26:キナル王子との攻防戦
「ちょっ、キナル王子?!」
「うん?暴れると寝られないんだが」
「いや、暴れるでしょ!!」
早目にお風呂を済ませ、ご飯も食べたので寝ようとベッドルームでうとうとし始めていたのだが――――……。
私と背の変わらない、つまりこちらの人にしたらかなり高身長のキナル王子がキャンピングカーのベッドルームに潜り込み、腰をがっちり抱き抱えられたのだ。
もう完全に眠りに落ちる寸前だったが、ばちっと目が覚めた。
「キナル王子と近衛騎士さん達はあっち!コンテナハウスを使って下さいって言ったでしょう?!」
そう。キャンピングカーは私達が使い、コンテナハウスはキナル王子とその近衛騎士さん達で別れて使うようにしていた。昨日はその別れ方で寝てたじゃないか!!
「あっちは離れみたいなものだろう?それは無礼じゃないのかい?」
「じゃあ私があっちで寝ますから、離して下さい!」
「それも……、違うな。
ふあっ。このままが一番良い」
「妃殿下に顔向けできませんってば!」
そう、この方はご結婚なさっており、大変仲睦まじい妃殿下がおられるのだ。
「空を舞い飛べるような人だ。
捕まえておかねば、安心して眠れないよ。
どこかへ飛び立たせてしまっては、私がツヨシに顔向けできないからね」
ツヨシとは、この世界の私のお父さんだ。勝手に飛んで消えたりはできないからと言い募り、力いっぱい拘束を解こうと試みる。
が、王族とは思えないほど鍛えておられるのか、腰に回った腕はびくともしない。
そんな私のじたばたなど意に介さず、すやすやと寝息をたて始めてしまった。
ぎゃーぎゃー叫んでも近衛騎士さん達は来ない。平民のアカザさん達も、もちろん来ない。いや、来られない。
クーとルーが辛うじて側にいるだけだ。
クー達にお願いすれば引き剥がしてくれるだろうが、なぜか二匹は大人しく寝ている。
……。二匹は、キナル王子に害意はないって事で寝ているのか?
そう思うとちょっと安心でき、いつしか深い微睡みの中に落ちてしまっていたのだった。
◇
朝、体の下でごりごりする物の違和感で目が覚めると、叫んで飛び起きそうになった。
キナル王子の腕が、朝になっても腰に回ったままだったからだ。
そろーっと腕を解こうとしてみるが、解けない。いや、かえってまた強く腕を巻き付けられてしまった。
ほんっっっっっとーッうに!そろそろ離してほしい。
まだ朝早く、キナル王子を起こすには早い。
腕を外したい私と、寝ていも離してくれないキナル王子の静かな攻防戦。それは、キナル王子が起きるまでひっそり繰り広げられた。
◇
「優嬢は子供のように、ころころ転がって眠るね。
すっかり寝不足だよ」
もはや、反論する気力もない。
「ソウデスネー。コンテナハウスへ行かせて頂ければ、ゆっくりお休み頂けたんですけどねー」
ぐったりしながらそれだけ返す。
「すんすんっ。夜はしなかったが、昨日の昼は香った甘い香りはそれか」
くんくんしないっ。
はあ。朝の身支度まで着いてこられ、一緒に洗顔などなさっている。そして、ワックスの事が気になられるようだ。
「手作り蜜蝋ワックスの匂いです。それに入れてる、精油の匂い」
「それで髪を整えているのか。
私もそれで髪を整えてくれないかい?」
キナル王子がうきうきされるほど、こちらはどんよりしてしまう。
王族への対応としてはこの上なく不味いだろうが、どうしても顔に出てしまうのは容赦して頂こう。
◇
「優さま、勉強は今日は休む?しんどそうだよ?」
「ああ、大丈夫だよ。お昼までもう少しだから、今日はここまでやっちゃおう」
アカザさん達女性陣はそわそわしているし、ユリシーズさんはあれ絶対に機嫌悪いし……。
兎に角、移動中のキャンピングカーの中の空気が悪い。
その空気の悪さの元は、クーとルーをわしわしとかまいつつ書類仕事に勤しんでおられる。
うくくっ。なんでこの空気で平気なんだーっ?!
「そちらが終わったら、計算を手伝ってくれないかい。
桁が大きくて、少々苦慮していてね。手伝ってくれると助かる」
だ・か・ら!何でそんなにこの空気の中で普通に過ごせるんだ!!
私はカールくんの勉強が終わると、暗算で計算を片っ端から終わらせていく。
地球の両親も祖父母もやりたいと言った事は、たいてい何でもやらせてくれたんだ。
それには祖父母や両親が身に付けさせたい事、それをちゃんと身に付けるのがルールだった。
計算が早いのは、祖父母がやらせたい事の一つ。算盤をしていたからだ。
暗算も、それなりの桁までできるくらいまでは習った。
◇
「早いな。ツヨシもずいぶん早いと思った物だが、優嬢はそれとは比べ物にならないね」
「はあ、まあ、勉強していたので……」
キナル王子はにこにこしている。さっきから人の頭を撫でながら、だが。
キャンピングカーの中の空気が、さらに刺々しい物になっているんですが。
はあ。子竜の保護されているところまで、頑張ろ……。
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