24:キナル第二王子殿下と子竜
コンテナハウスはすったもんだの挙げ句、ユリシーズさんとカールくんの二人で使う事で落ち着いた。
私はキャンピングカーさくら号に愛着があり、不満もないのでこのままで良い。
ユリシーズさんとカールくんはさくら号よりゆったりしているコンテナハウスを、雇い主の私よりいい環境と考えて嫌がったのだ。
「馬でしか行けない場所へ行く時はそっちを持って行くから、人と荷物が少ない方が移動してもらうのが楽なんだよ」
「ほぼ全員で動くだろうが」
しばらくこんなやり取りが続き、痺れを切らしたアカザさんの「ユリシーズ!雇い主さんの決定に従いな!」という一喝でケリがついた。
寝る時とお風呂だけコンテナハウスになる程度だから、そんなに使う事もないんだけどね。
◇
「やあ、優嬢。直に会うのは叙爵の時以来だね。
元気なようで何よりだよ」
「えーっと?キナル第二王子殿下……。なぜ王都からこんなに離れた村に?
あ、お礼!先日は山賊の件で、大変お世話になりました。ありがとうございました」
コンテナハウスが届いた翌日。目の前におられるのは、この国のキナル第二王子殿下。
以前数回お会いしたが、わざわざ会いにいらっしゃるほど親しくはない、はず??
「ああ、その件は、こちらこそ礼を言わねばなるまい。ありがとう。
こっちへは冬季軍事鍛錬でね。それで来ていたんだよ。それが終わって、今は別件だがね。
山賊の件で連絡が来た時に、こちら方面へ来るかも知れないから、動向を町などの衛兵に知らさせていたんだ」
いや、だから意味が分かりませんってば。
「しかし、また変わった物を使っているね。これは一体?」
キナル第二王子殿下は、きょろきょろとコンテナハウスを見回す。
「これは日本で、コンテナハウスと呼ばれている物です。
本来は荷物を運ぶのに使われるコンテナという大きな箱を、住居用に審査が通るようにした物です。
キャンピングカーは馬につなげば移動できますが、コンテナハウスには車輪がついてません。ですから、移動がこれ単体ではできません」
ああ、うん。初めてお会いした時も、お父さんの新居のお披露目にいきなり現れていらしたっけ……。そういやこういうお方だったわ……。ちょっと思い出した。
「風呂、トイレ、キッチンとベッド。遠征の時の、私のテントの代わりになりそうだ」
「それは、キャンピングカーの方が良いのでは?このサイズだと、通れない場所も多いでしょうし、スピード重視で移動する時はかなり邪魔になりますよ?」
「ふむ。こちらなら床暖房があって良いのにね」
「キャンピングカーには床暖房ではありませんが、ヒーターもクーラーもありますよ。それじゃダメなんでしょうか?」
それはキャンピングカーでご飯の時に見て頂いて、これで充分となった。
◇
「それで、冬季軍事鍛錬が終わっても留まっていらっしゃる理由は、お聞きしても宜しいのでしょうか?」
「ふむ。貴女ならもしかしたら、何か解決策を授けてくれるかもしれないなと思ってね」
いや、何ですか?その変な買いかぶり!
◇
「強風に流されて、大地溝帯の向こうの竜の生息地から流されて来た子竜を返したい、と?」
「ああ。まだこちらの地へは来ていないが、母竜が子どもを探している事は分かっているからね。
返してやる事で母竜が落ち着いて、人の地に被害が出ないならそれが良いからね」
竜も人の気配を嫌う種族らしい。なので、話しにあった大地溝帯の向こうなどの、限られた人跡未踏の地や高山に好んで棲むのだという。
大地溝帯は、その裂け目が深く広く、そして強風が下から常に吹き上げているので竜達も近づかないのか、ほとんどその姿を大地溝帯の向こうに見かけないって事だ。
「それがある朝、子竜がこちら側に落ちていたのだ。風の吹き荒れた後だったから、恐らくその風に乗ってこちらへ流されて来てしまったのだろうというのが、学者達の見解だね」
フェンリルもだそうだが、竜種はとても愛情深い種族で、子どもの気配が分かれば連れ戻しに来る可能性が高く、その時に母竜が子竜を保護しているのをどう取るかで攻撃してきかねないのだそうだ。
「討伐を考えるより、戻せるなら戻す方が確実に被害は少ない。
それも母竜がこちらへ来てしまう前に、子竜をあちらへ戻せるのが最善だね」
そんな強風の吹き上げている大地溝帯だが、新月の翌日の午前中は風が弱まる。
そのタイミングで、あちらへ戻す方法を探しておられるのだそうだ。
母竜がこちらへ来るとしたら、やはりそのタイミングだろう。
新月の翌日まで後八日。大地溝帯まで三日。
余裕があるとはいえ、準備できしだい向かうのが良いだろう。
お読み下さって有難うございます。
お楽しみ頂けましたら幸いです。
面白かった、良かったなどお気楽に、下の
☆☆☆☆☆
にて★1から★5で評価して下さいね!
続きが気になった方は、ブックマークして下さるとすっごく嬉しいです!
感想や応援メッセージもお待ちしてます!




