38:寄り道決定
「うーん……、暇だ……」
つい、口の中で零してしまった。
酪農開拓村を出て三日。ずっとキャンピングカーで移動しているだけなので、さすがに暇だ。
カールくんに勉強を教えるくらいしかする事がないので、暇を持て余している。
たまにベッドの上でストレッチとかはするが、運動量としては物足りない。
あ、そうだ。拾っていたアンバーを、何かに加工しよう。形は整えてもらっているから、アクセにしよう。
無限収納からラジオペンチみたいな物やワイヤーの残りや、あれこれと必要な物を取り出す。もちろん、成形したアンバーも取り出す。
ふんふん。これは大きくてちょっとゴツいから、お父さんに。んー……、お父さんの、ワンポイントのブレスレットにでも仕上げよう。
ワイヤーでアンバーを装飾しながら巻いてー……。あ、ちょっと可愛くなったな。巻くワイヤーを増やしてっと……。
◇
「器用なものだね。それは……、ブレスレットかい?」
いつの間にか楽しくなって、そうとう集中していたらしい。みんながこっちを見ているのにも気付かなかったよ。
「そうです。海岸でアンバーを拾ったので、それをお父さんが身に付けられるようにブレスレットにしてます」
キナル王子が手を出されるので、できたばかりのブレスレットをその手に乗せる。ゴムがあれば、ゴム紐のブレスレットにするけど、それだとすぐに終わるから。作るのを楽しむなら、ワイヤーは良いね。
「これはツヨシの物か」
「そうです。割と簡単なので、作ってみますか?」
「優さま!僕も!」
無言だが、ユリシーズさんもアンバーを取り出しているので作るらしい。
「じゃあ作りましょうか。キナル王子は、この中からお好きなアンバーをお選び下さい。良ければ近衛騎士さんもどうぞ」
キナル王子と近衛騎士さんがアンバーを選ぶと、ワイヤーワーク講座開始。
いくつか曲げ方や巻き付け方、上手く作るコツを教えてあげると、みんな自分の世界に入ってコツコツ作品を作り始めた。私もそれに倣って、お母さんのネックレスを作る事にした。
◇
「……!出来た!」
「早いね。うん、たるみもないし、上手に出来てるよ」
カールくんのブレスレットを手にして確かめる。初めてとはとても思えない出来栄えだ。
「へへ〜。これね、優さまにあげる!」
なんかブレスレットの直径が大きいなと思ったら……。
「ありがとう。じゃあ、これをカールくんにあげる」
お母さんのネックレスを作り終え、次の作品にかかっていて出来上がったブレスレットをあげると、カールくんはとても喜んでくれた。
「あ、俺も交換してほしい……」
「私もしてほしいね」
ユリシーズさんとキナル王子も交換したいらしい。
「えーっと?作るから待って」
交換したいと言うのなら、応じるのが一番手っ取り早く静かになるだろう。そういう思惑で、せっせとブレスレットを二つ作りあげる。
もちろん交換すると分かっているので、ユリシーズさんのイメージと、キナル王子のイメージで作る。
◇
「こっちがユリシーズさんの。で、こっちがキナル王子のイメージで作ったブレスレット。どうぞ」
四人には、もしかしたら錆びて、いつか使えなくなるかもしれない事を伝えておく。どうなるか分からないけど、念のために伝えておかないとね。
「分かった!錆びても大事に取っておくんだ!」
カールくんの明るさに反し、大人男子二人はちょっと残念そうな顔をしている。そんないいものじゃないんだから、そこまで期待しないでもらいたいものだ。
「オオシロ方伯、こういった物がお好きでしたら、ここから近い山で珍しい鉱石が取れますよ。光りによって、色が変わるそうです」
!!それはもしかして、アレキサンドライト?!
「ああ、そう言えば、小さな鉱床の山がこの近くにあったね。『太陽と月』、だったかな?」
「ええ、その宝石です」
「ふ。優嬢はとても欲しそうだね。帰る日にちは決まっていないから、少し寄ろうか」
「決まっていないだけで、早く帰らなくてはならないのでは?」
「雪で難儀した。ただそれだけだよ」
顔に行きたいと絶対に書いてあったのだろう。キナル王子はくすりと笑うと、国営のその鉱山へ行くと決められた。
「ありがとうございます!嬉しいです」
「喜んでくれるなら何よりだよ」
こうしてちょっと寄り道する事となったが、本当に楽しみだ。
◇
鉱山へ寄り道する事はお昼休憩の時、みんなに伝えられた。そしてしっかり地図を確認し、ルートが選定された。
往復に一日もかからないくらい近くを通るらしいので、ちょっと罪悪感が和らぐ。
それでも山へ向かうので、食料は多めに持って行く事になるよ。近くの村で食料補給する事も全員に伝達された。
「では、しばし寄り道しよう」
「はっ」
「すみません。宜しくお願いします」
「快適な冬の旅をさせて頂いているのです。お安いご用ですよ」
「あたしらは優さんに付いて行くだけだから、どこへいつ行ってもかまわないさ」
みんな、ありがとう。ちょっとだけ寄り道しよう。
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