59:スキルアップ
「あっつーい…」
ぶるるん?
暑さに弱い馬のアークは、「そうか?」とでも言うように鳴く。
同じく、暑さに弱い狼のクーとルーはバテ気味。キャンピングカーの中で大人しくしている。
「優さんは本当に暑がりだね」
「うん、暑いの苦手ー…」
「日本では夏バテ防止にうなぎを食べるんだったかね?ブル・マーリンはうなぎも有名だから、たくさん食べな」
この世界のうなぎは夏が旬なのかな?
日本では土用の丑の日の影響か、夏が旬だと思われている。うなぎの旬は秋から冬だ。冬眠に備えて脂肪を蓄えるので、この時期が旬だ。
夏の土用の丑の日には「う」のつくものを食べていたのが、いつからか旬ではないうなぎも食べられるようになったと記憶している。
穴子なら、旬は夏とも冬の方が美味しいとも意見が別れているらしいので今食べても良さそうだが…。
自然薯。いや、自然薯は日本の原産の種を指すから、山芋の方が合ってるかな?ご飯にかけてするするっと食べたいな。今なら春堀りの時期のはず。
◇
「あったーっ。山芋ー!」
青く美しい町、ブル・マーリンで山芋を頭上に掲げ、叫んでしまった。
「そ、そんなに嬉しいものかい?」
「嬉しいです!大好きなんですよ!」
こっちの米で試した事はないけどさ。ご飯炊くときに日本酒と、ほんの少し塩入れて炊いたら日本で食べてた米の味に近くなるかな?ご飯を美味しくする裏ワザみたいな方法なんだ。
砂糖も入れる方もあるそうだけど、砂糖はなくていいや。
それとも両方してみて、より美味しいのはどっちになるか試してみるか。
「優さん?アカザさんはうなぎをって言ってたのが、どうして山芋になったの?」
「ああ。日本と旬が同じなら、旬は冬だからだよ。
だから日本と同じなら、そろそろ春堀りの山芋が出回ってるならつるっと食べれていいなって思ったんだ」
話しながらも頭の中は、黄身おろしも食べたいとか、しらすはあるのかなとか、そんな事ばかり考えている。
みんなでわいわい言いながら、夜ご飯の食材を買っていく。
穴子の白焼き、生の青魚、いか、たこ。
新鮮な卵も買った〜。無限収納にまだ大根があったはずだから、これで黄身おろしも食べれる。
ふふふふ。晩ごはんが楽しみ♪
◇
「はーい、親指と人差し指で輪を作って。輪を覚えたままペンを挟んで…。そうそう。中指の爪の生え際を添える…。うん、そう」
さて。最近毎日カールくんとマーズくんに教えている日課がある。
みんなある程度文字が書ける。だから、きれいな文字が書ければそれも役に立つかもって事で、ペンの持ち方を教えている。
つけペンっていうのがあって、これが普及し始めてるらしいんだ。見てみたら万年筆っぽいので、万年筆の持ち方を教えているよ。
「ペンの上の方は、親指と人差し指のまたの所へ乗せて…。ペン先にある穴が上向いてるか確認ね。
脇は軽く締めてるかな?
縦線は人差し指、横線は親指、下から上の動きは中指意識して…、親指と人差し指の輪を潰さないようにね。
はい、始めて」
これにユリシーズさんも参加している。悪筆が悩みなんだって。ユリシーズさんは鉛筆の芯だけの鉛筆だ。
「ユリシーズさんも中指の所までは同じで…。脇は軽く締めて。
ペンの上の方は、人差し指の第二関節で支えるつもりで…。もう少し立てて。そのくらい。
小指の骨からずーっと下りて、手首の所にある骨を軽く紙に当てて。もうちょっとだけ、親指の方へ手を傾けて…。
中指がさっき動かした時にズレたみたい。うん、そう。
指先に少し隙間開いてる?うん、始めて下さい」
みんな縦線、横線、丸を書いてから、こちらのアルファベットみたいな文字の練習に移る。
練習始めて一週間だが、3人ともかなりきれいな文字になった。
「カールくん、力が入り過ぎだね。書けないのは、インクがもうペン先にないみたいだよ?」
ちょんちょん。かりかりかり…。
「ユリシーズさん、ペンの上が倒れ過ぎになってる」
にょき。こつこつ、こつ……。
「マーズくん、脇がゆるんでるよ」
きゅ。かりかり、しゅる、かり…。
みんな持ち方に慣れて、早く書けるようになってきてる。
「できたっ!」
「僕も、できた」
「俺も終わった」
「見せて?
うん。ほら、みんな一日目よりきれいな文字になってるよ。凄い良くなってる。
明日からは個人で練習続けてね。持ち方とか不安になったら、いつでも聞いて」
ここまでくれば、たくさん練習して体で覚えるだけだと思う。
「うん!」
「はい!」
こくり。
「じゃあ今日はもう終わりだよ」
そう言うとカールくんとマーズくんは、ありがとうございました!と言って、使った物を片付けて外へ飛び出して行った。
ユリシーズさんはありがとうと言うと、まだそのまま座っている。
「ちょっと休憩してから晩ごはん作りましょう」
「分かった。何か飲む?」
「冷たい麦茶をお願いしようかな」
ここしばらく、ユリシーズさんはあれこれ新しい事をやり始めている。文字の練習もそうだが、料理も覚え始めたんだ。
どうしたんだろう?
◇
「キャベツは切りたい葉の根本に包丁入れて、そこから葉に水をためる感じで自然に剥けるように剥いて。葉先からベリベリ剥かないで。
生で食べて美味しいのは、葉に水がついてる次の葉から」
今日はリラさんの希望で、私のキャベツの千切りの仕方を詳しく説明。
「生で食べれる葉の、この太いのはきれいに取る。包丁を下へ押すように切ると繊維が潰れるから、必ず奥へ刃を動かしながら切って」
「それも関係あるの?」
「そうだよ。ふわふわにするなら守ってね」
教えながら作るので、早めに支度に取り掛かっている。
「筋の向きを揃えて、2枚か3枚重ねてふわっと巻くでしょ。キツく巻くと、やっぱり繊維が潰れるから気を付けて。
巻けたら筋とまな板が平行になるように置いて、押しながら切る」
トン、トン、トン。
「ほわっ、やっぱり優さんがすると細いねー!」
「日本の父が料理に凝った時、一緒にかなり練習したからね」
「ツヨシさまも料理できるし、日本の男性はみんな料理が上手なの?」
「男性に限らず、人によるよ。出来る人は出来るし、苦手な人は苦手」
「じゃ、ツヨシさまが料理できるのも、優さんのお父さんが料理できるのもたまたまなんだ。
みんな出来るのかと思っちゃってた」
「たまたまだよ。うちの兄達は、料理出来る人と出来ない人だよ」
長兄は下拵えは出来るが、味付けが壊滅的だ。
次兄は自活しても困らない程度には出来る。
「後はそうだな…。あ、山芋。
端から2センチか3センチくらい皮を残しておいて、擦り下ろす時にそこ持つんだ。つるつるしにくくて擦り下ろし易いよ」
「そうなの?!今まで全部剥いてたから、手が滑って何回か指まで擦った事があるー」
「あるあるだよね。
細かいやり方はこれくらいにして、そろそろさくっと晩ごはん作ろうか」
「はーい!」
「分かった」
こうして今夜の晩ごはんも、ユリシーズさんのまだおぼつかないカットと、リラさんのいつもよりちょっと上手なカットのミックスになった美味しい物が食卓に並んだ。
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