35:夜食会
「えーっと、ベーテ姫?お部屋はあちらではなかったですか?」
「私、今夜はキャンピングカーに泊まりたいの。とても温かくて過ごしやすかったから、あそこならきっとグッスリ眠れると分かるもの」
まあ、城の広大な部屋にぽつんとヒーターがあってもね、部屋は温まらないわ。断熱材も使われていないし、隙間風もあるしね……。
「分かりました。ただ、この豪奢なドレスでお入り頂くには狭いです。ですのでお越しになられるのは、シンプルなドレスに着替えられてからの方が宜しいかと思います」
それもそうねと、ベーテ姫は一度、部屋へ着替えに戻られた。キナル王子もそちらへ付かれたので、私達は先導の従者さんや侍女さん達にキャンピングカーまで案内して頂いた。侍女さん達なのは、誰もドレスを一人で脱げないからだ。
履き慣れないヒールによたよたして、なかなか進めない。足もズキズキしているから、後でリラさんにヒーリングをお願いしよう。
「師匠、足痛めてる?」
カールくんがキレイ、キレイと褒めながら手を貸してくれているが、しっかりバレているらしい。
「うん、慣れない靴だから」
正直にそう言うと、ひょいっと抱き上げられてしまった。
「キャンピングカーまで距離もあるし、その歩く速度じゃ時間かかるから。しばらく我慢な」
お姫さま抱っこにも、もう叫ばない。前に何度かされたしね。……これでいいのか、私?!
はあ。疲れたし、足痛いし、もう慣れたし、楽だし。もういいや。
◇
キャンピングカーに着くとダイニングに降ろされ、ユリシーズさんとカールくんの男子組はコンテナハウスへ入った。ベーテ姫が来られる事だし、みんなドレスを脱がせて頂かないと脱げない。そして、早くドレスが脱げた順番でさっとお風呂に入る。
「これ、かなり痛かったでしょ?すぐ癒やすね」
「うん、ありがとう。お願いします」
リラさんが着替え終わった時点で私は一旦ドレスを脱がせて頂く手を止めて頂き、リラさんのヒーリングを受ける。はあ、これで痛みとお別れだし、歩き回れる。
そうこうしていると、狭い中でドレスを脱がせて頂いていたので手間取ってしまって、ベーテ姫とキナル王子がもう来られてしまった。
ベーテ姫にはベッドルームの方でお待ち頂くようにお願いしたら、私が着替え終わった頃にはお休みになられていた。キナル王子はといえば、コンテナハウスで着替え終わるのを待っていらっしゃるそうだ。
私はダイニングのソファーベッドで寝るかな。
その前に何か食べよう。コルセットでギュウギュウ締め上げられていたから、あんまりご飯を食べられなくてお腹が空いた。ドレスを脱がせて頂きながら、夜食の事を考えていたのは許してほしいな。
◇
「遅くまでどうもありがとうございました。お休みなさい」
着替えのために来て下さった侍女さん達を見送っていると、キナル王子がこちらへ入って来られる。
「ベーテは……、ああ。もう休んだのか。はしゃいでいたから、疲れたかな」
まずベーテ姫の様子を確認なさると、ダイニングへ来られた。とてもニコニコなさっている。
「何か食べられると思ったのだが、違うだろうか?」
ああ、キナル王子もあまり食べる暇はなかったもんね。
「合ってますよ。少しお待ち下さいね」
コンテナハウスはもう明かりが消えている。みんな寝たんだな。じゃあ作るのは五人前、念のため六人前か。
冷蔵庫に入れていた茶碗蒸しから取り掛かる。次は、炊いておいたご飯と漬けておいた鯛の切り身の出番。そこに細かく砕いた昆布で作った昆布茶を用意。
夜も遅いし、多少食べているのでこれで良いよね。
「なぁに?何か食べるの?私のもある?」
なるべく音を立てないように気を付けていたが、ベーテ姫が起き出して来られた。
「もちろん、ご用意してありますよ」
少し寒そうになさっているので、暖房を強める。
「うふふ、この中は春のようね。心地良いわ」
ベーテ姫はキナル王子の隣に腰掛け、くつろぎ始められた。
「ああ。これか、外のコンテナハウスか、ベーテも知っているツヨシの建てた家があれば夏は涼しく、冬は温かく過ごせるよ」
「叔父さまも、ツヨシ卿に小さなお家をお願いなされば良いのに」
「それは叔父上のお考えによるからね。どうだろう」
気にはなっていらっしゃるようだが、見た目が今一つらしい。町には馴染んでいたけど、お城とは全然違うもんね……。
◇
「できましたよ。侍女さんと、近衛騎士さんお二人の分もありますのでどうぞ」
ダイニングテーブルに、六人分の夜食を並べる。ここでは毒味をしないのも、もはやいつもの事になっている。侍女さんと、もう城の中だと弁えた近衛騎士さん達は辞退なさろうとしたが、キナル王子の「食べると良いよ」って一言で手を付けられた。
「わあ、温かい食事。嬉しいわ」
「優嬢、冷酒をもらっても良いだろうか?」
「はい、良いですよ。どうぞ」
キナル王子には冷酒を、ベーテ姫と姫の侍女さん、近衛騎士さん達にはミネラルウォーターを、私には升酒で、角に塩を乗せた物を用意した。
「優嬢、それは?」
「中身はキナル王子と同じですが、これは升酒という飲み方です。角に乗せた塩をアテにします」
日本酒のアテには、塩辛い物が合うと思う。その究極が、粗塩をアテにする飲み方だと思う。
たまにこれが恋しくなるんだよ。
和やかな夜食が終わると、キナル王子は城の中の部屋へ戻られた。さすがにここでは一緒に寝ないようで、とてもほっとした。
そんな訳で、久しぶりに夜、クーとルーとだけで眠る事ができてしっかり眠れたのだった。
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