表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/85

49:仇討ち

殺人(さつじん)(どり)駆除(くじょ)されるまで、通行止め?」


 ジュリさん達と別れた後、順調(じゅんちょう)に歩を進めていたのたが、小さな(とうげ)手前(てまえ)での事だ。


「ああ、そうなんだよ。この辺りはモアの若鶏(わかどり)越冬(えっとう)に来る事もあるがね。成鳥(せいちょう)が来る事はほとんどないんだ。モアの成鳥(せいちょう)殺人(さつじん)(どり)とあだ名されるほど気性(きしょう)(あら)く、攻撃(こうげき)(てき)な鳥なんだよ」


 頭の中で整理(せいり)する。地球にヒクイドリという危険(きけん)な鳥がいるが、それの倍くらい大きく、さらに凶暴(きょうぼう)な肉食よりの雑食(ざっしょく)走鳥類(そうちょうるい)のようだ。ちなみに倍は全長(ぜんちょう)ではなく、高さでだ。うげ、もはや小型(こがた)恐竜(きょうりゅう)だろ…。

 これでも魔物ではなく、普通の生物(せいぶつ)部類(ぶるい)だそうだ。何それ…?


「……父さんの(かたき)…!」


 (うつむ)いて話しを聞いていたカールくんから、いつも明るいカールくんの口から出たとは思えない低い声で()れた言葉。


「カールくん、(かたき)って?」


殺人(さつじん)(どり)は、父さんの(かたき)

 母さんは早くに亡くなったから、父さんは僕の一人だけの家族だったんだ…。

 そんな父さんを、仕事でたまたまこの地方に来た父さんが御者(ぎょしゃ)(つと)める隊商(たいしょう)(おそ)ったって…。父さんを()い殺したって…!」


 ああ、そうか。だから置いて行かれる事や、危ない事を嫌がっていたんだね。昨日と同じように帰って来ると思っていた人が、ある日突然(とつぜん)、もう二度と帰って来なくなった経験(けいけん)があったから…。


「お願い!(ユウ)さま!父さんの(かたき)を取らせて!

 それが無理(むり)なら、アイツが討伐(とうばつ)されたのをちゃんとこの目で見たい!

 もう我儘(わがまま)言わないから…、お願いだよぅ…」


「ああ、(かたき)を取ろう」


 間髪(かんぱつ)入れず、カールくんの願いにユリシーズさんが答えた。


「もちろんだね!」


 アカザさん達も、口々(くちぐち)にそれにすぐ続いた。


(ユウ)さんの事だ。カールに(かたき)を取らせてやりたいと思ってるんだろ?」


師匠(ししょう)の銃なら、離れたところから安全に(ねら)えるから。反対はしない」


(ユウ)さま…!」


 良かったよ。みんな同じ気持ちだったんだ。


「分かった。じゃあ指揮(しき)を取っている方や、討伐(とうばつ)に参加する許可(きょか)が必要な方に許可(きょか)を頂きに行こうか」


 ◇


「いやあ、オオシロ方伯(ほうはく)を城にお(まね)きしたく出向(でむ)いておりましたが、こうしてお会いでき…」



 この人…。話しが長い長い。みんな顔がうんざりするほど、話しが長い。

 この地方の領主(りょうしゅ)で、爵位(しゃくい)()いだばかりだそうだが…。こんなところでナンパしてる(ひま)があるなら、さっさと肝心(かんじん)な話しをして、殺人(さつじん)(どり)がどうなっているかの話しをしようよ…。


 実はこのシュシェーナ王国、公爵(こうしゃく)家も含めて三代毎に査定(さてい)がある。例外はあるが、基本的に領地(りょうち)経営(けいえい)がプラスマイナス0以上を保っていなければ爵位(しゃくい)降格(こうかく)される。元々が食糧(しょくりょう)(なん)で流れて来た人達の集まってできた国だからだろうか。

 領地(りょうち)経営(けいえい)(さい)がないと判断(はんだん)される、つまり領民(りょうみん)(やしな)えないと判断(はんだん)されるとあっさり一つ爵位(しゃくい)が落とされ、小さな領地(りょうち)に追いやられる(きび)しい法律(ほうりつ)がある。


 で、この(かた)だが10代の頃から放蕩(ほうとう)息子だったそうだ。余程(よほど)目に余る長男でなければ長男が世襲(せしゅう)するものだが、この方は放蕩(ほうとう)が過ぎて後継者(こうけいしゃ)から外され、弟さんが後継者(こうけいしゃ)に選ばれていたそうだ。


 その弟さん、ついで先代(せんだい)不審死(ふしんし)()げられたそうだ。父と弟を殺したのかという疑惑(ぎわく)はあっても証拠(しょうこ)がない。他に男子もおらず、爵位(しゃくい)などを()がれたそうだが…。



『これは…、領民(りょうみん)にはナイ領主(りょうしゅ)だわ。

 査定(さてい)が入る代でなくてもナイわー』


 今度は私にこの領地(りょうち)に住んで、(はく)の側で色々経験(けいけん)してはどうかと言っておられる。絶対(いや)だし。


(はく)?!」


 能弁(のうべん)愚論(ぐろん)を語っていた(はく)が、突然(とつぜん)(たお)れ込まれたので驚いて()け寄った。


 (はく)を抱き止めた男性が介抱(かいほう)して一言(ひとこと)


「…、緊張(きんちょう)が続いてよくお休みになれておられませんでしたから、お体が限界(げんかい)だったのでしょう。お休みになられております」


 これは魔法で眠らせたな。その方が助かるけどね!


