39:異世界版ハンググライダー再び
脇道がもうなくなり、一本道を進んでいた時の事だ。クーとルーが、この山は様子が変と言い出した。何だかぐちゃぐちゃって感じがすると。
雪崩が起きる程の雪はないが、雪が降ったり溶けたりはしていそうだ。だったら土砂崩れかと一旦近くの村まで引き返し、村から道なりにハンググライダーで飛んでみたのだが――……。
「キナル王子。土砂崩れがあります。けっこう奥まで続いてるようです。
このまま鉱山の村まで飛んで、怪我人が出てないか確かめに行きます」
キナル王子のスマホと繋ぎっぱなしにしていたので、すぐさま見えた状況を伝える。
『分かったよ。こちらも村人に聞いてみたのだが、数日前に地鳴りがした気がするという者が何人かいたよ。報告も連絡もないので、恐らくあちらの村には影響がないとは思うが……。確認をお願いするよ。
くれぐれも気を付けておくれ』
「分かりました。また何かあればご報告します」
毎日誰かが通る道ではないそうなので、もし土砂崩れが起きていても気付いていない可能性もあるそうだ。根拠は、何もそういった連絡がどこにも入っていない事。
気付いていないだけなら問題ない。週に一度、食料を運ぶ時に気付いたとして、食料が運べない事が問題だ。食料の備蓄もないそうだから、すぐに食料が底を尽きる。
報告も連絡もしない事で、食料が尽きる前に道が復旧できなかったりしたら問題だ。
村はすぐに見えてきた。村の上空を飛んで見てみた限り、村は大丈夫なようだ。ほっと胸を撫で下ろす。
ぎりぎり着地できそうな開けた場所があり、そこへ降り立つ。
「すみません。村長さんのお宅と、鉱山の監督官さんはどちらにいらっしゃるか教えて頂けますか?」
近くの家で村長さんと鉱山の監督官さんの家を教えて頂き、監督官さんの家を訪ねる。
◇
「き、キナル王子殿下?」
『ああ、そうだよ。オオシロ方伯に私のサインの入った、王家の紋章入りの手紙を預けてあっただろう?』
「は、女なんぞにお預けになるとは思わず……」
『黙れ!事態を把握していながら報告もできない男より、村を心配してこの寒い中、空を飛ぶ道具で空まで飛んでそこへ確認に向かった彼女の方がよほど優秀だ!』
そう。ここは田舎の小さな村。男尊女卑の風潮が色濃く残っているのだ。
面会を求めても相手にされず、ずっとそれをスマホ越しに聞いておられたキナル王子が聞くに耐えられず、間に入って下さったのだ。
『すぐにオオシロ方伯を村長の元へ案内しなさい。村長からも話しを聞いて、指示を出すよ』
監督官さんは手のひらを返したようにへこへことし、村長さんの家へ案内して下さったよ。まあ、スマホがキナル王子と繋がったままで、会話を全部キナル王子が聞いていらっしゃるからだろうけどね。
◇
『つまり二人共、外からいずれ助けは来るだろうと土砂崩れの報告も、救助要請もしていなかったのだね?』
「は、はあ。そうなります」
「スマホなどという物を知りませんで、はい……」
スマホはまだまだ普及してないからな。知らなくても普通。しかし、鉱山には一台ある。万が一、崩落などがあった場合に助けを求めるためだ。
『君達はもう良いよ。下ってくれ。
優嬢、土砂崩れを何とかできるだろうか?』
「土砂を左右に分けて、細い道を通す程度なら……。細い道では馬車が通れませんので、物資が運べないです」
しばし話し合った結果、道から上の土砂を戻せるだけ戻してある程度固め、その上にさらに土砂を戻して周りと同じ程度固める事になった。そしてまだ残っている土砂で土留めの壁を作る事に決まった。
春になったら植樹と、秋になったなら色んな植物の種を蒔く事もお願いしておいた。
「植物の根は土を流れにくくするんです。何年かして植えた木が大きくなれば、しっかり土を押さえつつ、水も保ってくれますから」
『そんな効果があるのだね。それはこちらで責任を持ってそうしよう。
ああ、それと。こちら側から、土魔法の上手い者が土砂を戻し始めたよ』
「ありがとうございます。助かります。私はこちら側から土砂を戻して行きますね」
通話はそのまま繋いでおくようにとの事で、通話状態のまま作業にとりかかる。
慣れない作業で、少々コツを掴むのに時間がかかってしまった。それはあちら側も同じらしく、一日では復旧は終わらなかった。
◇
「ただいまあ。疲れたよ〜」
「お帰り。無事で何よりだよ。そしてすまない。
あの監督官の言動、貴女をあんな男の言動で傷付けたかと思うと申し訳ないよ……」
キナル王子が事ある毎に抱きつくのも、もういくらか慣れたな。大きな背中をぽんぽんしながら考える。
さすがに現代日本で、あんなあからさまに女だから云々なんて事で傷付けられた事はない。全く傷付かなかったわけじゃないが、ある程度は男尊女卑のある世界だからと割り切っている。
それより、だ。
「あの監督官さん、よく私が女だって分かったな」
「ああ、それは確かにね」
今日の私はこっちで作った細身のパンツスタイルだ。他にも男性と変わらない服を身に着けているし、背も一般的な男性よりはるかに高い。
「女性を見抜く力だけは最初に対応した者も、あの監督官もあったようだね」
思わず苦笑いをこぼし合った。
「師匠、役に立てなくてすまない。
風呂の用意してあるから、汚れを落として温まって。体、冷えてるだろ」
「ありがとう!それ嬉しいな」
また土砂が流れて来ないかと、実は内心びくびくしながら作業していたのでとても疲れている。すぐに温かいお風呂に入れるのは、とてもありがたい。
「そうだね、休んでもらうのが先だったね。ゆっくり温まって、体を休めておくれ」
キナル王子の服を汚した事を謝り、お風呂へ向かう。まあ、キナル王子が抱きついたから汚れたのだが……。
食事はリラさんと近衛騎士さんが作って下さっているそうなので、ゆっくりお風呂に入らせて頂こうっと。
◇
翌日。
「……、えーっと?お風呂に入ってからの記憶がない……」
湯船で温まりながら、どうも寝落ちしたらしい……。
なかなか出て来ないので、心配したアカザさんがお風呂で寝ている私を見つけたって。
ベッドへは、アカザさん達で運んで下さったそうだ。
それを聞いたキナル王子とユリシーズさんがキャンピングカーに駆け込んで来ようとしたのも止めて下さったとか。これはさすがに、近衛騎士さん達も止めて下さったと聞いてほっとした。
うう、色々迷惑と心配かけてごめんなさい。
ヒーリングはしたが念の為、横で寝ていたというリラさんが起きてからそう教えて頂いた。
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