60:今日こそボンゴレ!
「今日はあんまり貝が取れないな…」
「そうだねえ、まんまり取れないねぇ」
もう一時間ほど、みんなであさりとはまぐりに狙いを定めて潮干狩りしている。だが、まだどちらも数えるくらいしか取れていない。
もちろん買っても良い。買っても良いが、せっかく海にいるのだから自分で取って食べたい。あさりは火を通しても開かない物を混ぜると味が変わるから、直に良いのを取りたいんだけどな。
「師匠。もう少し探して、それでも駄目なら日を改めるか買うかしたら?」
「そうだね。雨であまり進めない日もあるから…、満足するまでいるわけにもいかないしね。あと少し探して、取れなければ買おうか」
みんな割と固まって探していたが、適度にバラけてまた貝を探す。
そして、潮が満ちてきたので潮干狩りを終わったのだが…。
「わーい!僕とマーズくんが一番たくさん取れた!」
「えへへ。カールくん、凄く頑張ったもんね」
「マーズくんも頑張ったよ!はまぐりは一つあるとその周りにたくさんいるって優さまに教えてもらったから、一つあったところを二人でたくさん掘ったよね!」
「二人とも、頑張ってくれてありがとう!料理は私が頑張るからね」
「うん!楽しみにしてる!」
カールくんとマーズくんのおかげで、結果は上々だった。
◇
浜辺であさりもはまぐりも、前にもしたかちかちして音の高いのを確かめる。それで残ったのだけでも相当の量。カールくんとマーズくんに感謝だね。
功労者二人の好きな調理にしよう。
「カールくん、マーズくん。どんな食べ方したい?」
「スパゲッティに入ってた、赤い方でしょー」
「焼いたのも美味しかったから、焼いたのも食べたいな」
「他は…。んーと、今まで食べたの全部!」
「そうだね!色々!」
「色々ね。分かった」
スパゲティーの赤いのであさりの入ったのとは、ボンゴレ・ロッソだろう。なのでボンゴレ・ロッソと。あさりとはまぐりの酒蒸しとワイン蒸しに。焼いたのとは、はまぐりのバター焼きの事だろう。普通のも食べたいから、普通のもして。はまぐりのはましゃぶと、それから…。
今日はパスタ以外たいして手間もかからないので、一人でキッチンに立っている。左右をカールくんとマーズくんが固めてるけどね。
パスタに使う海水は薄めてちょうど良かったので、今回もちょっと薄めてっと。
「今日のパスタは海水で茹でるんだね!しない日もあるのに、どうして?」
「日本でさ、海水で茹でると美味しいって聞いた事があって試してるの」
ただの興味本位だ。何より海の近くにいないと出来ない事は、家に帰るとできないからね。
カールくんによれば、「どっちも美味しいから、どっちも好き!」だそうだ。
◇
さてさて、パスタ。塩を入れず茹でたのと、塩を入れたのでは食感が変わる。量によっても変わる。塩が少ないと、アルデンテにはならないだよね。
「うん、こんなもん」
パスタを一本ずつカールくんとマーズくんにも食べてもらう。横に張り付いてるからね。
「ちょっと芯が残ってるのは、炒めてちょうど良くなるんだよ」
「だから優さまの茹でたのは、今はふにゃふにゃしてないんだね!」
話しながらトマトの皮を湯剥き。あさりを白ワインで蒸し、あさりを取り出したスープの中にトマトを軽く握り潰して投入。
ホールトマトがあれば、ホールトマトの方が味はしっかりする。ここにはないので生のトマトを使っているが、私は生のトマトの方が好きかな。
トマトの皮を湯剥きしてるのは、こちらのは皮がちょっと厚くて硬いため。皮を剥かないと、凄く口に残るんだよね。
◇
かなりの味見をしつつ、パスタが完成。後は外で、バーベキューコンロで焼きながらみんなで食事だ。
「んー、美味しい」
今日は王宮の料理人さん達に見られながら作る事も、一緒に食事する事もなくて味がちゃんと分かる。
「うん!赤いパスタ美味しいよ!」
「美味しい、美味しい。あさりの味がして、トマトの味がして…!」
ナポリタンは中濃ソースなどのソース類がなく、いまいち不人気だった。だがもともとロッソにはソースを入れないので、味が決まっているからかとても人気だ。
「はあ、本当に。冬の保存食のパスタが、こんなに美味しいものだったなんてねえ」
「姉さん、あさりも美味しいからだよ!酒蒸しもワイン蒸しも、手が止まらなくなる!」
「これが旧王都に戻ったら、食べれなくなるなんて…」
「海にいる間に、しっかり食べて覚えておかないとね!」
魚は〆れば無限収納に入れれるが、貝はそうはいかない。私もしっかり味わっておこう。
「俺はこっちのはまぐりのしゃぶしゃぶ。また食べたい」
バーベキューコンロに鍋をかけてしているはまぐりのしゃぶしゃぶを突いていたユリシーズさん。かなりお気に召したようだ。
「海老なら水がなくてもしばらく生きてるんだけどね。貝や魚は海沿いを離れる前に、また食べよう」
大きな焼きはまぐりを飲み込み、そう答える。
「冷製トマトパスタ?だったかしら?あれも美味しかったわ。
あれならどこででも食べられるわね」
フルーツトマトがなく、代わりに黒っぽいがとても甘いトマトを使って作った事があったのだ。色が黒っぽいので見た目は少々悪い。だが、味はとても良かった。
「それにしても思うんだがね…」
「あたし達、優さんの作るご飯に慣れてしまったから」
「毎日、前のご飯で過ごせるか心配だわ…」
「…覚えたのは頑張るよ…」
あはは…。ずいぶん長くお世話になって、その間は私が作ったご飯食べてたもんね。
「良ければたまに、ご飯食べに家に来て下さい」
旧王都への帰路が半分を過ぎたあたりから、たまにこういった類の話しになる。
いつかはみんなとの旅も終わるんだと、ちょっと淋しくなるのは私も同じだった。
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