46:鉱山と温泉
目の前には採掘されたばかりの、巨大なダイヤの原石がごろり。世界最大のダイヤモンドの3106カラットより大きい……!!
ここは国営の鉱山。詳しい場所も、採掘されるメインの鉱石も秘匿されているそうだ。
なので、アカザさん達には街道近くの温泉でお留守番をお願した。ユリシーズさんは護衛を置いて行くのかと、最後までお留守番に反対だったよ。
「優嬢は、単独で魔物の熊を倒せる腕があるのだよ。つまり、自分の身は自分で守れるくらい強いのだから、そんなに心配しなくて大丈夫だよ」
これにはユリシーズさんもぐうの音も出ず、無言で送り出してくれた。後でフォローがすっごくいるとは思うけどね。
そんな事があったが、地球で一番大きなダイヤモンドより大きなダイヤの原石の見学ができた。
「ここは透明なダイヤと、良質なピンクダイヤが採掘されるのだよ。
今回の視察は、世界最大となるダイヤの原石が見付かったため急遽入ったものだが、優嬢を連れて来れて良かったよ」
「私が来て、本当に良かったんですか?」
国の秘密とか知りたくないのだが。
「もうずいぶん前から場所も、ダイヤが産出する事も漏れているからね。言わば、公の秘密なんだよ」
なるほど。それならまだ入れるね。おかげで本当に良い物が見れた。
ちょっと持たせて頂いたけど、ダイヤってこんなに重かったかなっていう重量感。原石でだが、カリナンの621・35グラムを越える重さにも驚いた。
他にも最近採掘された、とても品質の高いダイヤとピンクダイヤを見せて下さった。はあ、眼福、眼福。
そして、約束だからどれでも選んでと仰るのだが……。数日の社会的集会の対価に、ダイヤはちょっと高価過ぎるね。
「ダイヤ以外は、何も産出しないんですか?」
ダメ元でお聞きしてみるか。
「極少量、少し離れたところでルビーが出るよ」
ルビー!ルビーも好きだし、ダイヤより手頃そうな物もあるかも!そっちを見せて頂きたい!
◇
「これ、これが良いです」
ルビーを見せて頂き、対価に良さそうな、小さくてカラーも薄い物に一目惚れした。
「遠慮はいらないのだよ?こちらや、こちらなどはどうだい?」
キナル王子はそう言って、鳩の血のような濃い紅い物や、スタールビーを薦めて下さる。
「これが良いです」
今回もオーバルカットが編み出される前のカットか?それともアンティークカット?カットは知っているオーバルカットと少し違う、色も薄い小さなルビー。気になる。絶対にこれが良い。
「ふう……。分かったよ。そちらを贈ろう。他に私の選んだ物も贈るとしよう」
首を振って、お断りをする。そしてお願いをした。
「他に頂けるなら、お願いがあります。子竜の騒ぎの時、退避に応じて下さった方達の保障に使って下さい」
あの騒ぎや鉱山の土砂崩れの件の褒賞は、すべて退避に応じて下さった方達の保障に寄付をお願いしたのだ。
私は銀行の金庫ではない。一人で莫大なお金を持っていても、経済は回らない。
「貴女は本当に、金品を受け取るのは厳しいね」
「ありすぎても困る。年金だけで一生暮らせるだけ頂けるんです。それで十分です」
キナル王子もその辺は分かっておられたのか、それ以上は他のルビーをと仰られなかった。身の丈に合った物で十分だ。
分かったよと仰り、差し出して下さった色の薄いルビーをお礼を言って受け取った。
◇
「キャンピングカーで来れれば良かったのだが、さすがにあれは目立つからね。騎馬は辛くないだろうか?」
来る時も聞かれたが、二人で馬に乗る口実探しのような気がする。両手を広げて待っておられるし。
「馬の練習もしないといけませんし、大丈夫です。戻って早く温泉に浸かりましょう」
にっこり笑って馬首をめぐらす。近衛騎士のライヤーさんが、「王子、参りましょう」と、苦笑いを零しながらキナル王子に声をかけていらっしゃる。
「むう。普通の恋とは難しい……」
キナル王子がぽそりと零された一言。それには賛成だな。
◇
途中で小休憩を取りながら、みんなが待っている温泉まで夕方には帰って来れた。みんな狩りをすると言っていたが、鹿がたくさん獲れている。
「ああ、ユリシーズがね……」
なるほど。狩りで発散したのか。
〘クーもがんばったのー!〙
〘ルーもがんばったもん!〙
「そっか、クーもルーも頑張ったんだね。ありがとう。
鹿は食べる?」
〘いっぱい食べる!〙×2
最近さらに大きくなって来ているし、ユリシーズさんと獲物を探して走り回ったならお腹も空いているか。
「ユリシーズさん、クーとルーを見て下さってありがとうございました」
「……ああ」
うーん。まだあんまり復活してないみたいだな。
〘ユリシーズ、すごーいよ!〙
〘鹿のいるところ、知ってるのー!〙
「そうなの?」
〘いそうなところ、分かってる!〙
〘すっごく分かってる!〙
「ユリシーズさん。私は倒せる技術は持てたかも知れませんが、生態系や弱点といった事は知りません。
これからも危ないところに踏み込まないよう、護衛を宜しくお願いします」
ユリシーズさんは、酷く驚いた顔でこちらを振り返った。そして、ユリシーズさんにしては目尻の下がった顔で、「ああ」と答えてくれた。
◇
ユリシーズさんの機嫌も直ったし。先ずは温泉に浸かろう。ご飯を食べてからまた浸かるとして、汗を流そう。
温泉は脱衣所と囲いくらいしかなく、慌てて造った感じ。風情はないが、人目を気にせず温泉は楽しめるな。
「あ”あ”〜っ」×2
「う”ぅ”〜」×2
「みんな、凄い声ですよ」
「あ”ー、そんなのは良いよ」
「気持ちい”い”」
みんな裸で一緒に温泉に入るのは躊躇っていたが、しっかり体と頭を洗って湯に浸かればこれである。
「温泉はみんなで浸かって、会話を楽しんだりするのも醍醐味なんですよ」
「それどころじゃないよ……」×2
「美肌、美肌になる……」
一人おかしいけど、それどころじゃないのは分かる。ゆっくりしてもらおう。
「クーとルーもおいで〜!」
クーとルーは昔は水を嫌がっていたが、今は犬かきをマスターしてて水を恐がらない。そして、ちゃんとしっかり石鹸で体を洗ってある。
〘いっぱい泳げる!〙
〘泳げるー!〙
クーとルーも温泉に入って、賑やかな温泉タイムを満喫する。が、早目に男性組と代わって温泉を堪能してもらう。
男性組が温泉を堪能している間に、私は食事を作るのだ。
「温泉は寒さで凝った体が、とても解れるね」
「そうですね。体の芯から温まりますからね。
お湯に溶けている成分にもよりますが、冷えの改善だったり美肌に効果があったりしますよ」
この一言で後にここに離宮が建てられ、王家のみなさまが温泉好きになられたきっかけとなったそうだ。効果は美肌だったようで、特に女性に好まれたそうだ。
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