表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/85

52:鬼熊

「わあ、ずいぶん積もったな」


 終わりは始まりが終わった翌朝。この三日毎日積雪が増えていたが、今朝はとうとうスキーができそうなほど積もった。


「ああ、そろそろスキーがいるね」


「え?!スキーあるんですか?!」


「ん?あるともさ。雪が多い地方じゃ、スキーがないと不便(ふべん)だろう?」


 アカザさんに(くわ)しく聞いてみると、ちょっと思っているスキー板とは違うようだ。カンジキのスキー(ばん)のようなイメージっぽい。

 せめてショートスキーなら遊べるのにな。


 ◇


「こう毎日雪が降ってると、出歩くのも億劫(おっくう)になるねえ…。体が(なま)っちまうよ……」


「子供たちとする雪合戦は、なかなか良い運動になりますけどね…」


 村の中の道は(わり)と雪が()けられているが、それでも必要(ひつよう)最低限(さいていげん)しか出歩かない。


 もう一月が半分終わろうとしているが、狩りもまだ1回しか行っていない。狼の魔物が出たので、ちょっと無理したのだ。


 ◇


「この地方はそろそろ雪が終わるらしいよ。早いとこ体を動かしたいねえ」


 積雪こそないが冷えが続くので、雪は3月の頭くらいまでは残っているそうだ。これでもこの国では、早い春を(むか)える地域だって。


 この二月(ふたつき)ほど、カールくんも(ふく)めてみんな魔法の練習を重点的にして過ごした。だが、そろそろ体を動かしたい。


 ◇


「やっと山にも入れそう!山菜(さんさい)でも取りに行きましょうか?」


 3月。まだ足元はぬかるんでいるが、山菜(さんさい)を取りに行くくらいできそうな陽気(ようき)が続いた。


 〘たくさん動きたい!〙


 〘()った獲物(えもの)食べたい!〙


 あははは…。クーとルーはもうずいぶん大きくなった。顔も精悍(せいかん)さが増しているしね。本格的に狩りを覚える頃合いなのだろうと推察(すいさつ)される。


「じゃあしっかり準備して、明日天気が良ければ山菜(さんさい)()りメインで狩りへ行きましょうか」


「おお!本当かい?腕が鳴るねえ!」


 アカギさん達もユリシーズさんもカールくんも嬉しそうだ。


装備(そうび)と食料を特に念入りにチェックして、お弁当の残りを教えて下さいね」


 全員がそわそわしながら、しかし確実に点検を進めている。武器、防具はもちろん。お弁当に薬草(やくそう)、ロープなどの細々(こまごま)した物も点検している。


 無限収納(インベントリ)に入れていれば傷む事はないが、薬草とロープは新しい物に取り()えて万全(ばんぜん)()する。

 お弁当もいくつか食べて()っているので、()った分を作って補充(ほじゅう)も忘れず行う。


 こうして余念(よねん)なく明日の準備を終え、明日を楽しみに眠った。


 ◇


「じゃあ夕方、このベースに集合で」


了解(りょうかい)。しかし、(ユウ)さんは本当に狩りに行かないのかい?」


「私は冒険者じゃありませんから。身を守るのに必要ならしますが、積極(せっきょく)(てき)に狩りはしない方向です」


「腕があるだけに、()しいねえ」


「そんな事を言ってるうちに山へ入らないと、日が暮れますよ?」


「おっと、そうだね。ユリシーズ、(ユウ)さんとカールを頼むよ。

 明日はアカギと代わるからね」


「分かってる。気を付けて」


 今回はアカザさん達(あか)(つるぎ)のメンバーが初日は狩りを。二日目はアカギさんとユリシーズさんが入れ代わって狩りを。

 私とカールくんの護衛(ごえい)には初日がユリシーズさんが、二日目がアカギさんが付く事になっている。

 捕れたて生肉を食べたいクーとルーは2日とも狩りだ。


「この世界にはどんな山菜(さんさい)があるのかな?楽しみ」


「ちょっとクセのある物がほとんどだな」


「この世界でもそうなんだ。日本の山菜(さんさい)も、アクとかクセのあるのがほとんどだったよ」


「僕、食べた事ないや」


野草(やそう)なら食べた事がない?」


野草(やそう)は食べてた!」


