56:王家御用達
バーベキューが終わると、料理人さん達からあれこれ質問された。
海水を使ったのはどうしてだとか、巻き貝は火にかけ、沸騰したら早々と火を止めていたがそれはどうしてだとか、パスタは水ではなく塩水で茹でる物なのかとか…。
私が答えると、木簡に書き留めておられた。
いつかのコットの時を思い出すな。
そうこうしていると、キナル王子の一行とともに、キャンピングカーさくら号もダカルヤナさんの商会に到着した。
「キナル王子、ここまでありがとうございました。
明日は本当に、ご一緒に日本食食材の買い物をなさるんですか?」
「ここでしか手に入らない物もあるのだろう?
キャンピングカーで来たから料理人がいるし、扱えるような食材なら買いたいからね」
それは、キナル王子はおられなくても良いと思うのだが?まあ余計な事は口を出さないでおこう。
「優嬢、それではまた明日」
キナル王子も今回は正式な公務の間のためか、ハグもとてもあっさりしている。
キナル王子のキャンピングカーを降り、みんなでお見送りした。
◇
翌日、約束の時間よりわずかに早い時間にキナル王子達はダカルヤナさんの商会に到着されたよ。
挨拶がすむと、さっそくダカルヤナさんが案内して下さる。
「今回日本酒は、仕入れをかなり増やしました。種類も四種類になっております」
「日本酒はとても美味しかった。これは是非欲しいね」
「確か、料理にも使うのでございましたね」
「昨日、あさりを白ワインで蒸しましたが日本酒でも蒸せます。色々使います」
「焼酎も大城つよしさまのご要望で、種類を増やして取り揃えてございますよ」
「焼酎も味わい深かったお酒だね。これは父王陛下も兄上も好まれる種類だと思う」
「こちらも料理に使えるお酒でございましょうか?」
「残念ながら、私も呑む以外は知らないんです。日本酒の代わりに使う事もしないので、専ら呑むだけのお酒になりますね」
「こちらはオオシロ方伯さまのご依頼の品。荒節になります」
「これは…、見ただろうか?」
「削った物は見た事があられます。ほとんどが出汁として使ってますから、回数は少ないですね。
おひたしやお好み焼きにかけたり、しょう油をかけてご飯のおかずにする事がありますが…。
毎日食卓に上がる使い方をしてないので、あまりお目に入る事はありませんでした」
「出汁に使うのであれば、量は必要となりましょうか?」
「そうなりますね。
荒節に限らず、削る前の鰹節は節と言います。これを削って削節にして使います」
そこで商会の方が節を削って見せて下さった。
「ああ、このひらひらした物は見たね。元はこんな枯れ木のような形なのだね」
「そうですね、枯れ木にも見えるかも知れません」
日本でも昔、ごぼうを知らない方達に木の根と間違われたそうだしな。節と知らなければ、枯れ木に見えるのかも知れない。
商品は、他ににがりや小豆にきな粉、もち米など。量は少ないが、前回はなかったものも増えていた。
ヤーン商会で買い物をする時ほど、お金がたくさんあって良かったと思う事はない。
日本酒やもち米など、一部の商品はキナル王子と私で買占めとなってしまったのは許してね。
私はここでしか買えない物は買っておきたいし、キナル王子の方も催事で使うとなると量が必要になるから買占めって形になってしまったんだよ。
◇
それにしても、日本人転移者の多くはこの国に来てるんだよ?なぜ食材は別大陸の方が豊富なんだ?!
気候が合わないとか、土が合わなくて育たないのかな?この国で作物だけでも収穫できたら良いのにな…。
そんな事を考えながら、キナル王子のキャンピングカーで腕を振るう。
料理人さん達に、鰹節や昆布の出汁の取り方といった和食の基本から見て頂くためだ。
王宮の料理人さんに教えるなどと、烏滸がましいにも程があるけどね。
お父さんが登録しているレシピを見ても、今一つ上手く作れないそうなのだ。なら、見てやって覚えて頂くしかなくて、ご要望をお断り出来なかった。
例えば英語に訳せない日本語っていうのがある。
そのため、伝えたい事が伝わりきっていないのかも知れないと思い至ったのも断らなかった理由だ。
せっかく広がるなら、お父さんや私の知っているニホンショクの味で広がって欲しいしね。
◇
「なるほど、これはこうするものだったのか…!」
「ここが違ったのですね…!」
昨日もそうだったが、やはり伝わりきっていない部分がけっこうあったようだ。
そのため昨日よりかなり細かく説明しながら料理をしているが、とても喜んで下さった。分からない所は遠慮なく聞いて下さいともお伝えしてある。
この時間は、私がこちらの料理方法を知る貴重な時間にもなった。
「これで会席料理と呼ばれる、和食のフルコースが二通り出来ました」
キナル王子が少しづつ、色々食べたいと仰ったのだ。おかけで手間暇かかったわ。
内容は、私の料理の腕なのでそれなりだよ。焼き物には焼き物、蒸し物には蒸し物を当てはめてある程度だ。
キナル王子の指示で、料理人さん達と私も同じテーブルで食事を摂る。
「おや?前に同じ物を食べた時より、今日は美味しいね」
「いつもは家庭料理ですから。今日は可能な限り、とても丁寧に出汁取りからしました」
「ふむ。私はいつもの料理の方が好きだな」
「王宮の料理人さん達に、それではどうかと…」
キナル王子はゆるゆる首を振る。
「父上も母上も、みなツヨシの作る普通の味に親しんでいる。
そして普通の料理でも、とても美味しいからね。それで満足だよ」
そっか。言われてみればそうだな。
「だから、この我が国の料理とは全く違う繊細な盛りつけの食事は、味わって頂こうか」
「はい。今回限りの会席料理です。いただきます」
ちょっと空振りもしたが、料理人さん達が正しく和食の取っ掛かりを掴めた。
その為、日本酒など他での取り扱いのない商品は、ヤーン商会が王室御用達となったよ。
キナル王子一行とはここで別れ、私達は先に進む。次の楽しみはブル・マーリンだ。
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