37:酪農開拓村
アーノルドさまのお城を出て二日目。いつか私の言った、浮浪者などの仕事がない人は、酪農とかの仕事に就けないかと言った事で始まった事業の一つ。開拓村の一つに着いた。
ここは馬と牛、ひつじの酪農を中心とした開拓地なのだそうだ。この辺りは麦は足りているが、酪農が全然足りていないので、そっちの方に力を入れた村だって。
慰労にと、キナル王子はたくさんお肉や小麦を用意なさっていた。量が量なので、私がいなければ誰かに運んでもらう事になったという量だ。それでもまだ足りないだろうから、それは村で狩りをして賄う。クーとルーの出番だね。
村長さんや衛兵さん達は、急なキナル王子の来訪にとても驚いていらした。
事前に連絡があっても驚くだろうが、いきなりはさらに驚くよね。
◇
「食料も心許ないが、狼などの襲撃が多いのだね」
「はい。まだ人手が少ないので、毎晩歩哨の任に着ける者も少なく、苦慮いたしております」
三年は国から充分な量の小麦とじゃが芋と肉の支給があるそうなので、足りないのはおかしいと唸るキナル王子。それは今考えても解決しないので保留にして、思考を害獣の方に移された。
小隊ニつで六十人がこの村に駐屯しているそうだが、いかんせん放牧地が広い。なかなか手が回りきらない。
普通は一分隊かニ分隊の派遣のところ、小隊ニつの派遣と、かなり多く人員を割かれていてもこんな状態だそうだ。
交代で休みも取るし、朝も昼も夜も働きづめって無茶ももちろんしないので仕方ない。
「まだ人に被害が出ていないのが救いだね。害獣の件は、早急に手を打とう」
調査ではそんなに狼はいなかったって事は、縄張りが調査の後で出来たのかも。
◇
「ふう……。後一棟」
村の中を見て回って驚いた。いくら急拵えといっても、あまりに粗末すぎる小屋にみんな住んでいたのだ。隙間風も入りたい放題だ。
良く凍死者が出てないものだと、驚くレベルの荒屋にみんな住んでいる。
お父さんの家は高価過ぎるのと、建つまでに時間がかかって無理だが、隙間風のない家なら作れる。
「三軒長屋」
ぼ……こ、ぼこぼこぼこっ。
村の人にどこに家があると便利か聞いて、そこに京都の長屋をイメージした物を土魔法で作って五棟目。屋根に明り取りのガラス窓を嵌めて、玄関ドアと裏口のドアを付ければ完成だ。
最初は普通の平屋の細長い家を作ったが、平屋の三軒長屋を作っても、独立した一軒の建物を作るのと変わらない魔力で作れた。なら、三軒長屋作るよね!
窓ガラスは衛兵さん達の中で、ガラスを作れるスキルのある方が作って下さっている。窓を嵌めて下さる方、部屋のドアを付けて下さる方もいる。
一人で全部しなくて良いので、とても助かった。衛兵さん達、ありがとうございます。
広さは八畳の4K。一部屋、あるいは二部屋は雇っている人の部屋になるので、家族の家としてはそこまで広くない。それでも今住んでいる小屋よりは、ずいぶん広くなる。
「やっぱり師匠の魔法は、マルチのレベルじゃない……」
「マルチ?マルチではこんなにぽんぽんと……。いや、無限収納で普通ではないのは分かっていたな……」
外野が少々うるさいが、気にしたら負けだ。
「後は衛兵さん達の宿舎ですね。どこに建てますか?」
「まだ大丈夫なのか?」
「明日でも構わないのだよ?」
「みんなのために頑張って下さってる衛兵さん達の宿舎ですよ?今からちゃんと作ります。
マジックポーションもマジックハイポーションもありますから、大丈夫です」
衛兵さんに宿舎を建ててほしい場所へ案内して頂く。各部屋に台所はいらないと。ふむ。部屋も八畳もなくて良い?ふむふむ。
「一階に食堂と共同浴場、各階に共同トイレ、一部屋六畳の三階建アパート」
ぼこっ。ぼここぼこぼこぼこっ。
「でか……っ」
「……、これは、マルチの土魔法で作る建物のサイズだろうか……?」
「優さんはおかしい」×4
+
「優さま、おかしい」
文句の一つも言いたいが、そんな言葉を聞いている内にさすがにくらっとして、ユリシーズさんに抱き止められてしまった。そして、マジックポーションを差し出された。
「ありがとう」
良いから飲めと、マジックポーションの蓋を開けて差し出され直されたよ。ありがたく飲んで回復する。
◇
みんな荷物は少ないので、すぐに引っ越しは終わったそうだ。少し余裕のある家庭にはヒーターがあり、ヒーターが良く効くと喜んで下さった。
そしてキナル王子からの小麦や肉も配られ、みんな隙間風のない家でしっかりした食事に疲れを癒せたそうだ。
ただ、浴室の使い方だけは色んな方から聞かれた。そういえば、イメージの中に普通のお風呂場も含まれてたわ。
うなぎの寝床なので細長いが、天窓が歩き土間に二箇所、真ん中三つの部屋にも天窓があるので、とても明るいのは好評だったよー。
◇
夜まで少し時間があったので、夜に備えて休む。害獣の対策が何かないか、夜に見て周るためだ。
クーとルーがいるので今夜は出ないかもしれないが、明日出発するので今夜しか時間がない。
衛兵さん達が夜の歩哨で交代されるのに合わせ、私、ユリシーズさん、アカザさん達も混ぜて頂いた。口々に宿舎のお礼を言って下さるのがこそばゆい。
あ、キナル王子とカールくんはお留守番。歩哨なんて、王子がなさる仕事ではないでしょ。
カールくんは戦う術もないし、まだ未成年だから当然お留守番。
いじけられたが、コンテナハウスにいてくれる方が安心だよ。
明け方近く、森に近い放牧地で猪が出た。魔物の猪でかなりの巨体だったが、聞いていた狼は朝になっても出なかった。やはりクーとルーのおかげかも。
「クー、ルー。この辺りの家畜に、うーん。家畜が分からないかもだな?この辺りの獲物に手を出すなって、大っきい声で遠吠えしてもらえるかな?」
〘分かったー!〙
〘ここの獲物は優のー!〙
いや、何かちょっと違うが……。ま、いいや。
これ以降、何年もこの村ではほとんど害獣が出なかったそうだ。めでたし、めでたし。
念の為お渡しした雷の屑魔石の罠は、獲物をとる方で活躍したとも聞き及んだ。
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