33:母竜来る
[ちょっ、離してーっ。おか、お母さん竜がもうすぐそこまで来てるってば!]
[うん!母さんが人間にいてもらいなさいって!]
[ダメだって!竜は人の気配を嫌がるんでしょう?]
本当に離してっ。この距離でも、もしかしたら竜のブレスって届くんじゃないのかと焦っている。だが、子竜がお母さんが人間にいてもらいなさいと念話を寄越したと言って、服を咥えて離してくれないのだ。
うっわ、羽撃きの風が届き始めたよ!もう近い近い!
ブレスレットの結界全部と、今作る結界でブレス凌げるかな?!
お父さん、ごめん。飛ばなくて良くなったって知らせたら、喜んでくれたのに……。先立つ不幸を許してね……。
◇
[まあぁ?本当に私達と会話しているとは、珍しい人間だわ]
メ、お母さんとは思えない重低音ボイス!もう来ちゃった……。
母竜は優雅に羽撃いているのだが、大きな翼からの風はとても強い。これでもいくらか風の魔法か重力の魔法で飛んでいて、だからあの巨体は飛べると言われていると聞いたけど……。
確かに、翼だけで飛ぶには、胴体の重量感に対して翼は脆弱だ。翼の羽撃きだけでは飛べまい。
母竜が地上に降り、羽撃きで生まれる風がなくなるまでしゃべれそうにない。
[ぷはっ、い、息が……っ]
[ああ、ごめんなさい。これでもかなり魔法で飛んでたのよ]
やっと母竜さんが着陸して、息が吸えるようになった。ぜえ、苦しかった。
[私達は空の覇者。弱い者に無闇に攻撃しないわ。だからここにいて、話しを聞いてちょうだい]
こてっと小首を傾げるさまが、なんか意外と可愛いのだが……。
◇
退避しなかったキナル王子達やユリシーズさん、アカザさん達も近くに来て話が始まる。
キナル王子はさすがに退避なさるように促したが、絶対に退避しないと仰り、説得する私の言葉も、近衛騎士さん達の言葉も聞き入れられる事がなかったためここにおられる。
頑固なのは、王太子殿下と似ているかもしれない。
いずれにしろ、母竜さんと話していたら心配する人達も集まったので、母竜さんの話を聞く事にする。
◇
「言葉が変わり、意志の疎通ができなくなった事で竜を恐れ、遠ざけていたのは人間だったとは……」
[ええ、私達はそうそう人間にどうにかされるほど弱くないもの。恐れる理由がないわ]
母竜の言う事は尤もだ。納得した。通訳すると、キナル王子達も納得していた。
[人の言葉を覚えるくらいには、昔はともに暮らしていたみたいだけれどね]
そういって母竜はコロコロ笑っている。何がツボに入ったのだか……。
[話とはその頃から伝わっている、マジックポーションって薬を分けてほしいの。
ずっとこんなに大きな子を掴んで飛んでいると、この子が怪我をしてしまうわ。だから自分で飛んでほしいのだけど、魔力が足りないのよ]
なるほど。人にいてもらってと言うはずだわ。みんなで手持ちのマジックポーションやマジックハイポーションを出し合って、母竜に見せてみる。
[ちょっと少ないけど、少しなら私がこの子を掴んで飛べば良いわね]
話はまとまったが、瓶は消化できなさそうなので、革袋に入れ替えてあげた。専用の瓶から出しても、一日くらいなら効果が極端に落ちないのが分かっているのでできた事だ。
[ごめんなさいね。お世話をかけたわ、人の子さん達。餌もマジックポーションもありがとう]
母竜は鉤爪にしっかり括りつけてあげたマジックポーションと、マジックハイポーション入りの二つの革袋を掲げて見せる。
[お礼にこれを受け取って]
うわっ。竜も無限収納使えるんだ?!驚いた。って、みんな驚いてるわ。
◇
[すごい金銀財宝の山……]
文字道理だ。私の背と変わらないくらいの金銀財宝の山が形成されるほどの財宝が、無限収納から取り出された。
[私達はキラキラした物を集めるの。だからたくさんあるから、もらってちょうだい。
確か、人もキラキラしたの好きでしょう?]
カラスかっ!はあ。
まあキラキラ好きは人にもよると思うけど、多過ぎじゃないか…………?
[いけない、風が吹き上げそうになって来たわね。急いで大地の切れ目を越えないと!]
[えっ?!これ、ちょっと多い……]
[いいのよ。子どもが生きて帰って来たんだから!さあ、帰るわよ。
人の子さん、ありがとう!]
母竜と子竜はばさりと飛び立つ。強い風に、みんな体を低くして耐える。
上空を旋回している母竜から、念話が届く。
[あ、もし笛が入っていたら、それは近くにいる私達竜を友好的に呼ぶものだから、貴女が使って]
それだけ言うと、母竜と子竜はお礼を言っているように高く一声啼き、大地溝帯の向こうを目指して飛び去っていく。
私達はしばらくぽかんと、竜の親子が飛び去った方角の空を見つめていた。
◇
「はあぁ、無事に竜達は帰りましたけど、これ……」
ようやく我に返った私達には、まだ問題が山積みだ。
そのうちの一つはもちろん、小山のような金銀財宝だ。
「それはもちろん、すべて優嬢の物だろう」
「え??!!」
「俺達はマジックポーション出しただけで、何もしてないからな」
「いや、それも重要」
「優さんが竜の言葉が分かったからみんな無事なんだ、当たり前だね」
いやいやいやと説得したが、みんながなんとか受け取ったのは出したマジックポーションと、マジックハイポーションの代金分だけだ。
「あの母竜も優嬢の前に置いたのだ。きっと、貴女に受け取ってもらいたいからだろう。そんな物を、私達には受け取れないよ」
こ、これはどんなに言ってみても、誰もこれ以上受け取らないって事だよね?
ひーっ、これいくらになるの?!
◇
竜の親子が大地溝帯に戻って行ったので、出していた避難命令の解除などでばたばたしているキナル王子。そういうのは手が出せないので、キャンピングカーでゆっくりしている。
キャンピングカー自体は、近くの領主さんのお城を目指している。この件の最高責任者たるキナル王子が、こんな僻地にいては情報が集まりにくいからだ。
うん。色々疲れたし、緊張からも解放された。お仕事しているキナル王子がいらっしゃる同じキャンピングカーの中で申し訳ないけど、ちょっと寝かせて――――……。
うん?誰?抱き締められている?それに、何か言っているけど声が小さいし、眠くて聞き取れない……。
ごめん、起きた時に言って……。
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