47:別れと帰路
「優嬢……」
別れのハグをして、すでにどのくらい過ぎたのか。キナル王子は別れを惜しんで抱きついたままだ。
「……っえきしょッ」
「師匠」
「キナル王子!もうそろそろ離して差し上げて下さい。
方伯が、お風邪を召されてしまいます」
いや、本当にね。早起きして朝風呂まで楽しんだのに、すっかり冷え切ってしまった。いくら冷え性ではないといっても、寒風吹き荒ぶ中、長い事ただ突っ立っているだけでは体も冷えるわ。
「はあ……。仕方ないね……。
ねえ、優嬢。いつも身に付けている物を何か一つ、私にもらえないだろうか?次にいつ会えるか分からないし、淋しくなるからね」
「交換したブレスレットは?」
「あれは作ってすぐもらったからね。いつも身に付けていなかったろう?」
えー?アクセサリーなんてほとんど付けないし、さくらはあげないし。家族でお揃いの青水晶のペンダントトップもあげないよ。
他あ?何かあったかなあ……。
「キナル王子!女性を困らせるものではありませんよ!」
ホントそれ。まったく……。
「あ、思い付いた。気に入っておられたパジャマはどうですか?」
王子が袖を通した品を着る気はないので、それなら渡せる。
「ああ、あの暖かい物だね。
ふむ。ちょっとお願いした物とは違うが、頂けるならありがたい品だね」
パジャマでも良いって事なので、使って頂いていた二着をお渡しした。
「ツヨシの建てた小屋で、この暖かいパジャマで過ごせば夜も暖かく過ごせそうだね。
優嬢、ありがとう。
時間を作って、また、会いにゆくよ。それまで元気で過ごしておくれ」
「ありがとうございます。キナル王子もお健やかにお過ごし下さい」
おいで下さいとは言わなかったからだろう。キナル王子はあれってお顔をなさったが、ようやく王城へ向けて出発なさった。
別れにやけに時間がかかったが、私達もあの村へ、カロリン村へ帰ろう。その前に……。
「みんな、お茶して温まる?」
「ああ、そうしたいねえ。体の芯から冷えちまったからね」
「僕、また入って良いなら温泉入りたいや!」
「まったく、あの王子……」
今回は、みんなの不興を買っても仕方ないね。うん。
◇
「じゃあ帰りは、来た道を寄り道を抜いた戻るルートで戻るよ。みんな、良いね?」
「はい!」×6
ルートとしては最速で着ける道だったので、来た道を戻る事になっている。早く戻って、そしてゆっくり『終わりは始まり』を迎えるんだ。毎年固定の年末年始で、十二月にも一月にも属さない、不思議な七日間だと教わった。
キャンピングカーは、快調に街道を進む。悪い魔法使いのいた森の中すら、古代ローマの道のようなきれいな道が敷設されているおかげだ。
カロリン村を目指して街道を進む事三日。まだ森の中で、行き倒れている方を見付けた。女性で、弓を装備していらっしゃる方だ。猟師さんかな?
女性をキャンピングカーに収容したので、旅の足はしばらく止まる。そのまま進めないからね。
凍傷もないし、外傷もなさそうなので一安心だ。
キャンピングカーの中の温度を上げ、ベッドルームへ寝かし付けて目覚めるのを待つ。
「この人数で看病をしなくていいだろ?俺、ランク上げたいから、ちょっと狩りしてくる。
クーとルーを連れて行って良いか?」
「クーとルーが行きたいなら良いよ。クー、ルー、行って来る?」
〘いっくのー!〙
〘いっぱい食べるー!〙
んんん?食べる???
「え?ご飯が足りないの?」
〘おやつ?〙
〘とれたて生!〙
うげ……っ。って、まあ肉食獣だしね。
「気を付けて行っておいで。ユリシーズさん、二匹をお願いします。
ユリシーズさんもアカザさん達も、気を付けてね」
みんな分かったと、意気揚々と出かけて行った。
◇
お留守番は私、カールくん、アカギさんの三人という珍しい組み合わせになっている。
リラさんがあちらに行けば、どっちの組にもヒーラーがいる事ができる。後、倒れていた女性が腕の立つ宜しくない方だと、私とカールくんとリラさんでは心配というのもあるそうだ。
アカギさんはかなり計算ができるので、カールくんの先生をお願いした。私はその間に十時のおやつと、お昼の仕込み、後、おかゆを作る。
「ふん、ふふん」
「優さま、ご機嫌だね!」
「うん、王都にいる時に、地方によっては甘く煮て食べてられている豆を見付けたんだ。それで『白玉ぜんざい』って名前の、和菓子みたいな物が作れないか試しているんだ」
その豆はいきなり煮始めても、割とすぐに柔らかくなると聞いている。だから、前日から水に浸しておく作業が必要ないのがありがたい。色は……、ちょっと赤味を帯びた茶色?小豆色はしていない。
どのタイミングで砂糖を投入するのかは覚えていなかったが、とりあえず食べられれば良いやと作る。もちろん白玉も用意するよ。
「こ……、ここは?!え、何この春みたいなし、室内!???」
「あ、気が付いた?安心して。ここは『キャンピングカー』っていう、移動する家みたいな物の中だよ。
倒れてたんだけど、どこか具合の悪いところはないかな?」
女性は一時間ほど眠っていたが、思ったより早く気付いた。
「そうだったんですね。助けて頂いて、ありがとうございます。
あ、あの。近くに仲間はいませんでしたか?」
彼女はジュリさんと仰り、近くの村の新米狩人だそうだ。倒れていた経緯を詳しく聞いてみると、狩人になってまだ一年ほどの仲間三人で、少し森の奥で狩りをしていたのだそうだ。
悪い魔法使いの噂がたった頃から、あまり見かけなくなっていた強い魔物が出るようになっていると聞き、仲間と一緒に狩りに出たと。
「でも、明け方に雪男が出て……。みんな街道を目指したけど、散り散りに逃げて……」
それを聞いてアカギさんが周囲を探して下さったが、誰も見付からなかった。アカザさん達が戻って来て、情報が何もなければ彼女、ジュリさんの住んでいる村のギルドに捜索要請をお願いする事にして、みんなの帰りを待つ事にしたんだ。
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