50:誰が一番か
「うーん、キルシュヴァッサーだ。美味しい」
ただブランデーと言えば普通はぶどうが原料の物を指すが、実はぶどう以外が原料のブランデーも割とある。キルシュヴァッサーもその中の一つ。原料はチェリーだ。
通る道すがら、チェリーの一大産地があるって事で、終わりは始まりまでに帰りたいが寄り道したのだ。
「き?キルシュ???」
「何でもありません」
旅の間、ただの優で通すつもりが、ここまでバレまくっていたが気を付けないと。
「?そうですか。まだ開発されてそれほど経ってませんので無名ですが、村自慢のチェリーブランデーですや」
アルコール度数も40〜50度ありそう。ちょっと甘いけど、親方も呑むかな?
「おお!キツイが、悪くないね!」
「美味い!もっと呑めるかい?!」
「んー、呑みやすい」
「ふにゃ〜、エールと違うぅ」
「…」
ユリシーズさんは…。甘いのにキツイお酒ってなんだって事か?無言で眉間に皺が寄ってるし。
「優さま、僕は?」
「カールくんは18歳になってからね」
この国には厳密に「お酒は二十歳になってから」、みたいな法律はない。
庶民は働き始めたら呑める。というか呑む。貴族やお金持ちなんかだと、18歳になれば普通に呑むそうだ。16歳で社交界デビューすると、18歳までの間は父親の許可があれば呑める。つまりとても曖昧。
我が家では二十歳でと言いたいが、カールくんも、他の若い見習いさん達も付き合いでお酒を呑む事もあるだろう。なのでエールは16歳、それ以外は18歳からと決めている。ま、14歳の今はエールも呑ませないけど。
「今年初めて成功した、梨のブランデーもありまさ。呑んでみなさいますかい?」
梨のブランデーがあるのは知っているが、呑むのは初だ。楽しみだな。
「お願いします」
◇
「こっちも美味しいですね」
「あぁっ、美味い!」
「ホントだ!こっちもお代わり頼めるかい?!」
「うにゃいね〜」
あ、ナハルさんは撃沈だな。
「うい〜くぅ。ユウさあぁん。にゃははははっ」
リラさんは上機嫌に、絡み上戸の笑い上戸か…。
「……」
ユリシーズさんは、こんなに甘くて強い酒がたくさんあるのが分からんって顔だね。
「優さま、一口だけ!この機会を逃したら、呑めないかも知れないお酒なんだから!」
「カールくん。もう我儘言わないんじゃないなかった?」
カールくんはちえっといじけてしまった。いじけてもダメ。
カールくんの頭を撫でながら提案する。
「カールくんが18歳になったら、珍しいお酒集めてお祝いするから。それで許してよ」
「本当?!本当にお祝いしてくれるの?!」
「うん、約束」
カールくんはお祝いしてもらえると喜んで、これで手を打ってくれた。ふう、良かった。
カールくんの機嫌も直り、チェリーブランデー3樽と、梨のブランデーを1樽買えたので私もご機嫌だ。
あ、樽といっても、醸造で使っている大きな物ではない。運搬しやすい小さい物だ。いつまで保つやら…。
どうも、私とアカザさんとアカギさん、それにユリシーズさんはウワバミっぽいんだよね。あるいはザル?このメンツが酔ってるのを見た事がない。
たまにはハメを外して、誰が一番呑めるか呑み比べだと村の酒場へ行ったのだが…。
「ま、参った…」
アカザさんに続き、アカギさんがダウン。
ナハルさんとリラさんは、呑むのは禁止したので初めから混ざってない。カールくんは、私の膝枕で寝かしつけてある。
「ユリシーズさん、まだ呑む?」
「割と限界かもな…」
「じゃあ、そろそろ勝負は辞めない?」
実はビールは得意ではない。エールもグラス一杯が適量だったりする。
酔わないが、翌日の二日酔いが半端ない。テキーラやウォッカで酔った事もなければ二日酔いになった事もないんだけど…。
なのにビールで酔うし二日酔いになるのは、みんなに良く不思議がられたものだ。自分でも謎体質でしかない。
「勝負はつける。中途半端にするなら、しない方が良い」
「分かった。じゃあ降参」
「師匠」
「エールはグラスに何杯かが限度なんだよ。酔いはしないけど、翌日の二日酔いが酷いから、あんまり呑みたくないんだ」
「マジかよ…」
そう言うとユリシーズさんは、とたんにおろおろし始めたように見える。かなりチーズ食べながら呑んだから、多少マシだと思うけどね。
「適当に酷くならないようにするよ。心配しないで」
「心配はするだろ?無茶な呑み方したら、死ぬ事もあるって教えたのは師匠だろ」
そう。だから個人の判断で無理と思ったら、その時点で絶対勝負から降りる条件でこの勝負を許可したのだ。
「ある?アセトアルデビドだっけ?それを減らすイメージで癒やしてみる。
癒しは得意じゃないからな。あんまり効果ないかも知れないが、しないよりマシだろ」
ユリシーズさんは触るぞと声をかけると、私の背中にそっと手を当ててヒーリングを始めた。
「右側の、もうちょっと上に手を動かしてみて?」
「…、何か手のひらが熱いような…、酷く冷たいような感じになった。ここ重点的にすると良い?」
「うん。その辺りに肝臓っていう、お酒呑んだ時に活発に働いてる内臓があるんだ」
しばらくそうしてもらっていると、顔は熱く、体はポカポカして来た。目を閉じて、心地よいヒーリングに体の力が抜けるのを楽しむ。
思ったより、体に負担がかかっていたのだと自覚した。
そっと頬に手が添えられたが、頬より温度の低い手のひらが心地良い。
「…顔が赤くなるのは珍しいな」
「うん…、眠い…」
「なら、眠れ。キャンピングカーには運ぶから」
悪いから起きようとすると、目を大きな手のひらで覆われてしまった。本当に寝るって…。
「お休み、師匠」
この一言でストンと意識が落ちる。
こうして第一回にして最後の、誰が一番呑めるのか呑み比べ大会は幕をとじた。
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