30:諦めも肝心
「おはよ、みんな。結界があるし、昨日は大丈夫だった?」
ブルルッ。
「良かった。お塩はさすがにあんまり食べてないね。
君はそろそろ削蹄してもいい頃だな。
君は裏堀りかな。
今日もたくさん走ってもらうけど、みんなお願いね」
ひひーんっ、ブルルッ。
朝、馬達に挨拶と体調チェックをするが、みんな元気で走りたそうだ。結界の中に雪は入らないが、じわじわ空気は入れ替わる。その為、それなりに結界内は冷えているが、体調の悪い子はいないようでほっとする。
夜の間に、足を痛めたりしている子もいないようだ。
「優さまは、馬達にもすっごく懐かれてるよね!」
元気になったカールくんが、アカザさんと近衛騎士さんのお一人と一緒に飼葉を与えたり、ブラッシングしたり、蹄にオイルを塗ったりと朝の馬達の世話をしている。
「馬達は人の気分にも敏感だし、言葉も分かってる風だからね。それを気にしながら接してるよ。
言葉が話せないから、してほしい事を見逃さないようにもしてるかな」
馬達に背中を食まれて甘えられつつ、そう答える。
「牧場の娘のアタシより、詳しいかも知れないね」
顔を上げたアカザさんが、そんな事をボヤく。
生き物には塩が必要だ。それは馬だって同じだ。
こちらの世界ではそれはまだあまり知られていないようで、塩をあげなくて大丈夫なのかと尋ねた事を指して言っている。
「それはないです。たまに世話してただけだから、上辺しか分かりませんよ」
じゃあ、朝ご飯が出来たら呼びますねと声をかけて、キャンピングカーへと戻る。
「今日も馬達にもモテたようだね」
「お陰様でモテましたよ」
キナル王子は私ほどは馬達に懐かれないので、ちょっと悔しいそうだ。
たまに世話もなさるそうだが、毎日気にかけてくれる人間に懐いても仕方ないと思う。
三食の中で夜がメインというキナル王子に合わせ、朝が簡単な食事なので、こうして馬達に早目に会う時間が取れるための一幕だ。
「さーて、ご飯作るかな」
◇
朝食を済ませると、すぐに移動の開始だ。コンテナハウスは無限収納にしまい、キャンピングカーにみんな乗り込む。
キナル王子達も、コンテナハウスを出し入れするのには度肝を抜かれていた。「優嬢だから……」と、キナル王子は未だかつて見た事のないサイズの無限収納にちょっと考える事を放棄なさったようだ。
そんなコンテナハウスの収納をする頃にはキャンピングカーの準備が終わり、私が乗り込むのを待つばかりになっている。
今日の最初の御者はユリシーズさんだ。湯たんぽを膝に抱え、温かい加工の大判ショールとダウンベストもしっかり身に付けている。
なお、湯たんぽはアカザさん達にもだが、近衛騎士さん達にも渡してあるよ。
御者台側の小窓からお願いしますと声をかけると、キャンピングカーは進み始める。
キャンピングカーの前の左右には近衛騎士さん達が、後方の左右にはアカザさんとナハルさんが、更に後方にもお一人、近衛騎士さんが騎馬で随行なさっている。
キナル王子の馬ともう一頭は、近衛騎士さんが引いて連れておられるのだが…。
空馬を連れるのって、かなり大変なんだけどね。すごいなあ。
キャンピングカーの中ではキナル王子が近衛騎士さんと共に、スマホでやり取りしつつできる政務をなさっている。ま、まだ準備の段階だけどね。十時になると、本格的な政務の時間となる。
キャンピングカーは乗っている人数が増えたので、進む速度がゆっくりになっており、予定より一日程度遅く着きそうだって事だ。空馬も連れているから、早く進むのは難しい。
途中で魔物の熊を討伐したり、カールくんの体調不良と雪風で止まっていた事もあり、更に一日到着が遅れる見込みだ。
◇
「みんな、今日もたくさん進んでくれてありがとう。ゆっくり休んでね」
夕方、夜営する時間になると土魔法で簡単な厩舎を作り、厩舎を結界で包んだ中で馬達を休ませる。
テントの設営時間がいらないので、普通の移動より遅い時間まで進む。そんな頑張ってくれた馬達を労うのも、私には楽しみの一つだ。
カールくん達は馬の頭数と同じ人数で馬達の夕方のお世話をしている。一人で二頭とかお世話するより、早くお世話が終わるからだ。
邪魔にならないように早々にキャンピングカーに引き上げ、晩ご飯の準備に取り掛かる。お昼に下拵えしてあるので、割と早く終わるよ。
今日はカツ丼だ。卵もヒーリングすると、新鮮なら生で食べられる事が分かったのでメニューに加わった一品だ。
カツには衣を付けてあるし、小鉢三種は出来ている。味噌汁に入れる具は切れていて、後は鍋に投入するばかり。
人の方は、手の空いている人からお風呂も入り始めている。
夜ご飯とキナル王子の晩しゃくが終わり、洗い物と洗濯が終われば就寝。
キナル王子は、私のパジャマの予備を大変気に入って使っておられる。温かい素材のツーピースなので、足がスースーしないからだそうだ。どうも冷え性男子っぽいんだよね。
男性の冷え性は、女性と比べて酷くなる人が多いと聞いた気がする。
それもあって抱っこされずに寝るのは諦めた。湯たんぽも、足元と腰の辺りに用意するようにした。
「温かい」
キナル王子がふにゃりとしている。
「もしかして抱きついてお休みになっていたのは、お体が冷えてしまうからですか?」
「それもあるが、やはり腕の中に人肌の温もりを感じるのは心地良いからね」
「……」
ヒーターも強めてあるし、湯たんぽも増やしたし、もしかして抱っこは避けられるかと思ったのは甘かったようだ。
天然保温器として、無心で寝る事にしたわ。
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