25:異世界版ハンググライダー
「ほーう?これで空が飛べるのかい?」
「異世界版になってますが、飛べるはずです。早急に仕上げて試験飛行しないと、実際のところは分かりません」
「貴女は本当に色々驚かせてくれて、楽しいよ」
そう言ってキナル王子は、くつくつと喉を鳴らして楽しそうに笑われる。
「では、そちらをお願いするよ。
私は、優嬢の代わりに先生をしてくる。こちらも経験した事がないから、楽しそうだ」
大きな手で何度かポンポンと私の頭を撫でると、キナル王子は護衛の近衛騎士さん達を引き連れて寺子屋の教室へ向かわれた。
……子供達、王子さまが先生でもちゃんと勉強できるかなあ……?
「はあ……。何かこそこそ作ってたのは気付いてたが、まさか飛ぶ道具だったとはね……。
ほら師匠、さっさと作ろう。何か手伝う事は?」
なぜ頭を撫でられたのか分からず、キナル王子の去っていった方を見ているとユ、リシーズさんの声に作業を促された。
「アタシ達にもできる事は言っとくれ」
アカザさん達も手伝ってくれるようだし、午前中には縫うのは終えて、午後は組み立て。明日は近くの丘でフライトテスト。
問題なければその足で、大地溝帯へ向かう。
雪でどこで時間食うか分からないから、早目に出て早すぎる出発って事はないだろう。
◇
「違うっ!これで優さん、空を飛ぶのよ!
命がかかってるんだから、間違いはあってはならないの!
もう、みんなは手は出さずに見てて!」
魔法使いのナハルさんがこういった図面を見ながら組み立てるのが得意で、そちらを仕切って下さっている。
そのせいで作業ができる人はナハルさん一人になったが、作業効率は良くなった。午後に入ってしばらくすると、ハンググライダーは完成したのだった。
前倒しにしたフライトテストする丘に向かう途中で、その事について聞いてみた。
「ああ、新人で稼ぎが少なかった頃にね。魔道具作って、小金を稼いでいたのよ。
そう言うのを考えるのも作るのも好きだったから、魔道具師と魔法使いのどっちになるか悩んだ時期もあったくらいには作ったわ」
「それだけできても、魔法使いになられたんですね」
「冒険がそれより好きだったから」
「なるほど」
そんな話しをしていれば、あっという間に目的地の丘に着く。
◇
「保温機能付きフライトスーツ良し、ハーネスよし…………」
普通は、結界って球体だ。体や物の形に合わせた結界も張れるが、その結界は張っていない。
前に海に飛び込んだ時は浮いてしまって、すぐに解除した。
今回は結界を張る事でどんなアクシデントが起るか分からない。それは命の危機に直結しているので、さすがに試せない。
諸々を考慮したグライダーで飛ぶとはいえ、指差しで安全確認を進めて行く。
冷たい風を長時間受けるので、防寒対策も充分に気を配ってある。
サングラスにヘルメットやハンググライダー本体も大丈夫。
異世界版たる、魔道具で揚力を生む装置も問題なし。
日本ではたくさん飛んだが、さすがに手作りグライダーで飛んだ事はないので緊張するな。
動力付きなんて、それこそ初めてだしね。
「優さま、大丈夫だよね?ちゃんと地面に降りて来るよね?」
カールくんが泣きそうになりながらくっついて来る。
「うん、気を付けて飛ぶよ。後で会おうね」
カールくんを抱きしめ返し、落ち着かせる。
そしてカールくんが離れると、今度はキナル王子に抱き竦められた。
驚いて固まっていると、王子の声が頭のすぐ横から響いて来る。
「時間があればもっと入念な準備や改造をして、安心して試験飛行できたのだろうが……。
何もかも任せ、危険な目に遭わせてすまない」
「こ、れも貴族の義務でしょう?
何とか無事に子竜を返せるよう、頑張りますよ」
フライトテスト前に動揺させるのは止めてくれないかな。真っ赤になりながら、王子の腕から抜け出す。
動揺を振り払い、テストに移る。
「みんな、離れて。飛びます!」
まずはロープでしっかりした杭と繋がっているフライト、トーイングフライトで本当にお試しからだ。
なだらかな丘を駆けると、ハンググライダーはふわりと浮かび上がる。
ああ、この感覚は久しぶり。気持ち良いな……。
暫し久しぶりの感覚を楽しみ、異常を感じないか神経を張り巡らせつつ十五分ほどのフライトで地上へ戻る。歓声を上げてみんな駆け寄って来て、それはそれはもみくちゃにされた。
その後、布の部分に使っている魔物の皮膜に破れがないか、骨組みにひびや歪みが出ていかないかなどを慎重に確かめる。
時間をかけて調べ、問題なしと判断したので次のフライトだ。
「じゃあロープなしで、丘の下のポイントに降りるフライトします。
みんな、離れて。飛びます!」
たたっと丘を駆け、地を蹴る。ふわっと浮いたハンググライダーに、揚力を与える魔道具のスイッチを入れる。
そのままくるく旋回を繰り返し、問題なしと判断したら早々に地上を目指して下降を始める。
普通は一時間から二時間飛べ、長いと五時間飛べるフライトからすれば、とても短い時間のフライトだがとても楽しかった。
眼下には豊かな森を頂く小高い丘。小さな村の、ちらほら立つ家並み。少し先には草原があり、その更に先を見れば光を跳ね返す眩しい海原――――……。
短い時間だったが、風に揺蕩い空に溶ける時間は最高だった。
丘の下のポイントから、丘の上のみんながいる場所へ戻るフライトもこなすと、全フライトテストは終了。
下から上に行けるのは、もちもん揚力を生む魔道具があって可能な事だ。
こうして無事にテストを終え、今日はここでこのまま泊まり、明日から大地溝帯を目指す。
うん、たくさん寝て、明日からに備えよう。
お読み下さって有難うございます。
お楽しみ頂けましたら幸いです。
面白かった、良かったなどお気楽に、下の
☆☆☆☆☆
にて★1から★5で評価して下さいね!
続きが気になった方は、ブックマークして下さるとすっごく嬉しいです!
感想や応援メッセージもお待ちしてます!




