57:自然の贈り物
「今日も雨かぁ…」
「週の半分は雨の時期だからねぇ」
この地方では4月は週の半分は雨が降る時期なのだそうだ。日本の寒の戻りにもあたるようで、とても冷え込んでいる。これも例年の事らしい。
来る時と同じく、週2日休みながら進む。だから、ある程度は休みを振り替えれば予定に遅れはそこまで出ない。
ただ暇なだけだ。
〘ユウー〙
〘結界張るのー〙
のんびりしていたのが、何か敵が来るのかとアカザさん達に一気に緊張が走る。
ばち…っ。ばちっ。
ばちばちばちっ。
「うわ?!何て大きな…雹?!」
降ってきたのは男性の握り拳くらいありそうな大きな雹。驚いてぽかんとしてしまった。その時だ。
びたんっ、びたっ、ばちんっ。
「え?今度は何?!って魚…???」
空から魚?もしや、ファフロットスカイズ?地面に落ちたそれは間違いようもなく魚。魚が一種類だけと雹しか落ちてこないから、たぶんそう。
まだ生きている魚はびちびちと、やたら活きが良いのが気持ち悪い…。
「ああ、今年は大外れだねえ」
「ま、毎年あるんですか?」
「まさか、何年かに一度だよ。
そんなに広い範囲に落ちないが、掃除が大変なんだよ」
放置してて腐ったら、臭いが凄そうだもんね。道も通りにくい。
「ギルドから強制依頼が来るな…」
アカザさん達はげんなりした顔になってしまった。
ははは。これを片付けるとなると、げんなりもするか…。
◇
「無限収納」
とてとてとてとて。
「無限収納」
とてとてと…。
さっきから無限収納を連発しながら街道を歩いている。半径2メートル程度の中に落ちている死んだ魚は、これで回収して進んでいてかなり捗っている。それでも何せ数が多い。なかなか終わりが見えないのが苦痛。
アカザさん達もユリシーズさんも、冒険者ギルドから魚の回収の強制依頼。私は商業者ギルドから強制依頼だ。伝達は水晶みたいなギルド員証から流れた。
とりあえず、道に落ちている魚を全部回収するようにとの事だ。魚は3キロ×2キロくらいの楕円形の範囲に落ちているようだとの事。
この辺りが管轄地域のギルドの方からも人が来たのが見えた。これでさらに捗るな。
「ご苦労さまです。
街道の西の端からここまでの魚は回収が終わりました」
「お疲れさまです。え?!もうですか?」
ギルドの制服姿の方に声をかけると、とても驚かれた。
「無限収納。こうやって進んで来ました」
後ろで生きているのはアカザさん達が木の先を削った棒で突いて殺し、前へ放り投げてくれる。それを次の無限収納で回収するのだ。一匹ずつ拾うより効率的。後、腰が楽だからこの方法にした。
ギルドの職員さんはさらに驚いて固まってしまった。
「も、もしやオオシロ方伯さまでしょうか?」
嘘をついてもギルド証でバレる。はあ。
「そうです」
◇
「オオシロ方伯さま、ありがとうございました。おかげでとても早く終わりました」
「いえいえ。私もギルドの一員なんですから当然です」
貴族にそんな事はさせられないと叫ばれたが、これを見てみぬふりが出来ないよ。
みんなで街道脇に落ちてる魚も回収して、最後にまとめて火魔法で焼却処分した。
ギルドから来られた人達は、荷馬車に魚を放り込む。荷馬車が一杯になったら適当な場所で燃やす。これを繰り返して進んで来たそうだ。
「今回は範囲が広めでしたが、一日で終われるとは思いませんでした。
本当にありがとうございます」
転移者が来ると、あるいは来る時はこの世界のバランスの何かが崩れるのかな?だから範囲が広かったとか?
「オオシロ方伯さま?」
「ああ、何でもありません。みなさんはこれからどうするんですか?」
「もう夜になりますので、ここで一泊ですね」
「泊まりなんですね。本当にご苦労さまです」
雨は作業にかかって割とすぐに止んだので、雨ではさほど濡れていない。だから動いているうちに体はまあまあ温まった。
だが、一日魚の回収をしていたので体も服も生臭くなっている。みんなお風呂に入れたらさっぱりするだろう。
◇
「お風呂が終わったら人から来て下さいねー」
今日何本目かのマジックハイポーションを飲み、土魔法で男湯と女湯を作った。もちろん小屋型だ。
キャンピングカーを男湯と女湯の区切りとして停めてある。そのキャンピングカーと20フィートのコンテナハウスで男湯側にさらに区切りを設け、食事スペースを作った。
無限収納で過剰在庫になっている肉類を放出して、バーベキューをみんなで頂く。
晴れた日は馬の後ろを走っているクーとルーが、たまに近くにいる獲物を狩るんで貯まるんだよね。
飲み物はあちらこちらの産地で買った、赤と白のワインも樽を一つずつ放出。ブランデーは酔っ払う人が出ると困るので、それは出さない。
野菜は少ないけど、たまの一度くらい大丈夫でしょ。
肉を切るのを手伝って下さる方や、水分分離乾燥法が出来る方は洗われた服を預かって乾燥させて下さったりしている。作業が一日で終わり、みんなとても和やかで楽しそうだ。
「オオシロ方伯さま、何から何までありがとうございます」
「出来る事でしてあげたい事をしてるだけだから。気にしないで」
「気にしますよ!こんなに良くしてくれる方はいませんよ!」
「食事やエールの寄贈はまだたまにありますけど、お風呂、気持ち良かったです」
「そうだぜ!雨にも濡れたし、魚臭くてしかたなかったが助かったぜ!」
まわりで手伝って下さっている方達も、口々にお礼を言って下さる。
へへ。こそばゆいな。
◇
ある程度の人がお風呂をすませたら、みんなの寝場所を確保だ。
「師匠、手伝うよ」
「僕達も手伝うよ!ね!マーズ兄ちゃん」
「うん、お手伝いするよ!」
「みんな、ありがとう」
キャンピングカーはいつの間にか、ダイニングのソファーベッドは用意されていた。アカザさん達がして下さったそうだ。ありがとうございます。
私は40フィートのコンテナハウスとキャンピングカーの間にハンモックを3つ設置。ユリシーズさんは40フィートのコンテナハウスと20フィートのコンテナハウスの間にコットを6つ設置。カールくんとマーズくんは、二人で2つのコンテナハウスのすのこベッドを全部並べてもらう。
これでテント泊希望の方達以外はみんな結界の中で、ある程度ゆとりを持って眠れる計算だ。
「みんな、ありがとう。早く用意が終わって助かった」
3人ともどういたしましてと言って、食事やお風呂に入りに散って行った。私も軽く汗は流しただけなので、お風呂に入ってすぐにキャンピングカーで眠った。
他の人達も似たりよったりのタイミングで寝始める。こちらの世界の人達が寝る時間帯だったのだ。寝る場所は予め伝えてあったので、先に寝ても問題なかった。
◇
「凄い…。なんて緑閃光」
写真や動画で見た、地球の物とは丸で違う。夕焼けをそのまま緑にしたような、辺りが緑に染まる程の緑閃光に目を奪われる。
疲れ過ぎたのか、朝早く目覚めた。それで緑の光が窓から射し込んでいるのに気付いて外へ出たのだ。
そのおかげで、こんなに素晴らしい自然の贈り物を見れた。
「昨日頑張ったご褒美かな」
クーとルーと一緒に、緑閃光がいつもの朝日に変わるまでずっとその光を見つめた。
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