54:マーズくんの受け入れ
3月が終わり、今日から4月だ。寺子屋の先生は昨日で終わり、今日からマーズくんも一緒に生活する。
キャンピングカーでの移動や生活に慣れてもらうためだ。
「あー、お昼ごはんはちょっと待ってね。暑いから髪まとめる」
無限収納を漁るが、簪に使えそうだと買っておいた銀の棒がない。おっかしいな…。
リュックに入れたかとリュックを取り出してごそごそする。
「優さま!なんか不思議なものが一杯入ったリュックだね!」
「ふわあ!ホントだね!」
「電気っていうエネルギーがもうなくて、使えないのも多いんだけどね」
二人にクリアファイルを一つずつあげると、とても喜んでくれた。
「あ、あった。リュックに入れてたんだ」
先が細くなってないので挿しにくいが、銀の細い棒を使って髪をまとめてしまう。ふう。首筋が涼しいわ。
「棒の一本で、きれいに髪がまとまるもんなんだね」
「日本で夜会巻きと言われていた髪型なら、簪もリボンも何もなくてもできますよ。ちょっとしてみましょうか?」
意外と知られていないようだが、夜会巻きはコームとかがなくてもできる。アカザさんの髪に少しワックスをつけ、夜会巻きにする。
「おお、これだけまとまると首に髪が貼りつかなくて良いね」
我もわれもというので、アカギさん達もみんな夜会巻きにしてあげたよ。この夏アカザさん達は練習して、夜会巻きの仕方を習得していた。
◇
「さてさて。お昼ご飯はー、レモンパスタ!」
少々遅くなったが、お昼ご飯を作ろう。
この国では冬の保存食として少量しか作られておらず、なかなか目に止まらず知らなかったがパスタがあった。地球のと少し違うが、パスタはパスタ。
地球で夏にたまに食べていた、レモンパスタを作る。さっぱりしていて、夏でもあっさり食べれるパスタだ。
カレーとかの香辛料辛い料理が苦手で、夏にカレーの日の私だけの夕飯だった。
「へえ、パスタとレモン?パスタに味をつけるの?」
横でアスパラベーコンを作っているリラさんが、不思議な料理を見る目をしている。もちろんマーズくんもだ。
カールくんはサラダにするレタスを切ってお手伝いしてくれている。
「さっぱりしてて、夏の食欲のない時にも良いですよ。
というか、パスタに味をつけないんですか?」
パスタはパンの代わりなので、茹でてそのまま食べるのだそうだ。味つけようよ…。
切れたレタスを受け取り、50度のお湯に晒す。しっかり晒して水を切り、今度は冷水に入れて冷ましてからしっかり水を切る。
このままハネムーンサラダにするか悩み、パスタ皿に盛り付けて、更に上からパスタを盛り付ける。余りは冷蔵庫にしまっておく。レタスは50度から60度のお湯に晒して冷水で冷やす処理をすると、変色もせずかなり長持ちするんで必ずする一手間だ。
最近は外で食事してもそこまで寒くないので、外にテーブルを出してゆったり座って食事している。
みんなで出来たレモンパスタやアスパラベーコン、パンや果実水なんかを運ぶ。
「マーズくん、ここではみんないただきますって言ってからご飯を食べるんだ。良ければ真似してくれるかな?」
「い、イタダキマス?」
「そう。じゃあ、いただきます」
レモンパスタはなかなか好評だった。そりゃ味付けもせず、茹でたそのままのパスタとは比べようもないさ。そろそろあさりの時期だし、ボンゴレやナポリタンなんかも作ってみようと思う。
◇
「お昼からは、用がなければ割と自由時間なんだ。
カールくんと一緒に遊んでも良いし、アカザさん達やユリシーズさんについて冒険者のノウハウを教わっても良いよ」
マーズくんはカールくんを誘って、ユリシーズさんに冒険者のノウハウを教わる事にしたようだ。
私はこの間に統括ギルドへ行き、自転車をニ台購入。開発されたので、取り寄せてもらっていたのだ。一台は教会へ寄付。乗れたら子供達の就職の役に立つかも知れないからね。これは明日持って行く。
久しぶりの自転車にまたがり、家路を急ぐ。乗り心地はまだまだだが、すぐに快適な乗り心地の物が出ると予想される。
ふと思い立ち、親方の工房へ寄った。
「かかかっ!このワシに髪飾りを作ってくれなんちゅうモンは、世界広しと言えども嬢ちゃんくらいじゃろうて!」
「すみません。親方なら気兼ねなくお願いできるもので」
「いやいや、それでかまわんのじゃわい。いつも旨い酒と肴と料理を馳走になっとるからの。それくらいは受けるとも」
親方は簡単な説明をして銀の棒をお渡しすると、ぱぱっと簪を5本作って下さった。
一本は片方は平たくして、お見せした桜のペンダントトップの桜をそこへ彫っても下さったんだが。
「凄い…。桜が緻密」
「鋸には銘を刻むからの。多少は彫物もできるわい」
「そっか。あれ?でも包丁には刻んでませんでしたよね?」
「包丁の依頼まで来たらかなわんわい。あれには彫っとらん」
「あっはは。凄い切れ味ですからね。あり得るかも」
お礼を言って夜にキャンピングカーでご飯の約束をして、親方とは別れた。
◇
〘ユウー!〙
〘ただいまなのーっ!〙
「クー、ルー、お帰り。ユリシーズさん達は?」
〘もうすぐ追いつくーっ〙×2
しばらくユリシーズさん達が来るのを待って合流した。みんなでキャンピングカーまで戻る。その道すがら、マーズくんは興奮した様子で色々話してくれた。
寺子屋でも何回か狩りの授業はしたが、今日はそれ以上に実りのある一日だったと大喜びだ。
一番はより実践に近い感じで狩りの体験が出来た事だって。
マーズくんは帰ってからはカールくんと馬のアークのお世話をしていた。
アークのお世話の後、カールくんと一緒にお風呂に入ってお風呂の使い方を教わってもらったよ。もちろんとても驚いていた。
「優さま!お風呂って凄いね!温かい水で体をキレイにできて、とっても気持ち良いね!」
「そうでしょ?ここにいる間は毎日入って、体をきれいにするんだよ」
髪がまだまだびしょびしょのため、頭を拭きながら聞く。その他にも色々話してくれた。
「ご飯もね!知らない美味しい物ばっかり!」
「あはは、私がこの世界の料理をほとんど知らないからね」
話しを聞きながら、ブライン液に漬けておいた肉の調理を始める。塩と砂糖と水を合わせただけの物だが、お肉がしっとり柔らかくなるんだ。
思い出してからは、必ずこれをしてからお肉は調理している。パサつく系の肉は特にこれをしないと、みんなあれって顔をするようになった。
「それでね、それでね!」
「マーズ、師匠は夕飯の支度してくれてるから。少し待って後で聞いてもらえ」
「あ、ユリシーズさん!あのね」
マーズくんの興奮ぶりは、この後2日ほど続いた。
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