34:祝の宴
「あの?ど、なた?でしょうか?」
お昼寝していたのだが、目醒めると、なぜか見知らぬ金髪碧眼の美少女がベッドの縁に腰掛けてこちらを見ているのはなぜだ?!
「ほうっ。本当に、素敵な男性と見間違えますわね。
見ていると、とってもどきどきしますわ」
だから、誰だ?!危ない事を言うこの女性は!??
「ベーテ!ここにいたのだね。おかしな事を口走るものじゃないよ!」
珍しく声を大きくしたキナル王子が、慌てた様子でカーテンを閉めたベッドルームに飛び込んでいらした。
心の中で、「キナル王子は人が寝てるベッドに潜り込んで来ますよね!」と突っ込んだのは内緒だ。
「キナル王子?あの、こちらは?
お知り合いですか?」
「優嬢、いきなり入ってすまない。こちらの女性は私の妹、ベーテ。身元の不確かな、怪しい者ではないので安心しておくれ」
身元はこの上なく確かだが、違う意味でこの上なく怪しいよ……!
「見ての通り、お転婆が過ぎて手を焼いている」
「あら、お兄様。恋物語では、みなこのように意中の方にしておりましたわ」
キナル王子は片手で顔を覆い、天を仰いでしまわれた。
「ベーテ。恋に恋するのは構わないよ。ただ、それを行動に移してはいけないだろう?」
「私、オオシロ方伯にお会いするのを楽しみにしておりましたのよ!お兄様達より素敵な、男性のような女性になどなかなかお目にかかれませんもの!
それに、いつかオオシロ方伯のような素敵な男性と恋ができれば良いなって、ちょっと夢を見ていただけですわ」
えーっと……、頭が痛くなって来た……。
「兎に角、君は城に戻りなさい。優嬢はお疲れなのだ。休ませて差し上げなさい」
ベーテ殿下は後で必ず紹介してね!と言って、キャンピングカーの外に控えていた侍女さん達に傅かれ、お城の中に戻って行かれた。
◇
「やれやれ……。姿が見えないと騒ぎになっているから、もしやと思えば……」
ここは法服貴族からは引退なさったが、現役の領主でいらっしゃるキナル王子達の叔父上が城主を務める居城なのだそうだ。
ベーテ殿下がおられるのは子どもの頃から喘息があり、潮風に当たって生活すると体が丈夫になるという民間療法に一縷の望みをかけ、こちらで療養なさっておられるからだそうだ。
「喘息の事があり、女性の中でも特にままならない生活をしていたためだろうか、とても本が好きな姫に育ったのだが……。とても夢見がちな姫にも育ったよ」
落ち着こうって事で淹れたお茶で喉を潤しながら、キナル王子がベーテ殿下の事を教えて下さった。
「喘息がおありなんですね。お辛いでしょうね」
「気遣ってくれてありがとう。あの子もあの夢見がちなところがなければ、素直にとても良い子だと言えるよ」
そう言うキナル王子のお顔は、とても慈愛に満ちていらっしゃる。本当に可愛い妹姫なのだろうな。
一服が終わると、まだまだ忙しいキナル王子はお城の中へ戻って行かれた。私達はこのまま、キャンピングカーで過ごしていて良いそうだ。夜に竜の件が片付いたパーティーが催されるので、それには出るようにとの事だが……。
その後王城へ赴き、国王陛下への報告も必要だそうだ。はあ、色んな意味で気鬱だなあ……。
◇
「な、な、な?何ですか?!」
キナル王子がお城に戻られたのと入れ違いに、お針子さんだの侍女さんだのがキャンピングカーに押し寄せて来た!
