40:星空の夜食会
この日はキナル王子とユリシーズさんに休めと言われたが、もちろん復旧作業に出向いた。
その甲斐あって、明日には地元の人達だけで復旧が終わりそうなところまで片付いたので良いかな。
今回はこの騒動で、珍しい石を見るのは諦めた。それだけがちょっと心残りに思いながら、キャンピングカーは明日から本来進むはずだったルートを進む。
「優嬢、これを貴女に」
「これは?」
「『太陽と月』だよ。この村では採掘された宝石用原石を、流通させられる宝石の形に加工をしているからね」
「報酬の範囲で頂いて良い物ですか?」
「優秀な部下にそう進言されて、その範囲の物にしてあるよ」
きっと、いつもキナル王子と書類仕事なさっている近衛騎士、ライヤーさんだね。
「ありがとうございます。では、遠慮なく頂きます」
箱を開けて中を見てみる。研磨技術の関係か、アンティークカットに近いオーバルカットの小さな宝石の付いたネックレスが収まっていた。
そっと取り出して光りに翳すと、とても奇麗な色をしている。
正直、アレキサンドライトかどうかは見たくらいでは分からないが、艷やかな紅い石はとても綺麗で気に入った。
「ありがとうございます。奇麗ですね。大事にします」
ユリシーズさんやアカザさん達の報酬は、現金で支払われたそうだ。私は現金の代わりにこのネックレス。うん、現金より嬉しいぞ。
「いつか、金の合金の一種の桜と一緒に、常に身に付けてくれるようになると嬉しいね」
キナル王子は奇麗なお顔でにっこり微笑みながら、そんな事を仰る。まあ、台座とチェーンの色が全然違うので、そんな事はしないだろう。うん。
◇
「本当に風呂で寝ないどくれよ?」
「昨日はご迷惑かけましたけど、大丈夫ですから」
昨日、お風呂で寝てしまうという失態を犯したので、誰かと一緒にお風呂へと言われたが……。一人でゆっくり入らせてくれ。
今日も晩ご飯をリラさんと、近衛騎士さんが作って下さるそうだ。疲れてるいし、汚れているからお風呂入ってからになる晩ご飯の用意をしていると遅くなるので大変助かる。
で、お風呂に入ろうとしていたのだが、子竜の件以降、心配をかけ通しだからかアカザさんが心配性になってしまった。
ぎゅっとハグして、大丈夫だからと言うと、アカザさんはハグ仕返してくれた。
「オオシロさんは、日本人にはハグの習慣がないからハグはしないだろうし、しないでやってくれと言われていたが……、やっぱりこうしてくれると安心するね……」
ん?こっちってハグのある文化だったんだ。知らなかったわ。
「あー、それはお父さんに感謝だな」
そんな私がハグしたからか、アカザさんは気をつけるんだよとだけ言ってお風呂へ入らせてくれくれた。
相変わらず、知らない内にお父さんに護られているなと思う。本当に良い人に拾ってもらえたな。
そんな事を湯船で考えながらゆっくりしていると、またも寝そうになったので慌ててお風呂から上がる。
四十フィートのコンテナハウスが増え、後をそこまで気にせず長湯できるようになったのはコンテナハウスを増やしたメリットの一つだな。
ご飯より何より寝たいな。そう思ってアカザさんに伝えると、「あれは眠くなるのが分かるよ」と、ご飯も食べずに寝かせてくれた。
◇
「お腹空いた……」
もうみんな寝静まった夜中。お腹が空いて目が覚めてしまった。
キッチンはアカザさん達の寝室になっていて使えない。外で何か食べようかな。
クーとルーと一緒に、ぱっと外へ出る。アカザさん達を冷たい空気で起こさないように、本当にぱっと。
「ふー……、良かった。誰も起きなかった」
キャンピングカーとコンテナハウス二つから少し離れた場所に、簡易椅子と携帯コンロ、五徳などを出して簡単な食事を作る。
ごそごそしていると、後ろから声がかかって飛び上がった。
「師匠?」
「驚いた。ユリシーズさんか……」
「何してって、腹が空いたのか」
「はは、うん。お腹が空いて目が覚めてね」
「俺も食わして」
ユリシーズさんの分の簡易椅子を出すと、ユリシーズさんはそこへ腰掛けて鍋と瓶を取り出す。
胡椒を効かせたチーズトーストにするつもりだったが、あれはいつか飲ませてもらったホットカシスかな?
だったら、胡椒はなしで作ろう。
「はい、チーズトースト」
「ああ、ありがとう」
ユリシーズさんからは、ホットカシスの入ったカップが渡された。
「ありがとう。んー、美味しい」
「作って中で食えば、寒くなかったな」
「意外と匂いがするから、みんなを起こすよ。それに、外だから良いものが見られる」
良いのもの?と、ユリシーズさんは眉を寄せる。
「一面の、物凄い数の星だよ」
私は上を見ながら答える。
「前に住んでいたところは、夜でも光が溢れててね。そのせいで、見える星の数が減るくらいだったんだ。
だからこんな奇麗な星空は、とても贅沢なものだったよ」
宇宙の説明が必要だったが、日本は宇宙から見ても他の国より明るいのが分かるくらいだったと話すと、とても驚いていた。
キャンピングカーで旅をしているから、滅多にこうして星空を見上げる機会はない。
異世界って、地球とは別の次元にあるのだろうか?それとも同じ次元の、凄く離れた所にある星なんだろうか?
もし後者なら、一つくらい奇跡的に知っている星が見えないだろうか?
そんな事を思いながら、長く星空を見上げたのだった。
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