29:カールくんの体調不良
「やっぱり、精神的な事からかな?
ヒーリングしても熱が下り切らないね」
カールくんが赤い顔をしていたからおでこを触ると、三十八℃前後ありそうな熱があったのだ。
毎日、何時間か御者をしてもらっている。可能な限り防寒も保温もしていても、体調を崩しても仕方ないだろう。
あれこれ考えつく理由に対してヒーリングしてみたが、さほど熱は下がらない。
みんなまだ未成年のカールくんには優しいのだが、それでも大人ばかりの中に子どもは一人で気疲れしたのかも知れない。
心細いのか、ぴったりくっついて離れないしね。
「カールくん、ベッドルームで横になってしっかり寝よう。座ってるのも辛いでしょ?」
カールくんはこくりと頷くと、大人しくベッドルームへ向かう。ただ、不安そうに私を一瞥してからだが。
カールくんを見送ると、キナル王子に切り出す。
「あの、キナル王子」
「言わなくても大丈夫だよ。雪の混じった強い風も吹いている。
時間にはまだ余裕があるのだし、このまま移動は止めよう」
「ありがとうございます」
キナル王子に頭を下げると、レモン水を持ち、カールくんを追ってベッドルームへ向かう。
「カールくん、レモン水飲む?」
カールくんは隅っこで、小さくなって横になっている。
具合が悪くなって、足止めする事に罪悪感なんかがあるのだろう。
よしよしと頭を撫で、安心させてあげる。
「誰だって具合の悪くなる事はあるんだから、気にしなくて良いよ。
それに、元気になるまでそばにいる。一人じゃないからね」
こちらに向き直ったカールくんは目に一杯涙をため、うんと微かに笑う。
「少し塩の入ったレモン水。これ飲んでて。コンテナハウス出して来るよ」
体を起こしたカールくんに塩入りレモン水を持たせると、外に出てコンテナハウスを設置する。
アカザさん達はすまなさそうにしながら、すぐそちらへ入る。
「師匠、いつも負担が大きくて悪い。カール頼む」
ユリシーズさんが最後にそう言って、コンテナハウスへ入って行った。
なかなか分かり辛いが、あれで結構カールくんの事を可愛がっているもんな。
閉じられたドアに向かい、もちろんと答えてキャンピングカーに戻る。
◇
カールくんがレモン水を飲んだ後、真ん中よりに寝かしつけて頭に冷やしたタオルを乗せてあげる。そして肩をぽんぽんしてあげていると、安心したらしくカールくんはぐっすり眠り始めた。
クーとルーはカールくんの両脇に寝そべり、一緒に眠っている。
ふあぁ……っ。本とか、何か時間を潰す物もないので、私も眠くなって来る。
あぐらをかいている片方の膝に肘を乗せて頬杖をつき、すやすや眠るカールくんをひたすら眺める。
……。
◇
あれ……?
えーっと、確かカールくんの看病をしていたはず?
何か、ベッドが仕切られている?
カーテンレールを使ってうまく仕切られているバスタオルを少し捲ると、ユリシーズさんがカールくんの看病をしている姿が目に飛び込んで来た。
私が起きた事に気付いたユリシーズさんと目が合う。
『ごめん、私まで寝ちゃってたんだね。看病できてないわ』
『師匠も遅くまで家事して疲れてるだろうから、寝てもおかしくないだろ。
まだ寝足りなきゃ寝てろ』
ひそひそ話してはいたのだが、カールくんは僅かに身じろぎすると目を覚してしまった。
「ごめんね、起こしちゃったね」
「うううん、へへ……っ」
カールくんはよじよじとベッドの上を這い、仕切りのこっちへ入って来る。
「優さま、いた……」
そう言ってまた腕に縋り付くようにぴとっとくっつくと、そのまま寝始めた。
普段は甘えられないのが素直に甘えられてる感じがして、何だかいじらしくて可愛くて、頭を撫でてあげるとにへっと笑いながら寝続けている。
『もしかして、寝ぼけてたのか?』
『たぶんそうだね』
二人で顔を見合わせ、つい苦笑いが出てしまった。
『カールはこの歳頃の子どもより、甘えたい子どもなのか?』
『朝まずめの時もそうだったけど、いくつか思い当たる節があるからそうかも』
『分った。もう少し気を付けて、面倒見るようにするよ』
『ありがとう。私も気を付けるよ』
◇
二人でひそひそ話しながら看病していると、夕方過ぎになった頃にカールくんが目を覚すまでの時間はあっという間だった。
晩ご飯はリラさんと近衛騎士さんが適当に作って下さった。
カールくんには、こちらの世界の雑炊みたいな物も用意して下さっていた。
カールくんはそれを美味しいと言って、ペロリと平らげるほど食欲もある。
「お代わりしても良い?このミール、美味しい」
「気に入ってくれて良かった。それは私の子どもの好物なんだよ。
たくさんあるから、たくさん食べると良い」
「うん!ありがとう!いっぱい食べるよ!」
熱はもうほとんど平熱だし、食欲もあるし、元気になっているし、明日はもう体調は戻っているだろう。
◇
「嬉しいな!父さんと母さんがいた時みたいだ」
夜、私達と同じ時間に寝ようとしたキナル王子なのだが、私、カールくん、キナル王子の並びに文句を言う前にカールくんにこう言われていた。
「……、そうか。早く元気になってくれれば嬉しいよ。
お休み、カール、優嬢」
色々察したらしいキナル王子はカールくんの頭をわしわし撫で、お休みと言って寝始められた。
「夕方まで寝てたから寝れないかも知れないけど、目は閉じていると少し体が休まるからね」
「うん。……、あ、のね?優さま。あの、背中ぽんぽんってやつね、して欲しいな」
今日はとことん甘えたいらしい。
「もちろん良いよ」
もそもそと少しカールくんに近寄ると、布団の上から背中をぽんぽんあやしてあげる。
カールくんはにこにこ嬉しそうにしていたが、割と早く眠りに落ちた。
カールくんが眠るのを確かめると、私も眠りに就いた。
新月の翌日まで後四日。
やはり早目に出発して良かったと思いつつ、ゆっくり眠りに落ちて行った。
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