表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/85

53:心の帰る準備

「じゃあ一緒に(きゅう)王都(おうと)まで行こうね」


「はい、宜しくお願いします!」


 寺子屋(てらこや)の授業の後。

 この春の誕生日で15歳になり、孤児院(こじいん)を出る男の子、マーズくんが行きたい町や村を通るなら一緒に行くか聞いてみたのだ。

 マーズくんは(きゅう)王都(おうと)まで行くつもりだったらしく、(わた)りに船だろう。


 そう。私達は来月には(きゅう)王都(おうと)へ向けて帰る。


「本当に(きゅう)王都(おうと)へお帰りになられるんですね。(さみ)しくなります」


「キャンピングカーを返さないといけませんし、約束ですから」


 愛用(あいよう)のキャンピングカーさくら号は試作品(しさくひん)だ。返却(へんきゃく)条件(じょうけん)でお借りできている。


「後しばらくですが、宜しくお願いします」


 寺子屋(てらこや)の先生は3月いっぱいで終了。4月になると、帰り支度(じたく)を始める予定だ。3週間で着けるが何かあった時のため、4週間の時間を取っている。


 ◇


「ではあの家は買い取りますが、管理(かんり)だけすみませんが宜しくお願いします」


「分かりました〜。管理(かんり)費用(ひよう)先払(さきばら)いして下さったので助かります〜」


 統括(とうかつ)ギルドでお借りしている家の買取(かいとり)と、管理(かんり)手続(てつづ)きをすませる。


 なかなか来れないだろうが、あの玄関正面の窓から見える風景(ふうけい)。たまにあの風景(ふうけい)を見たくなったら、この村へ来ようと思うんだ。この村も好きになっているから、きっと来たくなるしね。


 ◇


「他にミシンを返すまでに()い終わらないと思う服はありませんか?」


返却(へんきゃく)までに終わらなきゃ手で()うさ」


「使い方が分からなくて使わなかったが、(ユウ)さんが使い方を教えてくれて良かったよ」


「そうそう。おかげで()い物の時間が()って助かったよ!」


 みんな足踏(あしぶ)みミシンがある間に、子供の一回り大きな服とか作ってたよ。村では明かりはろうそくが主流(しゅりゅう)で、夜の()い物は(つら)いからね。


「ニホンショクを教わったり、キャンピングカーで風邪(かぜ)の子供の面倒(めんどう)を見てくれたり…。

 帰っちまうのは(さみ)しいねえ…」


 終わりは始まりの後、みんなで料理を教わりに来られたんだ。いくつか作ったが、茶碗(ちゃわん)()しが一番人気(にんき)だったよね。


 ヒーリングで風邪(かぜ)はマシになったが、その後一日程度はぶり返さないように子供を(あず)かったんだ。(なつ)かしいな。

 心地(ここち)よくて帰りたがらなくて、それも良い思い出だ。


「毎年は来れないかも知れませんが、また来るつもりです。来たらまたお世話になりますね」


「本当かい?!」


「そりゃ嬉しいね!来れる時にまた来ておくれよ!」


 女性達とは料理とミシンを通して一気に仲良くなったな。パワフルで素朴(そぼく)で優しい人がほとんどで、気張(きば)らずに過ごせたのはこの女性達のおかげ。


 ◇


「いやー、本当に一日でこれだけ()れるとはなあ!」


「クー、ルー、ありがとな!」


 〘きゃん!〙


 〘きゅん!〙


「ほしい獲物をほしい時に()れるなんざ、(ユウ)とクー達がいるからだぜ!」


「おうよ!普通はボウズの日もあるってぇのによ!」


「この子達のおかげです。クー、ルー、いつもありがとう」


 ぐりぐりぐりっ。


「ちょっ!もうぐりぐりされると()け…っ、わっ」


「わっはは。まーたやってらぁ!」


 男性達とは()りと呑み会で仲良くなった。最近では親方も混じって呑む事もあるくらい飲み仲間も増えたな。

 男性達も気楽に付き合えて、良い人ばっかりなんだよね。


 ◇


 帰る日が近づくにつれ、お気に入りの窓辺(まどべ)からぼーっと外を(なが)める時間が増えた。


 まだどう暮らすのが最良か、答えが見付けられていないからだ。


 お父さんみたいに一つに(しぼ)った方が良いのか?

 あれこれ好きにしていて良いのか?


 そうしてぼーっとしていると、背中からふわりと毛布(もうふ)が掛けられて驚いた。


「あ、ユリシーズさん。毛布(もうふ)ありがとう」


「まだ冷える時期(じき)だから。日陰(ひかげ)でじっとしているなら温かくしろ」


 そう言って一旦(いったん)台所に入り、カシス入りの温かい紅茶を()れて持って来てくれた。私の最近のお気に入りの紅茶だ。


「あ、ありがとう」


 うんと(うなず)くと、今度はイスを持って来て少し後ろに陣取(じんど)るユリシーズさん。


 クーとルーは玄関のノブをレバータイプに付け替えてから好きに散歩へ行けるので、今はいない。


「…最近、よくぼっとしてるよな。帰るのが嫌なのか?」


「帰るのは楽しみだよ。お父さん、お母さん、サーラちゃんに会えるんだから」


「そっか。なら、何をそんなに悩んでるんだ?」


「あー…、うん…」


 私は年齢でも社会人としても目上のユリシーズさんに、とつとつとながら思っている事を話してみた。


 考えがまとまっていないから、本当にとつとつとした話だ。それでもユリシーズさんは全部聞いてくれた。


 ◇


「俺は師匠(ししょう)はあの家で家族と暮らしながら、ローニーやサイラとあれこれしてるのが合ってると思う。

 …今みたいに悩んで立ち止まってないし、楽しそうだと思ってたよ」


 うん、とても楽しかった。大好きになっていた空間だった。この世界で一番安心できる、心地好い場所になっていた。


「ほら、オオシロさんとは同じ国からの転移者だろ?そのせいか二人でしゃべってると、面白いくらいあれこれ思いついたり形にしてたよな。

 楽しい、好きって気持ちが一番大事だって。うちのお袋は良く言ってたよ。

 師匠(ししょう)を見てて、それが良く分かったよ。それじゃだめなのか?」


「良い…のかなあ?みんなに頼りっきりで…、一人で何にも出来ないのに。甘えてあそこに居ても………」


「嫌ならみんなそばにはいないだろ。

 それに師匠(ししょう)はこの世界に来て一年ほどだ。もう少しこの世界に慣れてから身の振り方を考えても、誰も何も言わないよ。

 あんたがどこにいても何をしてても、あんたはあんただ。ただそこにいればそれで良いよ」


「あり…が、とう…」


 そう答える私の(ほお)には、後から後から涙が伝っている。


 不安だった色んな事を肯定(こうてい)されて、知らない内に涙が(あふ)れたようだ。


 ユリシーズさんの大きな手が伸びて来て、泣き止むまでずっと抱き()めてくれた。また伸びて長くなった髪を撫でながら、ずっと…。


 うん、うん。帰ろう。あの場所へ。

お読み下さって有難うございます。

お楽しみ頂けましたら幸いです。


面白かった、良かったなどお気楽に、下の

☆☆☆☆☆

にて★1から★5で評価して下さいね!


続きが気になった方は、ブックマークして下さるとすっごく嬉しいです!


感想や応援メッセージもお待ちしてます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