手狭と、あれよあれよという間にコンテナハウスへ連れて行かれ、みんなにキャンピングカーへ移ってもらうと、あれよあれよという間に色々着付けだヘアメイクだ何だとされてしまった。
私の支度が終わると、今度はアカザさん達が招き入れられ、やはりあっという間に着飾らされていた。
時間になり、アカザさん達は一足先に会場入りに向かった。この国では、パーティでも爵位の低い順に入る。玄関の混乱を緩和するためだって。
爵位のないアカザさん達が参加できるのは、異例中の異例のようだが。
そしてさらに時間が過ぎ、私は侍女さんに先導され、会場に向かった。
◇
「これは……、見違えたね。普段の男性のような見目からは想像も付かないくらい、とても美しいよ」
お褒めの言葉を頂いたが、疲れるものでしかないんですよね……。
そういうキナル王子は叙爵の時に見た、王族の正装姿が大変美麗ですよ。
すでにやや疲れている私に、キナル王子の腕がすっと差し伸べられた。
「今夜は晩餐会でも夜会でもなく、気楽な祝の宴だ。ニホンショクも用意されているそうだから、楽しんで」
「ありがとうございます。お世話になります」
会場となっているホールへ入ると、キナル王子への挨拶が始まった。私は何もしゃべらず、キナル王子にお任せすれば良いとの事で、表情筋をフル稼働して笑顔だけ作って過ごす。
キナル王子の叔父上でこのお城の城主でもあり、パーティーの主催者でもあられるカッサーニ公アーノルド・ド・メディシス閣下ご夫妻へのご挨拶、ベーテ殿下へのご挨拶も恙無く終えた。
何とか、まだマナー教育の知識が残っていて良かった。
談笑の時間はキナル王子がブロックになっていて、キナル王子のお身内以外誰も来ないのはとても助かった。
カッサーニ公爵閣下も、国王陛下に負けないくらい砕けたお方で、かなり気楽に過ごせたのもありがたい。
「私も、固苦しいのは陛下に負けないくらい苦手でね。アーノルドと呼んで頂きたい」
親しい間柄や許可があると、アーノルドさまのようにお名前でお呼びする事は可能だ。しかし、アーノルド公爵などのように個人名+爵位では基本的にお呼びしないのだったな。
で、アーノルドさまとお呼びするには……。
「ありがとうございます、カッサーニ公アーノルドさま。私の事は優とお呼び下さいませ」
「本来ならそれで合っているのだが、ただ名前でかまわんよ」
人好きのする笑顔でそう仰って下さるようなお方だ。緊張もずいぶん和らいだ。
「分かりました、アーノルドさま」
「叔父さまばかりズルいですわ!私もオオシロ方伯とおしゃべりしたいわ」
「ベーテ殿下も、私の事は優とお呼び下さいませ」
「本当?嬉しいっ。
私の事、殿下と呼ぶのを禁じますわ。ベーテと呼んで下さいな」
「分かりました、ベーテ姫」
「しかし、優嬢には驚きましたな。叙爵の際にはご令嬢方や貴婦人方の視線を攫う美男子ぶりでしたが、こうしてドレスをまとわれれば大変お美しい貴婦人に早変わりなさる」
「本当に。叙爵の時、確かにオオシロ卿の娘子さまとお聞きしておりましたのに、どう見ても見目麗しい美男子でしたわ。みな、困惑したものでしてよ」
「うふふ。いつもはお兄様達を見てうっとりしている令嬢方やご婦人方が、あの時ばかりは優さまを見ておりましたわね」
「私もいくらかお会いしていたが、あの時は確かに素晴らしい美男子ぶりに驚かされたね。そして、今日は素晴らしい貴婦人ぶりに驚かされているよ」
話はそんな内容から始まり、竜の親子を帰せた話をし終わったのは、ちょうどパーティーが終わろうという時間だった。
宴でいくつか収穫もあったよ。
転移者であるお父さんが来た時も、それ以前の転移者があった時も色々起こったそうだ。
だが、それまでになかった事は転移者に相談したりすると、驚くほどすんなり解決して来たのだそうだ。逆に自分たちで解決しようとして、事態が更に悪化しかかった事しかなかったとも。
今回は場所も、旧王都にいるお父さんより私の方が近くにいる。大きな問題もここのところ起こっていなかった。
ならお父さんより、私を頼るのが妥当だろうとなったのだそうだ。
キナル王子がお越しになった時、何か解決方法を持っていないかと仰っていらしたのがようやく納得できたよ。
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