49:仇討ち
「殺人鳥が駆除されるまで、通行止め?」
ジュリさん達と別れた後、順調に歩を進めていたのたが、小さな峠の手前での事だ。
「ああ、そうなんだよ。この辺りはモアの若鶏が越冬に来る事もあるがね。成鳥が来る事はほとんどないんだ。モアの成鳥が殺人鳥とあだ名されるほど気性も荒く、攻撃的な鳥なんだよ」
頭の中で整理する。地球にヒクイドリという危険な鳥がいるが、それの倍くらい大きく、さらに凶暴な肉食よりの雑食の走鳥類のようだ。ちなみに倍は全長ではなく、高さでだ。うげ、もはや小型の恐竜だろ…。
これでも魔物ではなく、普通の生物の部類だそうだ。何それ…?
「……父さんの仇…!」
俯いて話しを聞いていたカールくんから、いつも明るいカールくんの口から出たとは思えない低い声で漏れた言葉。
「カールくん、仇って?」
「殺人鳥は、父さんの仇!
母さんは早くに亡くなったから、父さんは僕の一人だけの家族だったんだ…。
そんな父さんを、仕事でたまたまこの地方に来た父さんが御者を勤める隊商を襲ったって…。父さんを喰い殺したって…!」
ああ、そうか。だから置いて行かれる事や、危ない事を嫌がっていたんだね。昨日と同じように帰って来ると思っていた人が、ある日突然、もう二度と帰って来なくなった経験があったから…。
「お願い!優さま!父さんの仇を取らせて!
それが無理なら、アイツが討伐されたのをちゃんとこの目で見たい!
もう我儘言わないから…、お願いだよぅ…」
「ああ、仇を取ろう」
間髪入れず、カールくんの願いにユリシーズさんが答えた。
「もちろんだね!」
アカザさん達も、口々にそれにすぐ続いた。
「優さんの事だ。カールに仇を取らせてやりたいと思ってるんだろ?」
「師匠の銃なら、離れたところから安全に狙えるから。反対はしない」
「優さま…!」
良かったよ。みんな同じ気持ちだったんだ。
「分かった。じゃあ指揮を取っている方や、討伐に参加する許可が必要な方に許可を頂きに行こうか」
◇
「いやあ、オオシロ方伯を城にお招きしたく出向いておりましたが、こうしてお会いでき…」
この人…。話しが長い長い。みんな顔がうんざりするほど、話しが長い。
この地方の領主で、爵位を継いだばかりだそうだが…。こんなところでナンパしてる暇があるなら、さっさと肝心な話しをして、殺人鳥がどうなっているかの話しをしようよ…。
実はこのシュシェーナ王国、公爵家も含めて三代毎に査定がある。例外はあるが、基本的に領地経営がプラスマイナス0以上を保っていなければ爵位が降格される。元々が食糧難で流れて来た人達の集まってできた国だからだろうか。
領地経営の才がないと判断される、つまり領民を養えないと判断されるとあっさり一つ爵位が落とされ、小さな領地に追いやられる厳しい法律がある。
で、この方だが10代の頃から放蕩息子だったそうだ。余程目に余る長男でなければ長男が世襲するものだが、この方は放蕩が過ぎて後継者から外され、弟さんが後継者に選ばれていたそうだ。
その弟さん、ついで先代が不審死を遂げられたそうだ。父と弟を殺したのかという疑惑はあっても証拠がない。他に男子もおらず、爵位などを継がれたそうだが…。
『これは…、領民にはナイ領主だわ。
査定が入る代でなくてもナイわー』
今度は私にこの領地に住んで、伯の側で色々経験してはどうかと言っておられる。絶対嫌だし。
「伯?!」
能弁に愚論を語っていた伯が、突然倒れ込まれたので驚いて駆け寄った。
伯を抱き止めた男性が介抱して一言。
「…、緊張が続いてよくお休みになれておられませんでしたから、お体が限界だったのでしょう。お休みになられております」
これは魔法で眠らせたな。その方が助かるけどね!
