43:王城でのある一日
昨日はもう夜も遅かったので解散となった。
キナル王子も本当は今日の会談に出たかったそうだが政務が溜まっており、時間が取れなかったそうでいらっしゃらない。
そのため、改めてエリザベーテ殿下と二人で話す事になってしまった。
「オオシロ方伯、昨日は取り乱してしまってごめんなさいね」
「いいえ、気にしてませんよ」
「ありがとう。
昨日お願いした事、私の本当の気持ちなのよ。それだけはどうか分かってね……」
「もちろんですよ」
ここは王城の、キナル王子ご夫妻の部屋の一つ。それぞれの椅子の側にヒーターがあっても、ここはやりとても寒い。
「お子を授かれていれば……、こんな事をお願いしなくても良かったのだけど……。子どもを授かりにくい体質だと言われていましたから、どうしてもこうなったのね……」
ん?授かりにくいのは分かっている?何でだ?
「私ね、その……、月の……が、なかなか上手く来ませんの。結婚する少し前までは普通だったから、こうしてキナルさまのお妃になれましたのに……」
その辺はちゃんとチェックがあるんだ……。
うーん?これはもしかして、ちゃんとケアすれば授かれるのでは??
って、具体的にどうすれば良いか詳しくはないんだけど。うーん。
詳しく話して期待させて、上手く行かなくてがっかりさせてしまうのもあり得ないしな……。
ただ言える事は一つ。
「エリザベーテ殿下、私はお妃には向いていませんよ。
恋や愛も、実はよく分からなくって……」
エリザベーテ殿下は目をパチクリなさると、ふっとお笑いになられた。
「オオシロ方伯にもお分かりになられない事があったのね」
「分からない事の方が多いですよ。ああ、そうだ。一つお守りを」
私は無限収納から、ある原石を取り出す。
「こちらは私の住んでいた世界で、子宝を授かりたい方のお守りに良いとされていた石と同じ種類だと思います。
身に付けるのが宜しいのですが、部屋に飾るだけでも効果が望めるとされています。
こちらをお守りとして、お部屋にお飾り下さい」
母竜のお礼にあった原石の一つ。恐らくレッドルチルの原石をお渡しする。
ヒーリングのエネルギーを込めてしっかり浄化と、お二人の間にお子が授かるようにチューニングの代わりに願いを込めて。
エリザベーテ殿下は無骨な原石のプレゼントに驚かれたが、そっと手になさった。
「……、身体がふわっと温かくなって……、心地良いですわね……。
触っていると落ち着くわ……」
「それは宜しかったです」
お、相性が良いのかも。人がストーンを選ぶのではなく、ストーンが持ち主を選ぶって聞いた事もある。
もしそうなら、このストーンはここへ来るストーンだったのだ。なら、良いお守りになるな。
こうしてエリザベーテ殿下との会談は、無事に終わった。
◇
さて。午後からハンググライダーの飛行をお見せするのだが……。
「ああ、残念だ。ドレス姿が大変お美しいと噂になっているのに、ドレス姿が見られなかったなんて!」
馴れ馴れしい?あるいは軽い?このベタベタしてくる男性は一体誰なんだ?!
「アッシュ!ここにいたのだね。
彼女に触れるな」
あ、キナル王子だ。ベタベタさんを離して下さってほっとする。
「なんだ?オオシロ方伯は、まだただの候補だろう?
なら、今の内に親しくなっても、問題ないだろう?」
個人的には問題しかありませんが……っ。
「アッシュ……。普通、私や兄の妃候補にちょっかいは出さないよ」
王太子殿下やキナル王子のお妃候補にちょっかいが出せる。それなりに地位の高い方なのかな?
「君達兄弟の妃候補だよ?素晴らしいご令嬢しか来られないのだ。気になるのは当たり前だね。
それにご挨拶はしても、おかしな事になった事はないだろう?」
キナル王子はぐっと言葉に詰まってしまわれた。事実、おかしな事になった事がないのだろう。
「アッシュ、今度はオオシロ方伯にちょっかいをかけておるのか?
まったく、早く善いご令嬢と縁を持って、弟を安心させてやってもらいたいものだがね」
この軽い男性はなんとカッサーニ公アーノルドさまのご長男で、法服貴族本来の意味のまま、高等司法院の若手のホープなのだそうだ。
ん?なら、仕事とは関係なさそうだよね。なぜお出ましになられたんだか……。
◇
「方伯、こんな物で空が飛べるのかね?」
「ずいぶんシンプルな構造だね。本当にこれで飛ぶのかい?」
キナル王子は間違いなく国王陛下のお血筋で、アッシュ卿は間違いなくキナル王子の従兄弟だ。
好奇心旺盛なのがそっくりでいらっしゃる。
たぶん、純粋にハンググライダーが気になってお出ましになられたんだね。
「飛べます。どうぞ離れてご覧になって下さい」
陛下達が鍛錬場の端まで離れられたのを見届け、トンっと地を蹴って飛ぶ。
尖塔の多いお城なので、気を付けてお城の上を三周ほど旋回して地上に戻る。
「素晴らしい!これは素晴らしい魔道具ではないか!」
「人が飛ぶのを初めて見たよ」
地上に戻ると、陛下とアッシュ卿の大絶賛に始まり、陛下の側近の方達や軍関係の方達の大絶賛を受けた。
軍事利用の価値を考えていらっしゃるのだろうが、たぶん無理だよ。
「交戦しながらの飛行は無理です。
バランスが崩れてすぐ落ちますので、早く移動するくらいにしか使えないかと存じます」
みなさん酷く残念そうなお顔になられたが、人は空を飛べると知り、飛行魔道具開発熱が高まったのだった。
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