27:候補者
「はああああ?!!第二妃候補?!」
『ああ、王宮からの使者があった』
キナル王子との、静かな攻防戦の終わった日のお昼近く。お父さんからの連絡に絶句した。
『王太子のところにも、キナルのところにも子どもがいないだろ?
王太子が嫁さん一筋なのは有名だ。
キナルも嫁さん一筋なのは変わらんが、あれは自分の立場を良く理解している。
王太子のところに子どもができなければ、キナルのところの子どもが必要だ。王位を継ぐ子どもがな』
先日、王太子ご夫妻は、ご結婚十一年目をお迎えになられた。その間、ご懐妊の兆しがあった事もないのだそうだ。
王太子ご夫妻に十年お子ができなかったため、キナル王子に新たにお妃を迎えてもらい、お子をなすための動きが一気に強く、そして表出したのだそうだ。
なぜキナル王子になのか?
それは王太子殿下が、頑として他のお妃を迎える事に首を立てに振らないからだ。
そしてお子がいないのは、キナル王子ご夫妻も同じだからでもある。
『優に白羽の矢が立ったのは、これから先も、少ない魔力で威力の高い魔法の使い方みたいな物を編み出す可能性の高いお前を、国外へ移住される防止策でもあるんだろうな』
その後も色々お父さんと話をして、衝撃の内容の電話を切った。
◇
「優嬢、どこだい?
昼とはいえ、雪も多く残っていて風もある。あまり外にいると、体が冷えてしまうよ」
キナル王子の声にびくりとする。
「ああ、こんなところにいたのか。ほら、風邪をひいてしまうよ。
キャンピングカーに戻って、温まった方が良いね。頬がこんなに冷たくなってしまっているじゃないか」
お父さんとの電話の内容と、頬に触れる手にどう反応していいか分からず、固まったままになってしまう。
「もしかして、妃候補の件を聞いたのかな?」
聞いたと答えても、聞いていないと答えても、その先の聞きたくない事を聞く事になるだろう。
だから動けず、固まったままでいた。
キナル王子は目を細め、くしゃりと微笑んで言葉を続ける。
「私は、貴女が妃候補と聞いて嬉しかったよ。
男や女といった事を超えている感じがして、側にいて心地良いからね」
頬に触れていた手を動かし、頭に乗っている雪を払いながら、キナル王子はまだ言葉を続ける。
「王族の結婚など、国のためであって個人のための物ではない。
だが、好ましく思う人を妃にできるなら、人生で一度くらいそうなるように努力しようと思ったよ」
一歩縮まる距離。
「貴女のいた国には、重婚がなかった事は知っている」
真っ直ぐ私の目を見つめる、柔らかな色を湛えた瞳。
「そして、貴女が妃になりたがらない質なのも理解しているし、重婚を恐らく受け入れられない事も理解している」
そっと首筋に腕が回され、距離がなくなる。
「それでも……、私は貴女を望んでいる。
夏が始まる前のような、爽やかで心地良い気質に惹かれているよ」
「……っ!」
告白された経験なんてなくって、もうパニックだ。
どうして良いか分からず、やはり固まったままで動けない。
少し体を離し、そんな私に蕩けるような笑顔を向けて続けられる言葉。
「ツヨシからはこう言われたよ。
『優を射止めたなら、反対はしない。ただ、他に思う男がいたり、嫌がればすっぱり諦めてやってくれ。王子としてではなく、一人の人間として優を狙うなら狙ってくれ』とね。
私はただの男として、貴女を射止めるつもりだよ」
一点の曇もない笑顔。たぶんキナル王子は、本当にそうするのだろうと分かるような笑顔だ。
◇
がさっという音に振り返ると、そこには酷く険しく、難しい表情をしたユリシーズさんが立っていた。
「恋敵に負けるつもりも、毛頭ないからね」
キナル王子のその言葉は、私に向けられたのか?
ユリシーズさんに向けられたのか?
もはや完全に、思考が止まってしまったのだった。
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