51:終わりは始まり
「大掃除終わった?」
こっちは終わった、もう少しなど返事があちこちから返って来る。
私達はこちらの年末、終わりの3日の最終日のお昼前にカロリン村に帰り着いた。チェリーブランデーを買った村で、舗装されていないが近道を教えて頂けたのだ。地元の人しか知らない道。確かに地図にはなかった。
こちらにはない風習だが、おかげで大掃除ができた。普段から掃除はしているが、大掃除はまた別だからね。
キャンピングカーもコンテナハウス2つもピカピカになって気持ち良い。借りている家もキレイになった。
うーん、なんという爽快感!
しばらくキレイになったお気に入りの窓辺で寛ぐと、交換する料理を作る。
◇
「日本ではお蕎麦っていう麺を食べるのと、除夜の鐘を撞いたり聞いたりして年越ししてね。
新年は神社やお寺って聖域にお参りしたり、おせち料理という新年に食べる特別な料理を食べてました」
「なかなか忙しい終わりは始まりだね」
「普段がもっと忙しいから、これでもゆっくりなんですよ」
もちろん働いていらっしゃる方もおられるが、学生の身分なのでゆっくりしていた。
「師匠、バーベキューの用意できたぞ」
「ありがとう。炭の加減に気を付けて、そのまま熾してて」
こちらでは年末年始のご神事やおせちといった物はないのだそうだ。あるのは料理の交換があるだけなんだって。
ただこれのおかげで、後日美味しかった料理の作り方を聞きに行ける。そして美味しい調理方法のコツが広がるので、特に若奥様から愛されている行事なんだそうだ。
私は外で食べて行ってもらうバーベキュー、交換にはピザパン、ジャーマンポテトを作る。
砂糖は高級品だし、みりんはヤーン商会でしか取り扱いがないさらに高級品。そんな真似しにくい物を除外して決めた。気に入ってもらえたら良いな。
◇
「優さま!親方呼んで来たよ!」
「ありがとう、カールくん。
親方、ご無沙汰です。今日はうちに泊まりで飲み食いして行って下さい」
「おう、無事だったか。
そりゃ有り難いな。なんせ料理なんざ、食えりゃ良いモンしか作れんわい」
「強いお酒も買って来ましたよ」
「おお!楽しみだわい!」
こうして外で酒盛りとバーベキューをしていると、先ず孤児院の子供たちがやって来た。親方さんを迎えに行ってもらったカールくんに、声をかけておいてとお願いしておいたのだ。
「好きなお肉を自分で焼いて、好きなだけ食べて良いからね」
「やった!」
「きゃーっ、嬉しいな!」
子供達は肉やパン、果実水を用意している長テーブルに押し寄せる。そしてカールくんからトングでとりわけ皿にほしい肉を取り分けて、網で好きな加減に焼くんだよと教えてもらう。お肉をお皿にてんこ盛りにすると、今度は網に群がってお肉を焼き始める。
「いい匂いですね。お料理の交換をお願いできますか?」
「どうぞ、どうぞ。何人分交換しますか?良ければバーベキューも食べて行って下さいね」
見かけた事はあるが、話しはした事がない方だ。旦那さんと一緒に回っている。
「うまそうな匂いはこれか!本当に食べて行って良いんですか?」
「もちろんですよ。エールも一杯ですが飲めますよ」
「エールまで?!」
エールには奥さんが喰い付いた。女性の酒豪もなかなか多いからね。
◇
人が増え、明るい笑い声も増える。すると人が自然と増える。村長さんの家族だ、会計係の方の家族だ、その子供達だと人がどんどん増える。
場所が足りなくなり、庭の周りの空き地にまで人が溢れている。
「私からの差し入れだ!エールはここまで取りに来い!」
「うちの自慢の串焼だ!串焼きはここだ!」
…なんか、村長さんの差し入れのエールコーナーや、串焼きの上手いお宅の串焼きのコーナーだのができているし。
「うちの秘伝の煮物だよ〜!」
「こっちは焼き物だよ!」
料理の交換コーナーもできている。
なんなら、縁日のような様相を呈していないか…?
かなり賑やかにはなったが、みんな楽しそうだからいっか。
「優さん!ピザパンお願いするよ!数は3つ!」
「はい、もうすぐ焼けるから待ってね」
人口150人ほどの小さな村なので、顔は知れ渡っている。知らない人からも名前を呼ばれ、交換をお願いされて大忙しだ。
用意していた分は既になくなっている。作る端から交換を希望されてて休む暇もない。ジャーマンポテトはすでにない。酒のアテにかなり消費されたんだよね。
楽しい時間は足早に過ぎ、女性達は子供を連れて早目に引けた。男性達は朝方まで、存分に飲み食いして楽しんだ。貴重な娯楽の場になったから、自然の流れとも言える。
女性が引けると、オセロなんかのゲームも始まっている。これはアカザさんとユリシーズさんがかなり強かった。私はもう疲れていたから、親方と呑みながらゆっくり観戦。
「優さま!僕とオセロの対戦して?」
「良いよ。黒はカールくんする?」
「うーん、そうする!」
この年が元になって、この村ではみんなで楽しく新年を迎えるのが風習となったのは後の話し。
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