45: サロン
翌日の昼からの事だ。パワーストーンに興味を持った方達が押し寄せ、部屋がさながら社会的集会のようになってしまった。
二つのこたつから、みなさんなかなか出て行かれない。だから人が溜まって、自然と社会的集会みたいになってしまっている。
私は早く帰って頂こうと、部屋に結界を張り、ヒーターが効くようにしたらどうだろうと試してみたら……。さらに人が溜まって、悪循環になったのには参った。
体が温まって満足したらお帰り下さるかと思ったのだが、逆効果だった。
それだけ、城での生活が寒いのだともいえるが……。
城にまだ留まっているのは、帰る前に旅の疲れを落として行きなさいという、陛下のありがたいお言葉によるものだ。
しかし、これではかえって疲れが貯まる。特に気疲れの方。
◇
「優嬢、すまない。まさかここまで殺到するとは……」
「滅多にお目にかかれないオオシロ方伯に、しかも間近で会えるというのも大きいんだよ」
午後六時過ぎ。まだ部屋にいらした方達をキナル王子とアッシュ卿が穏便に、しかし強制的に排除して下さってやっと静かになった。
「どうだろう?三日ほど滞在を延ばして、パワーストーンをできるだけ多くの者に作ってくれないだろうか?」
「え……っ」
「お礼はするよ。帰り道から少し東にズレるが、この大陸ではその鉱山でしか取れない宝石があってね。
視察もあるので一緒に行って、気に入った物を贈るよ」
「ううーん……。終わりは始まりまでに……」
「たぶん、ツヨシの言う温泉もあるよ」
「〜〜〜っ。お受けします」
負けた。どんな宝石か見てみたいし、冬の温泉!極楽でしょ!
◇
翌日の朝。こたつの見た目はとても酷い物だったが、足踏みミシンでささっと作られた小綺麗な専用毛布と、羊毛織りの汚れよけが届けられた。おかげで小綺麗かつ、気密性が上がり、さらに温かくなった。
上にガラス板が乗せられ、お茶を置くのにも不自由しなくなったよ。
お城に滞在直後から専属で付けて下さっていた護衛騎士さん達や侍女さん達も慣れ、人を捌くのも上手くなってしまっている。
さらにはいつの間にか王妃陛下、王太子妃殿下、エリザベーテ殿下のお三人が打ち揃い、社会的集会の主然として滞在なさっていらっしゃる。
女性の娯楽などほとんどないような物なので、国王陛下より、「城内の方伯のところだ。ゆっくりして来ると良い」と、お言葉があったそうだ。
女性のトップ3が揃われたので、なお混雑してしまったがもうシラネ。
◇
「えーっと?」
忙しかった一日が、やっと終わった夕方。ほっとしたのもつかの間。
「ニホンショクを作ると聞いてな。食べに来たのだ。
疲れているだろうが、ここでツヨシか君が作らない限り、私達は日本人の作ったニホンショクは食べれぬから、食べさせてくれまいか」
そう仰るのは国王陛下。他に王太子殿下にキナル王子、そしてアッシュ卿までしっかりこたつに揃われた……。
前にお父さんと来た時も、ニホンショクとお父さん目当てに滞在先のキナル王子の城にある、お父さんが作ったログハウスにまで押しかけて来られていたっけ……。
まだそんなに昔の事ではない思い出に、ちょっと遠い目になってしまう。
疲れてこちらの洋食に近い食事が食べたくなかったので、まだ食べれそうな日本食をと思ったのだが……。作るしかないな。
部屋の外にキャンピングカーを出す許可を頂き、ご飯を作りにかかる。今夜は生姜鍋だ。
生姜と鍋のWで温まるのと、生姜で食欲を刺激して食べようというチョイスだ。
白菜など、鍋物に使えそうな食材を切っていく。こたつ二つに携帯コンロをセットして、昆布出汁を張った土鍋を火にかける。鶏肉や、切った野菜も入れてある。
「こうしてこたつ?に入って、食事ができるのを待つのは何とも楽しいものだな」
「本当に。王族や貴族は、食事に関しては不自由ですものね」
「毒味で冷めた食事で、香りも落ちていて食欲まで落ちますからね」
ああ、そうだ。そうだった。
この方達はこの方達で大変な思いをしながら、不自由な思いをしながら公務や政務といった重責を果たして下さっているんだ。
たまにお食事くらい作って差し上げよう。それで少し楽しみができるなら、お安いご用だ。
「生姜を擦り下ろした物を入れるので、体の中からとても温まりますよ。
タレにはこの『ポン酢』をどうぞ。少し酸っぱいですが、悪くなったタレではありません」
自分が疲れていて、陛下達を気遣う余裕すらなくしていた。それに気付いてから、素直に食事を楽しんで頂く事に集中できた。
食事も終わり、しばらくするとみなさんそれぞれのお部屋に向かわれた。「早く小上がりのこたつがほしい」と、口々に仰りながら。
お父さんがそれは手配してくれているので、近いうちに叶うと思います。
そんなパワーストーンの社会的集会と、夜のみなさんとの食事がセットになった数日を過ごす。
あっという間に数日は過ぎ、またキナル王子も一緒に鉱山と温泉へ向かう旅に出たのだった。
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