48:スマホを持って
「誰も見なかったんですか?」
「ああ、通ったところには襲われたような形跡も、戦ったような形跡もなかったね」
アカザさん達は無事に戻って来た。そして、ジュリさんから聞いたお仲間さん達の外見の狩人を見なかったかお聞きしてみたのだ。
雪男はバッチリ、ユリシーズさんが仕留めている。雪男は縄張りが広いので、他に雪男はいないはずだそうだ。
「念の為、ポーションを持って森へ入ったので多少の怪我は平気だと思います。心配なのは意識がなくて凍傷になる事や、凍死です…」
「うーん、何の痕跡もないなら、探しながら村へ向かってもいいのかな?
意識がなくて助けが必要なら、早く探さないと命取りになるしな」
「優さんは優しいですね。
私達は最悪、命を落とす事も覚悟しています。探しながら村へ行って頂けるだけで十分です」
「あたしも探しながら村へ向かうだけで良いと思うね。探すならギルドで依頼を出すしかない。それにはお金も、時間もかかるからね」
もしかして、遭難救助の概念とか組織ってないんだっけ?!
◇
「そんな組織はないねえ。貴族なんかなら自分のところの私兵なりで探すが、一般人を探して助ける組織はないよ」
やっぱりないのか…。
〘優ー?におい動いてるー〙
〘お肉についていたにおいの人、あっちー〙
クー、ルー!ありがとう!
急いでジュリさんの住んでいる村へ向かった。そして村の門へ辿り着くと、ジュリさんのお仲間の事を門番さんに尋ねた。
「ああ、一人は自力で戻ったよ。もう一人は朝早く、森へ入った狩人が見付けて、さっき戻って来たよ」
「よ、良かった…っ!」
二人が無事と知り、ジュリさんは泣き崩れてしまった。一人はジュリさんの好きな人で、余計に心配だったそうだ。
◇
「マックス!ルーニー!」
「ジュリ?!」×2
三人はお互いの無事を確認して、喜び合っていた。生きて会えて良かったと。
私は3人をキャンピングカーへ招待して、食べそこねていた白玉ぜんざいをみんなで頂いた。
「今回みたいな事があった時、連絡したら助けを出してもらえる仕組みがあったらどう思うか、ですか?」
「うん、どうかな?」
「俺はいらないかな。もちろん助けてもらえればありがたいが、魔物も野生の肉食動物もいる森での仕事を選んだんだ。
それで危ない目にあったから助けてほしいって。それって誰かを危険にさらすって事だろ?」
「私は…、助かりたいな。誰かの大事な人も助かってほしいと思う」
「助けが来てくれてもさ、間に合わなくて死ぬ事もあるから。
あればありがたいけど、なくても今まで通りだからなあ」
うあぁ。どの意見も分かる…。提案だけでもすれば、必要ならそんな仕組みができるかな?それで良しとするか…。
みんなポーションは飲んでいたが、念の為ヒーリングもしたよ。そして、白玉ぜんざいを食べながら意見を聞いてみたんだ。
食べ終わるとみんなを見送りつつ、ユリシーズさんの仕留めた雪男を冒険者ギルドへ持ち込みに行った。
◇
「これはまた大きな個体ですね!急所以外に大きな傷も少く、毛皮も高くなりますよ!」
ギルドの職員さんは、きれいに仕留められた雪男にほくほくだ。
そしてユリシーズさんのランクアップの方。そちらはもう少しとの事だ。いくどか高ランクの敵と戦っては来たが、私が最後は止めを刺している事も多いからな。
なんなら最初から狙撃して仕留めてて、関われてないのもあるしね…。
「師匠に魔法を教わって、実践で使えるレベルになったから。戦いの幅が広がって、ここまで来れたのが早い」
本人はそんな事を言って、満足そうにしていたよ。死ぬためにかという無茶な仇討ちに躍起になっていた頃よりは、断然今の方が良いんだけど。
◇
冒険者ギルドを後にすると、もうすぐ閉まる統括ギルドに滑り込む。
目当の品を探してキョロキョロしながら、狭い取り扱い品コーナーの棚を探す。
「あ!あった!
3台か。足りない分は追々かな」
個別識別可能スマホを3台あるだけ手にすると、支払いカウンターへ持って行く。
「遅くにすみません。お願いします」
高価な個別識別可能スマホを3台も持ってカウンターへ行くと、3台もですか?と、とても驚かれた。3台ですと答えると、カウンターの女性はあわあわしながらお会計をしてくれたよ。
1台をユリシーズさん。残り2台をアカザさんに渡す。
「手に入り次第みんなに渡します。前に山で急に一泊した時も、連絡ができなくて不便だなと思ったんです。
何かあっても連絡がつくようにしておいて、安心したいです」
アカザさんが断ろうとして、口を開きかけたのと同時だろう。
「分かった。もらうのは気がひけるから、借りるんで良いか?」
「うん、それで良いよ」
「アカザさん、依頼主の意向に従うんだっよな?借りておこう」
これは以前、アカザさんが口にした言葉だ。アカザさんはぐっと言葉を詰まらせた。
「…分かったよ。優さん、借りておくよ」
こうして何かあった時、連絡を取る方法を手に入れたのだった。
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