55:思わぬ再会
「しばらくでしたがお世話になりました。ありがとうございました。
また来れれば来ますが、みなさんお元気で」
「優さんこそ元気でね!気を付けて帰るんだよ」
「嬢ちゃん、元気での!本当に気を付けて帰るんじゃぞ!」
「優さま、お世話になりました。マーズを宜しくお願いします」
「はい。ちゃんと無事に一緒に旧王都に着きます。安心してお任せ下さい」
多くの方達に見送られ、私達は来る時も通ったヤーン商会を目指す。
「わあ!本当にこのまま動いてる!それに荷馬車みたいに揺れないなんて!」
「揺れにくくする部品を使ってるんだって!」
マーズくんとカールくんは一つしか歳が違わないせいか、すっかり仲良しだ。
さて、そんな二人にほっこりしつつ。ヤーン商会を目指しているのは、和食の食材があれば補給しておきたい!!
それと同じくらい魚介類を食べたい!!
旧王都よりカロリン村は魚の幸が手に入り易いが、それでも食べたい時に食べれる程ではなかったんだよね。そのため、またもや魚介類食べたい症候群を発症している。
ルブランでは海水で茹でたボンゴレ2種類。浜辺で取った巻き貝系を、その海の海水で茹でた物とか色々食べるんだ〜。
そんな私の希望が天に通ったのか、すんなりルブランに到着出来たのは幸い!
◇
「優嬢!久しぶりだね。良く顔を見せておくれ」
「キナル王子?!」
みんなで潮干狩りや釣りをしようと、前にキャンピングカーを停めて活動するのに良さそうだと思っていたポイントでごそごそしていた時だ。
西から近づいてくる、豪奢な一台のキャンピングカーがあった。あんな仕様のキャンピングカーってあったっけ?周りにきらびやかな衣装の人も多いな、などと思っていたら…。
皇太子殿下が体調を崩され、急遽キナル王子が皇太子殿下が視察なさるはずだったこちら方面でなさる予定の政務を代わられると電話でお聞きしていたけどさ。それってまだ少し先じゃなかった?
いや、それよりだな…。顔が赤くなって仕方ないよ。前に腰に抱きつかれたり、ハグされたり…。色々思い出してしまった。
「その様子だと、私を男性として認識してもらえたようだね」
キナル王子は少し耳を赤く染めながら、そんな事を仰る。
「貴女は自分の事も、自分以外の事も性別なく"人"として認識しているようだったからね。
先ずは男性として認識してもらえたなら、少し進めたと思えるよ」
そのためかーっ?!ベッドに忍び込んだり、挨拶のハグじゃないよな?ってハグがあったのは。
「今日は髪を上げて、とても涼やかだね。良く似合っているよ」
「ありがとうございます。暑がりなので、今から色々するにもまとめている方が動きやすいんです」
「浜辺で何をするんだい?」
「潮干狩りと釣りです」
◇
「わあーっ!ずいぶん貝が取れましたね」
「そうなんだが、私も釣りというのをしたかったよ」
「投釣りは危ないんでさせません。前回はなかったけど、今回2回服に針がかかってヒヤッとしたんです。
本当に危ないんです」
今回は浜辺なので、どうしても投釣りになる。カールくんとマーズくんが一回ずつ、練習の時に針を引っ掛けたんだ。
しかし、これがもしキナル王子だったなら?それも肌に掛かったら?
想像するだけで恐いよ。
なので、参加したがったキナル王子には潮干狩りを楽しんで頂いた。
「大きくて立派なあさりを取って下さったから、美味しいパスタが食べれますよ。
私もこっちに来て初めて食べる種類のパスタなので、今日は立派なあさりが嬉しいです」
話をあさりに持って行って、釣りは忘れて頂こう。
「パスタとあさり?うん???」
「聞くより食べてもらった方が良いです。楽しみにしてて下さい」
◇
あさり同士を軽く打ち付け合い、高い音がする物だけを選別する。こうやってみて、高い音がするのは生きているのだ。
波の音でちょっと聞き取りにくいが、みんなでかちかちとやって音を確かめて選別。
それから海水を汲んでキャンピングカーに持ち込む。目の詰まったさらしがわりの生地で海水を濾して砂などを取り除く。
巻き貝系の貝は鍋にザルを入れ、その上に乗せて海水を投入。蓋をしたら準備完了。これで1時間から2時間放置。
ちょっと海水を舐めてみて、パスタを茹でる用は少し水で薄める。塩分が2.5%くらいを目指す。…うーん、たぶんこのくらい?
大人数になったので予定していた白ワインベースのボンゴレ・ビアンコ、トマトベースのボンゴレ・ロッソだけでは足りないだろう。追加でナポリタンとレモンパスタも作る。
これでも怪しいな。足りるかなあ?
鍋2つでナポリタンとレモンパスタ用のパスタから茹でていく。もちろん海水をちょっと薄めた物で。今回はこれがしたかったんだから。
外ではバーベキューの用意もしてもらっているよ。今回はロブスターみたいな甲殻類も取れてて、ちょっと楽しみ。
ちなみにキナル王子と近衛騎士のライヤーさん。他にもお二人、私の周りで料理の様子を見ておられる。キャンピングカーのキッチンなので、…狭い……。
狭いながら作業を進め、出来上がったナポリタンとレモンパスタは無限収納に保管しておく。
続けてボンゴレ・ビアンコとボンゴレ・ロッソを作る。これは塩分量とあさりのふっくら具合が肝。ポイントを押さえれば、とても美味しい一皿だ。
その一つがあさりの判別。塩加減は難しくても、あさりの判別はしっかりしてる。家なら塩抜きして、使う前に判別してた。
「パスタを海水で茹で、さらに味をつけるとは…。どんな料理になるのか…」
「巻き貝も鍋にザルを入れて、海水を使って弱火で火にかけて…。どんな仕上がりになるのか想像もつきません」
お二人は、キナル王子に随行していらっしゃる料理人さん達なのかな?料理の細々した点までの観察が厳しい気がする。
そうこうしていると、連絡していたダカルヤナさん親子も駆けつけて下さった。
キナル王子がおられ、とても驚かせてしまったのは申し訳ない。
◇
「これは、海水につけて火を通しただけでこれほど柔らかくなるものなのですか?!」
「昨日、最高級の物を使いましたが…、それより美味しいです!」
「パスタも味をつけると、とても美味しいね」
「ええ、しかもとても味が絡んでおりますね!」
「これは冬の保存食だけに留めるには惜しいね」
「はい!パスタに味付けするのは、是非広めませんと!」
「あさりのワイン蒸しも、なんて美味しいのでしょうか!」
「王家のみなさまが、日本人転移者さま達の料理を好まれるのが良く分かります」
「やっと分かってくれて嬉しいよ」
キナル王子と料理人さん達に囲まれ、楽しみにしていた味が良く分からない。ああ、またゆっくり作れる暇があるかなあ…。
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