「オオシロ方伯(ほうはく)、ご紹介(しょうかい)いたします。こちらはナッサ(はく)にお()えしております、ゴードナー将軍(しょうぐん)。この(けん)仕切(しき)っておられます」


 (はく)が眠らされたおかげで、やっと話しが進むよ。ふう。


「ゴードナー将軍(しょうぐん)、初めまして。芦屋(ゆう)大城(あしや)(=おおしろ)と申します。

 たまたま通りかかり、何かお力になれればと思い(まか)()しました」


「これは痛み入り申す。一部では、Sランク冒険者にもひけを取らぬのではと(うわさ)されておられます方伯(ほうはく)のお力添(ちからぞ)えが頂けるなら百人(ひゃくにん)(りき)!」


 その一部ってどこ?!過剰(かじょう)評価(ひょうか)はお(ことわ)りする!!


 ◇


「すでに殉職(じゅんしょく)(しゃ)が2名も出ているのでしたら急ぎましょう。

 クー、ルー、頼むね」


 〘わんっ〙


 〘きゃん!〙


「ほう、犬とは利口(りこう)なものですな。頼んだぞ?」


 クーとルーは犬のフリをしてゴードナー将軍(しょうぐん)に答えると、だっと殺人(さつじん)(どり)の匂いを辿(たど)って行った。


 私達はそれを見送ると、アカザさん達スマホ持ちが別れて、どこからクー達が殺人(さつじん)(どり)を追い立ててくるか少し離れたポイントに監視(かんし)に散って行った。


 (がけ)正面(しょうめん)に、ヒーラーのリラさんと魔法剣士のアカギさん。(がけ)の左に、アカザさんと魔法使いのナハルさん。(がけ)の右にユリシーズさんの(さん)方向(ほうこう)だ。

 クーとルーの予想(よそう)では、(がけ)の左から正面(しょうめん)(ひそ)んでいるらしいので、そちら方向を注意して見ている。


 ◇


「カールくん、平気?」


 かなり長時間、(がけ)中腹(ちゅうふく)でクー達に追い立てられてくる殺人(さつじん)(どり)を待っている。真冬にただ獲物(えもの)を待ってじっとしているので、かなり体が冷える。


 私達のいる足場はさほど広さがない上に、囲いもなくて吹きっさらしだ。そのためぴったりくっついてカールくんを(となり)(すわ)らせ、同じマントの中に(くる)まっている。湯たんぽも持っているが、体が冷えきっていないか心配。


 カールくんは殺人(さつじん)(どり)(おそ)らく来るであろう方角(ほうがく)を見たまま、こくりと(うなず)いて答える。


 空を見れば、もうすぐ夕方になるやや光の弱った太陽が(かがや)いている。鳥は夜目(よめ)が効かないので、明日に持ち越しかなと考えた時だった。


『カール!師匠(ししょう)!用意しろ!』


 思わぬ方向(ほうこう)、ユリシーズさんからの(しら)せが入る。


殺人(さつじん)(どり)、二頭確認!

 今(かく)れている木の横を通り過ぎた。すぐそこから視認(しにん)出来るはずだ』


「ありがとう。戻るのは連絡してから宜しくね」


『ああ』


 今回もスマホは通話状態のままだ。終わればすぐみんなに伝わる。が、ゴードナー将軍(しょうぐん)麾下(きか)(かた)検分(けんぶん)して、仕留しとめた事を確認するまではその場を動かない事になっている。それだけ危険な鳥なのだ。



「カールくん、私の前に」


 カールくんは事前(じぜん)に教えていた通り、私の腕の中に(おさ)まる。そのまましばらく待っていると、クーとルーの吠声(ほえごえ)が聞こえて来た。さらにしばらくすると、(がけ)の前の開けた場所に、二頭の殺人(さつじん)(どり)が飛び出して来た。


「父さんの(かたき)…っ!」


 …たーん。たーんっ!!!


 二頭は頭を失い、どおっと倒れる。


 二頭が倒れてから5分ほどが過ぎ、検分(けんぶん)する(かた)()け寄り死亡を確かめる。手を挙げ、死亡の合図が送られて来た。


「父さん、と…うさ…ん……、ぅっあああああん」


 (かたき)()てても、もうカールくんのお父さんは戻らない。辛い悲しい気持ちが(やわ)らぐまで、ただ()()めてあげるくらいしかしてあげられない。


 みんなが(がけ)の下に集まった頃、やっとカールくんは落ち着き泣き止んだ。


 ◇


「では、私達はこれで失礼します」


「本当に、報奨金(ほうしょうきん)などは放棄(ほうき)なさるのですか?」


「はい、通りたかっただけなので不要(ふよう)です」


 当初(とうしょ)の打ち合わせ通り、私達は情報提供(ていきょう)以外の一切(いっさい)放棄(ほうき)して明日から先へ進む事を選んだ。カールくんを早くゆっくり休ませてあげたかったしね。


 ただその夜、ちょっとショックな事があったよ。


(ユウ)さまは何となくだけど、父さんに似てるんだ…」


 (なつ)きようには納得(なっとく)したが、(なつ)かれた理由には今一納得(なっとく)が出来なかったのだった。

お読み下さって有難うございます。

お楽しみ頂けましたら幸いです。


面白かった、良かったなどお気楽に、下の

☆☆☆☆☆

にて★1から★5で評価して下さいね!


続きが気になった方は、ブックマークして下さるとすっごく嬉しいです!


感想や応援メッセージもお待ちしてます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] カールくん、性別考えよう。 男性に似てると言われて 喜ぶ女性っていると思うかい? おばちゃんカールくんの将来が 少し心配だよ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