42:エリザベーテ殿下の気持ち
「優嬢が見当たらないね。どこだろうか?」
「ご用ですか?キナル王子」
「いや、用はないよ。姿が見当たらなかったから、探していたのだよ」
キナル王子の、心配だからなのか?べったり具合がとても酷い。時には物理的にも重い。
キナル王子の、視界の陰に入った程度で探されてしまうのだ……。そして後ろから首に腕を回して、ガッチリ捕まえられている事が多くなった。とても邪魔である。言えないけどさ……。
このままのご様子で、私、王城へ行くのか?エリザベーテ殿下に会わせる顔がないのだが……。
そして、実はカールくんも様子がおかしい。ずっとくっついて回っている。
「優さまは冒険者じゃないのに!どうしていつも危ない事すんのさ?!
僕、優さまがいなくなるとか、そんなの嫌だよ!」
悪い魔法使いとの戦いの後、緊張の糸が切れてからなのか?ちょっと間があってから、そんな事を叫びながら泣かれた。
お父さんやお母さんの事で、何か思い起こさせるのかな……?家族の事は聞かない方が良いのかも知れないと思って聞いた事がなかったけど、一度ちゃんと聞いた方が良いのかも知れない。
そんな訳でカールくんも前より凄く、後ろをくっついて回っている時間が増えた。かるがもの親子を想像させるくらいには、後ろをくっついて回るんだ。
ふう、やれやれ。とはいえ、小さな子に心配かけたから。カールくんのはある程度は許せる。
ユリシーズさんはたぶんいつも通り、かな?
普段通り無口だし、たまにいるよねってくらい見かけない事もあるし、そんなに絡まない。
ちょっとほっとする。
何せキナル王子とカールくんがあれなんで、一杯いっぱいだ。
アカザさん達は、もちろん変わらないよ。ずいぶん強くなったと褒めてもらったくらいか。
後、良く背後のモヤに気付いたねと言われたな。これは冒険者ギルドに報告して、倒し方の確立に向けたデータにするって。
ついでに、もう冒険者登録したらどうかと言われたよ。積極的に戦いたくないので、丁重にお断りしたけどね。
◇
お城に着くまでに考えてみたよ。キナル王子のお気持ちはお聞きしたが、やっぱり恋愛とかよく分からないっていうのが本音だ。
良い人だなとか、格好いい人だなくらいはさすがに思う事はあるけど。
何にせよ、恋愛と言われるとピンとこない。キナル王子に限らずだけどね。
あ、キナル王子の場合、恋愛飛び越えて結婚前提だったわ……。
こういう風に嫁いでいけた女の子達、実はとても凄いのだなと今更ながら驚いた。子どもの頃からそう育てられてるとしても、なかなかはいそうですかとは言えないと思う。
私は――――……。せめて町にいたいかなあ。
◇
「オオシロ方伯、久しいね。健やかであったかな?」
「国王陛下、拝謁がかない、恐悦至極にございます。
は、泰平のご治世。健やかに過ごしておりました」
体が元気でも、心が元気じゃなかろうとお城には着くわけで。もう拝謁の間に通されてしまっている。
しかも素晴らしいドレスまで用意されていた。
「弟から伝わってはいたが、ドレスになると本当に普段とは別人のように美しい貴婦人になられるね」
「もったいないお褒めの言葉、ありがとうございます」
ドレスは目を細めて微笑んでおられる、キナル王子がご用意なさったのだろう。鬘も用意されている周到ぶりには舌を巻くわ。
キナル王子の隣にエリザベーテ殿下がおられず、ほっとしてしまうよ。
「さあ、挨拶はすんだ。固苦しいのはここまでにして、ゆっくり飛ぶ道具や子竜や母竜と話せた事を聞かせてくれないかね」
◇
「ふはは。ゆかいだね。
これからも女性であろうと男に負けぬ働きはいくらでもできると、どうか喧伝を頼むよ」
なるほど。陛下は女性の地位を上げたくていらっしゃるんだ。それは賛成。
体力的には適う事が少なくても、出来る事はたくさんあるもん。この世界の女性が、少しでも自由に生きる日が早くなる事につながる何かができるのは嬉しいな。
「微力ながら、お役にたてればと存じます」
◇
拝謁だけで終わりだと思っていたのだが、夜はお身内だけの正餐のお招きを受けてしまった。明日はハンググライダーを見せてほしいとの事。
国王陛下のお招きをお断りなどできるはずもなく、正餐に出席する。明日はハンググライダーのお披露目。
毎日お風呂は入っているのでここでもお風呂はなかったが、かわりに体中に香油を使ったマッサージがあった。
ちょー?!恥ずかしいからやめー!などと言う叫びは誰も気に止めない。お願い。気にして!!
そして正餐のためのドレスと鬘とメイクが施され、正餐のための小さな食堂へ案内された。
靴は前のより合っているけど、もう痛いんだけど……。顔は化粧負けしたのか、痒くなってきてるし。たぶんこの時代のものだから、水銀とか鉛の入った化粧品やメイク落としも心配だし、敏感肌用みたいなものはないだろう。体調が悪いとすぐ負けるから、敏感肌用じゃないと困るんだよ。
「オオシロ方伯?お顔に赤い発疹がたくたん出来てますわ。どこかお体の具合が悪いのではなくて?」
正餐が終わりほっとしていると、声をかけて下さったのはキナル王子の妃殿下、エリザベーテ殿下だった。
「ご心配、痛み入ります。お化粧をすると、このように発疹ができる事が良くあります」
「まあ。それに、おみ足も痛めていらっしゃるようですわね。人を呼びますから、少しお待ちになってね」
◇
エリザベーテ殿下が人を呼んで運んで下さったのは、王城のキナル王子ご夫妻に与えられている一角だった。
なぜ、ここへ……。いや、当たり前か……。
足は癒し手さんが治して下さり、顔も一先ずお化粧を落とさせて下さった。
「エリザベーテ殿下、ありがとうございました。おかげで落ち着きました」
「良かった。では、私と少しだけお話しして下さる?」
……第二妃の事しかないよなぁ……。そういうの苦手だし、どうこうなりたいとか思ってないんで困るんだよなぁ……。
「もちろんです」
そう思っていても、こう答えるしかないよ。ふう。
「今回はこちらにお泊りで、これを逃すとお話しする機会がないかも知れないから、こんな風にお連れしてごめんなさい」
切り出しにくくていらっしゃるのだろう。なかなか本題に入られない。
どのくらいお待ちしただろう。やっと意を決してお話し下さるまで、けっこう世間話をした。
「あの、オオシロ方伯。どうかお願いです。
貴女がキナルさまの第二妃になって下さい……!」
…………、はい?
「貴女でしたら、これから先ももし私に子どもができなくても、きっと無下に扱われる事はないでしょう。
キナルさまも貴女さまの事を大変お気に召していらっしゃるから、だから、お願い……!」
いやいや。ちょっと待って。
ドロドロににならずにすんだのは良いとして、何か思ってたのと違う。混乱しているんだが……。
このお願いは国王陛下とお話しをなさっていて、戻るのが遅くなられたキナル王子が気付かれるまで続いた。
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