21:社会科見学と親方さん
今日はこの村唯一の、野鍛冶の工房へ子ども達とお邪魔している。
子ども達の進路が冒険者以外にも何か道がないかと考え、ドワーフの親方さんに工房見学をお願いしたのだ。
偶然にもお父さんの知人で、そのおかげで何とか工房見学を許可して頂けた。
子ども達は普段は見られない、野鍛冶の工房を見られてとても興奮している。
赤々と熱され、打たれて形を変え、道具としての命が吹き込まれていく鉄。
その工程にすっかり見入っている。中でも十一歳の男の子、セーマルくんが熱心に見ている。
セーマルくんは、こういうのが好きなのかも知れないな。
これ以降セーマルくんは暇を見つけては工房に通い、村の野鍛冶職人になったのは後の話しだ。
◇
「まったく、お前さんの親父さんはどこで噂を聞いたものか、ワシんとこへ来て開口一番『これと同じ鋸を作ってくれ!』じゃったわ」
工房見学の後、ぐびりと熱燗を呑みながらそんな事を話して下さる親方さん。
「ははは、すみません。
日本の鋸は精度も高いし、何より引く時に切れる物なんです。
その刃、それも両刃の鋸ってこの世界でも珍しいので、作れる方となると更に少ないですから」
熱燗をお酌しながら、祖国の精度の高い諸々に思いを馳せる。
「うむ。ワシの郷に細々と伝わっとったが、もう作れるモンは数少ない」
親方さんは、元々は刀鍛冶をしていたそうだ。しかし、引く鋸に魅せられ、刀鍛冶から野鍛冶に鞍替えされたって。
野鍛冶とは包丁、農具に漁具、山林刃物といった、暮らしの中の道具を幅広く手掛けている鍛冶師さんの事だ。
日本なら鋸の専門の職人さんがいるが、この世界には鋸の専門の職人さんはおらず、野鍛冶の職人さんが手掛ける。それで必然的に、野鍛冶職人さんになった経歴の持ち主だ。
職人さんには珍しいと思うのだが、一所に住み続けるのが苦手で、ある日ふらっと放浪の旅に出る癖もあるのだとか。
この村にもふらっと現れ、前の野鍛冶職人さんがお年で隠居されてから誰も後をついでおらず、そのため村人が困っていたので住み着いて野鍛冶を始めたそうだ。
◇
「しかし、この『熱燗』っちゅーのはなかなかイケるの。報酬にこの酒が一樽、上乗せじゃったな?
ツヨシの依頼、受けよう」
「ありがとうございます。父が喜びます!」
お父さんはさすがに刃こぼれするような使い方はしないが、自分でできる目立てなんかのメンテナンスではそろそろ心許なくなっていて、新しい鋸を探していたのだ。
本当の日本製ではないからか、鋸の寿命も短いらしい。
一番の原因は、元となる素材の違いって話だけどね。
「この『きゃんぴんぐかぁ』っちゅうのもええの。年々冬が辛くなってきたが、この中はぬっくぅて心地ええ!」
「放浪にも、ですよね?」
「おお!そういや動くんじゃったな!」
「はい。私達はこのキャンピングカーで、旧王都からここまで生活と移動して来ました」
「ワシも買うかのう。
ん?これは誰の得物じゃ?借りるぞい」
ドワーフの親方さん、キャンピングカーよりやはり剣の方が気になったらしい。
中を検めると、「なんじゃ!この手入れの悪さは!見てしもうたらほっておけんわ!」と、刀鍛冶のスイッチが入ったらしく……。
アカザさんの魔法剣以外、持ち主の骨格や体格を調べ、剣の使い心地や戦闘スタイルなどを丁寧に聞いて、元の剣以上の品が届けられたのには驚いた。
親方さんの名前を聞いたアカザさん達は、さらに驚いていた。
本来は刀鍛冶として高名なお方だったらしい。
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