠らせたり、錯乱させるような神経に作用する魔法はないそうだ。もしかしたら、固有能力として存在する可能性はあるそうだが。
大きな手の温もりが心地良い。もう大丈夫だと安心する。
しばらくして痛みが引くほど、そして気持ちも落ち着くとすんなり眠りに落た。
「師匠。もし誰かと付き合っても結婚しても良いよ。
でも、死んでいなくならないで…。それは耐えられないから…」
眠りに落ちる間際か、眠りに落ちた瞬間くらいだった。
それは、夢の中のユリシーズさんの言った言葉だったのだろうか…?
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