 そんな話しをしながら、山菜(さんさい)が生えていそうなところを見て回る。まだ数は少ないが、ちらほら生えているのを収穫(しゅうかく)していく。

 コゴミっぽいものが多く、天婦羅(てんぷら)にでもしようと思っていた時だった。


鬼熊(おにくま)?!くっそ、もう起きていたのか!」


「ユリシーズ兄ちゃん!ヘラジカもいる!」


 生き物の鳴き声が近づき、(はげ)しく(しげ)みが鳴ったかと思ったら、鬼熊(おにくま)とヘラジカの()れが飛び出して来た。


 ◇


「…っ!」


 咄嗟(とっさ)にユリシーズさんとカールくんを引き寄せて結界は張れた。そのおかげでヘラジカとの衝突(しょうとつ)()けられたが、もろに鬼熊(おにくま)対峙(たいじ)する。ヘラジカを追っていた鬼熊(おにくま)が、私達を獲物(えもの)として認識(にんしき)して攻撃してきたためだ。


 鬼熊(おにくま)とは魔物の熊が長生きし、超大型に成長した個体の事。結界越しとはいえ、そんなのとの対峙(たいじ)恐怖(きょうふ)でしかない。


師匠(ししょう)!結界を消してすぐまた張れる?」


「それは出来るよ」


「じゃあヤツが突進(とっしん)するのに下がって、こっち向いた瞬間(しゅんかん)に消して。投擲(とうてき)したらすぐまた結界張って」


 こくこく頷いて答えると、ユリシーズさんはタイミングを計り始めた。


「消せ!」


 ユリシーズさんが高温の火魔法をしこんだ大型のスローイングナイフを力強く投げる。その瞬間(しゅんかん)、新たに結界を張る。


「ぐきゃおおおおおおッ」

 

 ナイフはきれいに、鬼熊(おにくま)眉間(みけん)に吸い込まれるように突き刺さる。ナイフは刺さると同時に、発動していた高温の火魔法で鬼熊(おにくま)の脳を焼く。脳を焼かれる鬼熊(おにくま)は、狂ったように暴れまわった。


 結界の中、私とカールくんはユリシーズさんに抱きしめられて恐怖(きょうふ)の時間をやり過ごす。



師匠(ししょう)、カール、大丈夫か?」


 どのくらいの時間が過ぎただろう?ユリシーズさんに声をかけられて目を開く。辺りは物凄(ものすご)惨状(さんじょう)になっていた。その(さま)にぞっとする。


 木はなぎ倒され、斜面(しゃめん)からは大きな岩がいくつか落ちてきている。まるで災害(さいがい)現場(げんば)のようだ。


師匠(ししょう)、俺を出して。死んでるか確認して来る」


「う、うん。分かった。気を付けて」


 新しい護りの石があれば良かったが、まだ手に入れれてない。ユリシーズさんはそのまま鬼熊(おにくま)に近寄った。

 念の為だろうか。心臓の辺りに額から抜いたナイフを突き刺している。



「もう大丈夫。死んでる」


 結界の外からそう声をかけられてほっとする。結界を解くが足が立たない。(ひざ)が笑っているんだ。


「立てない?」


「うん、ちょっと無理かも…」


 人生の中で、あんなに大きな口にかじられそうになるのを間近で見る経験はほぼないだろう。恐怖(きょうふ)(おのの)いても笑わないでほしい。


「わっ?!」


 またもやお姫さま抱っこである。


「ベースまで運ぶよ。カールは歩けるか?」


「ぼ、僕は大丈夫。歩ける」


 鬼熊(おにくま)無限収納(インベントリ)にしまうと、ベースへ戻る。連絡しておいたアカザさん達と合流した。


(ユウ)さん?!どこか怪我でもしたのかい?!!」


「怪我はないです。膝が笑って歩けなくて…」


「はあ、腰が抜けただけかい?怪我じゃなくて良かったよ。

 クーとルーが急に大きな強いのがこっちに来てるって言うからさ。何が来るのかと思えば鬼熊(おにくま)とはねぇ」


 もう安心なようだが念の為、そのままみんな固まって過ごす。


 二日目はもちろん予定を変更。朝一番、村へ戻ってギルドへ報告へ。ユリシーズさんはこの討伐(とうばつ)で、見事(みごと)ランクアップを果たした。

お読み下さって有難うございます。

お楽しみ頂けましたら幸いです。


面白かった、良かったなどお気楽に、下の

☆☆☆☆☆

にて★1から★5で評価して下さいね!


続きが気になった方は、ブックマークして下さるとすっごく嬉しいです!


感想や応援メッセージもお待ちしてます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