58:祭り
「さあ、行きましょう」
「ああ、進もうかね」
依頼が出された村まで戻り、参加した手続きや報酬の受け取りをすませた。
ただ立ち止まったならまだしも、少し引き返しているしかなり時間をロスした。しばらくアークに頑張ってもらわないとな。
「アーク、大変だろうけどお願いするね」
ひひんっと鳴き、アークは答えてくれた。
マーズくんはカールくんについて、馬の御し方を覚えつつある。御者はそんな二人に任せ、キャンピングカーへ乗り込むと出発だ。
ファフロットスカイズから三日目、ブル・マーリンまであと少しの小さな町についた。何だか町が浮ついている。
「この町独自のお祭りなんですか?」
「そうなんだ!時間があれば楽しんで行ってくれ!」
道行く方に何かあるのかお尋ねしたら、もうすぐ解禁になる漁の豊漁を願うお祭りだと教えて下さった。
「お祭り、楽しんでから行きましょう!」
「良いのかい?」
「もちろん!行きましょう」
◇
「わー!優さま、不思議な服だね!」
「本当に、変わったワンピースだね」
今着ているのは浴衣だ。旧王都には夏祭りというものがなく、去年は着る機会がなかった。
ミシンでお父さんのと自分のを作って、夏祭りを楽しみにしていたのに日の目を見なかったんだよね。
「これは日本の民族衣装で、浴衣っていうんだ」
祖父母の暮らす町では、浴衣の祭りがある。祭りは毎年決まった日時の三日間あり、休みに当たっていれば行っていた。浴衣はその祭りに人と被らない柄を着て行きたくて、かつ安く手に入れようと反物を購入。祖母に縫い方も着付けも教わった。
祭りつながりで。秋の奇祭と言われているお祭りも、休みに当たっていれば行っていた。こちらの祭りも、毎年決まった日時のニ日間だ。父曰く、「正月には帰らないが、祭りに帰るもんだ」というほど地元の方はその祭りが好きだ。
いや、正月も帰ってたけどさ。
そんな祭り好きの血のためか、祭りはとても好きだ。絶対行きたい。
◇
「優さま!あれ食べたい!」
「マーズくんも食べる?」
気兼ねして、マーズくんは自分から食べたいとは言わない。だからこうして聞いたり、食べたいんだなと分かる物は勝手に買って渡している。
「こ…、これも食べて良いの?」
「カールくんと御者してくれたり、お手伝いしてくれてるんだから。当たり前だよ」
お小遣いも渡してあるが、それも受け取ろうとはしなかったんだよね。だから渡してても使わない。よって買って渡す。
◇
朝、海の神さまに豊漁を願う儀式があったそうだ。その後は夜まで賑やかなのがお好きな神さまに楽しんで頂こうと、あちらこちらで大道芸や芝居なんかが行われていてとても賑わっている。
人酔いと喉の微かな痛みで休んでいると、女の子達にとても声を掛けられる。
「いきなりすみません。
何度か練習したんですけど、簪で上手く髪がまとめられなかったんです。
上手にされてますが、どうやってされてるんですか?教えて下さい」
今日は私もアカザさん達女性陣も全員、簪でのまとめ髪だ。さらに私が浴衣姿な事もあって、あちらこちらで噂になっているそうな。
「今、簪はある?してあげる」
こんな感じで何人か簪をして下さいとやって来た。もう簪は出回っているようだ。
後でローニーさんとサイラさんに怒られたくないので、ちゃんと登録したよ。
手作り蜜蝋ワックスを作る以前は、オリーブオイルで髪をまとめていた。それで髪を少しまとめ、簪を挿す。
「誰か護衛に残って、みんなお祭りを楽しんで来て下さい」
ユリシーズさんはもう人混みは入らなくていいなら入りたくないって。それでユリシーズさんが護衛に残り、他のみんなはお祭りの喧騒の中に消えていった。
ここにいなければ、アークを預けた宿屋で合流とも決めたよ。
それにぱらぱらだが人が途切れず来るのと、マーズくんも別々の方が気楽かもしれないしね。
◇
「人がもう来ないね。晩ごはん代わりの屋台料理、ちょっと食べ歩く?」
「そうだな。腹拵えするか」
綿麻の布がなく、麻100%の生地で浴衣を作った。浴衣用ではないからかチクチクするため、下に長めのキャミワンピを着込んでいて暑い。扇子で煽ぎながら並んで歩く。
「浴衣っていうのと、そのシンプルな扇子。良く合うな」
「ありがとう」
この国にあるのは貴族の女性が使う、華やかで装飾も多い物だ。浴衣に合うイメージの物は見かけない。
私はいつもは百円の物を使っているが、今日は反物を買った店で買ったちょっと良い物を使っている。群青色の濃淡の地に、白で花と枝のあっさりした柄の物。一目惚れした品だ。
なぜ二本も持っているのか?
冬でも建物や乗り物に入ったら暑いので常備していたが、壊れて困った事があったからだよ。
暑がりの私には、どこもかしこも暖房が効きすぎている。
「暑ければこれ使う?」
もう一本はピンク系の地に桜柄だ。それを知っているユリシーズさんは、これなら借りるって。
二人で扇子で涼をとりながら歩くので、さらに注目を浴びる。
気にせず美味しそうな物を食べ歩く。
「これ美味しい。何の肉かな?」
「たぶん鳩」
「これはさっきと味が違うね」
「これは七面鳥かな?」
ブル・マーリンで魚介類を美味しく食べるべく、魚介類以外の物を色々食べてまわった。
お父さんが登録して、色々種類が増えたというバーガーも食べた。
「うんー???食べ慣れない味…。くじらとか?」
「いや、あんな大きな物が捕れるところまで滅多に船が出せないから。トドかアザラシの肉だよ」
トドやアザラシも食べれるんだ?!知らなかった!
「師匠、それは辞めとけ」
「何で?」
「……………。
へび類の肉だから」
この一言で、アークを預けてある宿屋まで飛んで逃げたのは言う間でもない。
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