2:アッレロ伯領
「お昼までに雨が上がったら、馬車を見に行きましょうか」
翌朝。風はいくぶん弱まったが、まだ雨は降り続いている。
雨に打たれながらでも進むような、急ぐ旅ではない。ゆっくり進むさ。
◇
お昼前に雨が上がり、馬車を見に行く。
「ああ、馬車は使えませんね。
お嬢さま。近くの町で換えの馬車と、この壊れた馬車を回収してもらう手はずを整えますわね」
「ちょっと待って」
私の無限収納って、どこまでの大きさの物が入るんだろ?
「無限収納」
しゅっ。
馬車が入ったよ。まー、無理だろうと思っていたんだけど、試してみるものだな。
ユリシーズさんにもリジー嬢達にも引かれたが、入ったら一番手間がかからないから気にしない。
◇
「優さま、ようこそ我が父の城へ」
アッレロ伯領の領都で待ち合わせがあるので、リジー嬢達を送ったのだが、城に泊まる事になってしまった。
夜の正餐のお招き、いわゆるディナーだね。にも出る事になってしまった。
ドレスなんて作っていないので、叙爵式の時に着た、新居のお披露目の時にお母さんが作ってくれた三つボタンスーツを着る。
どこのパーティーや正餐でも、三つボタンスーツで良いと国王陛下のお許しも頂いているので、問題ない。
リジー嬢を可愛がっているお父上らしく、娘を助けて頂いて有難うございますと、下へも置かない歓待ぶりなのだが……。
(不味っ。これが城の料理人の出す料理?
町のご飯屋さんの作るご飯の方が、きっと美味しいよ)
リジー嬢のお父上、アッレロ伯爵は、「田舎料理で味が濃く、お恥ずかしい」としきりに恐縮するが、そんな物じゃないレベルだ。
肉の古さを隠したり、処理の甘さを隠す為に、とことん塩辛くしている。そんなレベルの、塩や胡椒の効いた味付けだ。
食べられた物じゃない。
「アッレロ伯爵、アッレロ伯爵夫人、長男アッレロ、次男モレロ。
お手数ですが、みなさま厨房まで着いて来て頂けますか」
リジー嬢に案内してもらい、伯爵ご一家に厨房に付き合ってもらう。
◇
「この肉の変色具合。食べるには、かなり味を隠さなければ食べられません。
野菜も、新物の季節とは思えないほど鮮度が低いです」
料理長が顔色を悪くしながら叫ぶ中、下っ端の料理人さんに、食材のしまってある場所をあちこち見せてもらう。
「な、何という事だ!
田舎料理だからではなく、こんな酷い食材を使っていたから、リジーは食事を受け付けなくなっていたのか!!」
「伯爵さま!今日は雨で、良い材料が揃っていなかっただけでございます!
偶々でございます!」
「偶々でも、普段から酷く塩辛い料理を提供しているのは見過ごせないな。
塩辛い料理を摂り続けるのは、体調を崩す大きな原因にもなる。
それはこの国でも認知され始めていて、料理人はいかに薄味で、美味しい料理を提供できるか腕を競っていると聞いていますよ」
「そんな事は知っている!
私は昔の、冷蔵箱すらなく、腐らせないようにがむしゃらに塩辛くするしかなかった時代の食事を提供したかっただけだ!」
「たまになら、まだ良いかも知れません。毎日毎食そんな食事を続け、それで誰かが死ぬのだとしてもですか?」
◇
料理長は首になった。人が死ぬとは思っていなかったそうだが、リジー嬢は食事が合わず、やせ細っていた。
このままなら、いつか死んでいたかもしれない。
アッレロ伯爵夫人も口に合わなかったそうだが、こんな事を言って伯爵に、我儘を言っていると思われたくなくて言えなかったそうだ。
長男アッレロと次男モレロは、狩猟の時に変な味の物も食べるので、それに比べたらマシと食べていたそうだ。
アッレロ伯爵には懐かしい味でしかなかったため、余計に誰も何も言えなかったのが一番みたいだが。
◇
「アッレロ伯爵、食事は重要な事です。
ご家族が大切なら、口に合う合わないも気にかけてあげて下さい。それと、塩辛いとか辛いとか、何かにずっと偏った食事は避ける方が宜しいですよ。
ご自身のお体のためにも」
「オオシロ方伯、娘をお助け頂いたお礼をさせて頂く筈が…………。
我が家の者、みなをお助け頂く事になり、申し訳ございません」
「お気になさらず。
また来た時は、美味しい食事を宜しくお願いします」
「食事の美味い世界からいらした、オオシロ方伯をもてなせる料理ですか。
なかなか難易度が高うございますな」
「シンプルな料理も好きですよ」
「優さま、ありがとうございました。こちらにいらしたら、必ずお立ち寄り下さいませ」
「ありがとう、リジー嬢。お元気で」
◇
アッレロ伯爵のご一家に見送られ、お城を後にする。
Bランク冒険者パーティー、紅き剣のメンバーと、我が家の御者見習いのカールくん。皆と合流する、約束の場所へ向かう。
「師匠、あんまりホイホイ貴族の城に行くなよ。
アッレロ伯は、息子達と師匠を見合いさせる心算だったみたいだぞ」
私は目が点になった。
「ないない。もっと可愛いご令嬢がたくさんいるだろうし、古くからこの国に仕えている、家柄の釣り合う家だってたくさんあるんだから」
恋愛に興味がないわけじゃないけど、今はいいと思っている。
恋愛は、さあしようと思ってできるものでもないから、成り行きに任せよう。
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