41:ソーサラー
「情報だと、この森に悪い魔法使いが住み着いたらしいんだよ」
「ソーサラーって何ですか?」
体は純粋に人間であるが、目つきもその表情もおかしく、ただ人を苦しめるためにその魔法を使う者。要約すると、そんな魔法使いらしい。
生きたる不死者とも呼ばれるそうだ。
「厄介な手合だね」
「ああ、話しは通じないからねぇ」
鉱山の麓の村を出て七日。ここまで順調に旅をして来たのだが、王都目前の森に入って二日目にもたらされた不穏な情報。
「一年ほど前から、この近隣のどこかの森に潜んでいると噂されちゃあいたが、それがこの森に潜んでいると断定されたそうなんだよ」
今まで大きな動きがなかったので、あくまでいるかも?くらいだったのが、いるという確証が出たのだという。その知らせが冒険者ギルドから、各冒険者のギルドカードに伝達されて来たのだ。
「この森をここまで来ては、先へ向かっても引き返しても変わらないね。
急いで進んで森を抜けようと思うが、どうだろう?」
「ええ、どの方向へ向かっても変わりませんからね」
「いるなら森の東寄りにある、小山の洞窟だろうからね。それで異議はないよ」
◇
ただの人であるなら馬の足には着いて来れないって事で、キャンピングカーは収納。そして全員、騎馬で森を駆け抜ける事になった。
馬は足りないのでキナル王子が私を乗せ、近衛騎士のライヤーさんがカールくんを乗せて下さる。
アカザさん達紅き剣のメンバーは、普段の旅の時と同じという別れ方で二頭の馬に分かれて乗り、ユリシーズさんはキャンピングカーを牽いてくれているアークに乗る。
見事に、何かあれば戦わずに逃げる事を優先する組と、戦う組に分かれたな。
私は戦う術はあっても戦闘経験が少なすぎて、足手まといになりかねない。キナル王子は逃げて生き延びる事も、王族としての大事な仕事だ。カールくんは戦う事ができないので、逃げるのが当たり前。仕方ないのは分かってはいるが――……。
私は結界を張るブレスレットをバラし、二玉ずつみんなに渡す。魔法攻撃の不意打ちを防ぐか、悪くても威力の緩和はできるだろう。自分の分はないが、それは私が結界を張ってカバーする。
みんな警戒をしているが、クーとルーにも辺りを警戒してもらいながら進む。生き物もなりを潜めているのか、何事もなく夕方になってほっとする。
「ふう、遭遇しなくて良かったですね」
「ああ、そうだね。だが、キャンピングカーやコンテナハウスの中では接敵に気付きにくいからね。今夜は普通の夜営で我慢しておくれ」
「それはもちろんです。みんなでキナル王子のテントにお世話になります」
近衛騎士さん達がさっと張ったテントで、朝日が登ったらすぐ出発するために早く眠った夜半過ぎ。
「敵襲!」
短い叫び声と共に、炎の魔法が着弾する凄まじい音に跳ね起きた。
◇
「師匠!カール!逃げろ!
王子さん、師匠を頼む!」
「分かっているよ!
みな、すまないがこの場を頼む!」
「王子!お逃げ下さい!!」
ライヤーさんはカールくんを抱え、隙きを見て馬に飛び乗ろうとしている。キナル王子も私を抱き抱え、馬まで移動しようとなさっている。
戦闘場所は徐々に私達から離れ始めている。
少し離れたおかげか、悪い魔法使いがはっきり見て取れた。そして、悪い魔法使いの背後に黒いモヤのような物と、一際モヤの濃い部分も。
もしかして、あれをどうにかすれば戦いは終わるんじゃ……?
「キナル王子!もしかしたら悪い魔法使いを倒せるかも知れません!だから、私はあっちへ行くよ!」
「優?!」
驚いて一瞬力の弱まったキナル王子の腕の中から飛び出し、ユリシーズさん達の戦っている方へ走り出す。後ろでは、キナル王子とカールくんが何か叫んでいる。
◇
結界で防御しながら走ると、最後尾にいたユリシーズさんに追いついた。
「ばか!!何でこっちに来た?!」
「ごめん!それより私を悪い魔法使いに近づけさせて!倒せるかも知れない!」
ユリシーズさんは分かったと言うとそれ以上何も言わず、悪い魔法使いに近づく事に専念した。
私は魔道具に使われている長いコードを付けた黒水晶を、エア89式小銃に装填しながら付いて行く。
◇
敵は生きたる不死者とも言われるだけあり、とても強い。アカザさん達も、近衛騎士さん達も怪我を重ねていっている。
早く倒さないと、誰か死んでしまうかも知れない。それは嫌だ!!
ここまで激しい魔法攻撃の応酬の戦闘経験がなく、足は震えるし、怖くて心臓が痛いくらいきゅってしている。それでも、みんなで生き残るために踏ん張るんだ!
どうにか私達は、悪い魔法使いの近くの岩陰に身を潜める事に成功した。ふうっと深い息を一つ。そして人差し指を動かし、セレクターを三点バーストに入れる。しっかりモヤの濃い所に狙いを定める。
どうかコードが足りますように……!一発はそこに当たりますように……!
聖魔法発動。同時に射撃。
たーん!たーん!たーんんんっ!
「ぎゃあああああああああっ!!」
モヤに聖魔法と黒水晶の魔除けの効果を併せた弾を打ち込むと、モヤの方から断末魔の絶叫が響き渡った。それと同時に、悪い魔法使いもばたりと地面に倒れ伏す。
しばらく様子を見ていたが、悪い魔法使いが動く気配はない。
ユリシーズさんは私にここで座っているように言いつけると、悪い魔法使いの生死の確認に向かった。
弾は悪い魔法使いに一発も当たっていないが、悪い魔法使いは死んでいるそうだ。
モヤは何か霊的な物で、条件を満たした魔法使いに取り憑き、操っていたのかも知れない。そしてこの人は、もうほとんど寿命が尽きていたのだろう。だから憑物が取れた時に亡くなったのではないかと、近衛騎士さんの検分で判断された。
痩せ細り、骨と皮だけになった体を毛布で包んであげる。まだ若い女性だったので少し髪を整え、衣服も整えてからしっかり包んであげた。
「優!!」
走り寄って来たキナル王子に、痛いくらい強く抱き竦められる。
「貴女は本当に……」
心臓がとても早く打っているのも、震えているのも伝わって来る。とても心配をかけたな。
「勝手な事をして、すみません。キナル王子」
「いや……、貴女のおかげで誰も失わずにすんだ。ありがとう」
ライヤーさんとカールくんが、みんなにハイポーションを配ってくれている。私もハイポーションを渡され、それを飲んで人心地つく。
キャンピングカーとコンテナハウス二つを出し、しっかり眠って森を抜ける事にした。もうこれほどの敵は近くにはいないと、クーとルーが教えてくれたのだ。
◇
翌日、私達は亡骸と共に森を出た。そしてギルドのある一番近くの村のギルドで報告をすませ、彼女の埋葬の許可を頂いた。
「彼女は手酷く振られ、その後しばらくして私達の知る悪い魔法使いになったそうだよ」
彼女が身に付けていた冒険者証から身元が分かり、そこから分かった事をキナル王子が教えて下さる。
そして彼女に憑いていたモヤ。やはりそれは霊的な物と思われる。こちらの世界でも霊的な物は良く分からない物らしい。
「来世は幸せになってね」
私達は彼女の来世の幸せを祈り、村を後にしたのだった。
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