36:無限って付くよね
キナル王子の後処理が終わるまでの二日間、私達はアーノルドさまご夫妻とベーテ姫のお話し相手や、乞われてハンググライダーで城の上を飛んでお見せしたり、狩りに行ったり、近くの町へ行ったりして楽しく過ごした。
狩りは主にクーとルーのためだけど、結構な成果になった。
そして、いよいよ王城へ向かう時が来た。
「叔父上、大変お世話になりました。ありがとうございました。
叔父上もおば上も、どうぞお元気でお過ごし下さい」
「ああ、またベーテ姫にも会いに来てやると良い」
「はい。ベーテ、君も健やかであっておくれ」
「ありがとう、お兄様。お兄様もお元気で」
キナル王子のご挨拶が終わると、私もお世話になったお礼と別れの挨拶をすませる。
みんなキャンピングカーに乗るか馬に跨がるかして用意が出来ると、ゆっくりお城から離れ始める。アーノルド様ご夫妻とベーテ姫は、いつまでも見送って下さった。
◇
「クー、ルー、大丈夫?馬達の足には気を付けるんだよ」
〘はいなのー〙
〘はーいなのー〙
クーとルーは運動不足解消に、疲れるまでキャンピングカーを追って走ってみる事にしたのだ。キナル王子は仕事の間、わしゃわしゃできなくなって残念そうだ。
「じゃあ、カールくんは私と勉強ね」
「うん!お願いします」
カールくんは時間を見て、私が国語と算数を教えている。元々寺子屋にも通っていたので、今は掛け算、割り算と、大きな桁の足し算と引き算がメインの勉強だ。
カールくんに教えている時、たまに算盤を弾く手付きになる。
「優嬢が計算の時にたまにしている手の動き。それは計算が早くなるおまじないかい?」
不思議に思ったのだろうキナル王子に、おまじないかと訊ねられてしまった。まあ、おまじないと言えばおまじないかな?
「普段は頭の中にある算盤という計算道具で計算してますが、ややこしい計算の時は手を使う方が正確で早くなるのでつい手を動かします」
今はややこしいというか、苦手な段の掛け算で手を動かして計算していた。
キナル王子はうん?どこかで聞いたような名前だと考え込まれている。
しばらくして無限収納に手を入れると、お目当ての物を取り出された。
「これの事だろうか?ずっと楽器だと聞いていたのだが……」
差し出されたそれは、まさに算盤だ。なぜ楽器として伝わったのやら……。そして、キナル王子は算盤を、何故大事そうに無限収納にしまっていたのやら。
「懐かしいな。これは日本で、昔使われていた計算の道具ですよ」
渡された算盤は壊れているところもなく、やや珠の弾きは悪いが充分使える。奇麗な道を走っているとはいえ、走っているキャンピングカーの中で使うにはちょうど良い具合だ。
キナル王子から一枚書類をお借りして、算盤を弾いて見せる。
「おお!」
キャンピングカーにいた全員の、驚きの声が重なった。
「……、合っているね。これは素晴らしい計算の道具だったのだね」
しげしげと、算盤を手にして眺めるキナル王子。非現実的だ。
覚えれば仕事が捗るって、キナル王子と側にいらした近衛騎士さんに、算盤を教えてほしいと頼まれた。王城に着くまでに覚えられるようなものでもないですよとは言ったのだが、覚えられるところまででもと言い募られると断れない。なぜか近衛騎士さんも算盤をお持ちなので、王城に着くまでお教えする事になった。
アカザさん達はそこまでさっと計算出来なくても不便はないので、今のままでいいとの事。
◇
さて、今日もそろそろ夜営をする時間だ。無限収納。無限収納だよね?無限って事はだよ?
「……」
「四十フィートのコンテナハウスを用意しました。これでそれぞれ分かれて夜営できます」
四十フィートのコンテナハウスには、メインベッドルームの他に二つ客間がある。客間にもベッドが二台ずつあって、四人いらっしゃる近衛騎士さん達の人数ともぴったりだ。
キナル王子は目を丸くするのと同時に、非難がましい視線をこちらへ送って来られる。いやいや。おかしいですから!普通は一緒に寝ないものですからね!
「キナル王子達が、このコンテナハウスをお使い下さい。食事にはそちらのダイニングが広いので、そちらに集まってしようと思います」
で、キャンピングカーは私とアカザさん達女子が。二十フィートのコンテナハウスは、ユリシーズさんとカールくんの男子が使う。
落ち込むキナル王子は、一番仲の良い近衛騎士さんに何やら励まされながら、しぶしぶとだが四十フィートのコンテナハウスに向かわれた。とっても不満の現れた声で、お礼の言葉は頂いてからだけど。
その後に続いて、夜ご飯の準備に向かう。中に入ると、キャンピングカーよりかなりゆったりしたダイニングでキナル王子はゆったり腰掛けてくつろいでいらっしゃった。
「ほら、こっちの方がゆったりしてて過ごしやすいでしょう?」
「それは……、否めないね」
キナル王子は苦笑を漏らす。
「このキッチン付リビングダイニングの左奥がメインベッドルーム、その手前がバス、トイレ。リビングダイニングの右奥が客間で、二つあります」
近衛騎士さん達が一通り見て確認なさる。それが終わると、食事の準備に取り掛かった。心なしか、うきうきとしてしまったよ。
そうしてリラさんも手伝って下さり、晩ご飯ができ上がってゆく。ローストビーフ、マッシュポテト、旬野菜と煮豆のサラダ、具だくさんスープ、パンとご飯。
クーとルーには、今日の晩ご飯にと二匹が選んだお肉。
飲み物はアーノルドさまから頂いた貴腐ワイン、高価な赤と白のワイン、日本酒、麦焼酎と、かなり色々ある。
お肉に発泡ワインも合うと思うが、こちらには発泡ワインはない。まあ偶然できたようなものだからね……。
あ、カールくんには果実水だよ!
さあ、みんなで飲んで食べて、王城まで元気に着ける体力を付けよう!
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