「オオシロ方伯、ご紹介いたします。こちらはナッサ伯にお仕えしております、ゴードナー将軍。この件を仕切っておられます」
伯が眠らされたおかげで、やっと話しが進むよ。ふう。
「ゴードナー将軍、初めまして。芦屋大城優と申します。
たまたま通りかかり、何かお力になれればと思い罷り越しました」
「これは痛み入り申す。一部では、Sランク冒険者にもひけを取らぬのではと噂されておられます方伯のお力添えが頂けるなら百人力!」
その一部ってどこ?!過剰評価はお断りする!!
◇
「すでに殉職者が2名も出ているのでしたら急ぎましょう。
クー、ルー、頼むね」
〘わんっ〙
〘きゃん!〙
「ほう、犬とは利口なものですな。頼んだぞ?」
クーとルーは犬のフリをしてゴードナー将軍に答えると、だっと殺人鳥の匂いを辿って行った。
私達はそれを見送ると、アカザさん達スマホ持ちが別れて、どこからクー達が殺人鳥を追い立ててくるか少し離れたポイントに監視に散って行った。
崖の正面に、ヒーラーのリラさんと魔法剣士のアカギさん。崖の左に、アカザさんと魔法使いのナハルさん。崖の右にユリシーズさんの三方向だ。
クーとルーの予想では、崖の左から正面に潜んでいるらしいので、そちら方向を注意して見ている。
◇
「カールくん、平気?」
かなり長時間、崖の中腹でクー達に追い立てられてくる殺人鳥を待っている。真冬にただ獲物を待ってじっとしているので、かなり体が冷える。
私達のいる足場はさほど広さがない上に、囲いもなくて吹きっさらしだ。そのためぴったりくっついてカールくんを隣に座らせ、同じマントの中に包まっている。湯たんぽも持っているが、体が冷えきっていないか心配。
カールくんは殺人鳥が恐らく来るであろう方角を見たまま、こくりと頷いて答える。
空を見れば、もうすぐ夕方になるやや光の弱った太陽が輝いている。鳥は夜目が効かないので、明日に持ち越しかなと考えた時だった。
『カール!師匠!用意しろ!』
思わぬ方向、ユリシーズさんからの報せが入る。
『殺人鳥、二頭確認!
今隠れている木の横を通り過ぎた。すぐそこから視認出来るはずだ』
「ありがとう。戻るのは連絡してから宜しくね」
『ああ』
今回もスマホは通話状態のままだ。終わればすぐみんなに伝わる。が、ゴードナー将軍の麾下の方が検分して、仕留めた事を確認するまではその場を動かない事になっている。それだけ危険な鳥なのだ。
「カールくん、私の前に」
カールくんは事前に教えていた通り、私の腕の中に納まる。そのまましばらく待っていると、クーとルーの吠声が聞こえて来た。さらにしばらくすると、崖の前の開けた場所に、二頭の殺人鳥が飛び出して来た。
「父さんの仇…っ!」
…たーん。たーんっ!!!
二頭は頭を失い、どおっと倒れる。
二頭が倒れてから5分ほどが過ぎ、検分する方が駆け寄り死亡を確かめる。手を挙げ、死亡の合図が送られて来た。
「父さん、と…うさ…ん……、ぅっあああああん」
仇が討てても、もうカールくんのお父さんは戻らない。辛い悲しい気持ちが和らぐまで、ただ抱き締めてあげるくらいしかしてあげられない。
みんなが崖の下に集まった頃、やっとカールくんは落ち着き泣き止んだ。
◇
「では、私達はこれで失礼します」
「本当に、報奨金などは放棄なさるのですか?」
「はい、通りたかっただけなので不要です」
当初の打ち合わせ通り、私達は情報提供以外の一切を放棄して明日から先へ進む事を選んだ。カールくんを早くゆっくり休ませてあげたかったしね。
ただその夜、ちょっとショックな事があったよ。
「優さまは何となくだけど、父さんに似てるんだ…」
懐きようには納得したが、懐かれた理由には今一納得が出来なかったのだった。
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