16:見た目はデート
「これが名物の大貝焼き。中でも、この屋台は人気なんですよ」
「へえ、食べてみるか。キナーラさんはそこで座って待ってて。買ってくる」
今日はキナーラさんが観光の案内役を買って出てくれ、町を散策してゆっくりしている。
キナーラさんの護衛さん達と侍女さん、それにユリシーズさんも護衛としてちょっと後方に付いてるので割と大所帯だ。
侍女さんが付いている理由は、分からなくもない。すれ違う女性が何人かに一人、振り返ってこちら、いや、私を見ているのだ。
確実に、男性と間違われているな。
それはつまり、良家のご息女がデートしているようにしか見えないからだ。
服は、異世界転移して来た時に着ていた物が多い。私はこちらの世界では、かなり背の高い部類に入る。伊達男に見えているかも知れない。
髪も短くなったから、余計にそう見られてもおかしくない自覚はある。
はあ。キナーラさんも、薄っすら頬が上気しているしね。
キナーラさんに大貝焼きを渡すと、ユリシーズさんはじめとする護衛さん達と侍女さんにも大貝焼きを配る。
周りから、「護衛の方達にも優しいなんてステキ」とか言っている囁きが聞こえるな……。
事実を知っている侍女さんは、苦笑いしている。
「周りはお気にならなくて良いですよ。
お背も高く、良くお似合いのスマートな出立ちでいらっしゃいますから、どうしても男性と勘違いする者もおります」
「ハハハ。慣れてると言えば慣れてるから、そうします」
◇
「海風が強くなったね」
「夏だと涼しくていいんですけど」
薄着ではないかと思っていたら…………。やっぱり痩せ我慢して薄着だったらしいキナーラさんは、ちょっと震えている。
「はい、馬車まで羽織ってて」
コートを脱いで、キナーラさんに羽織らせる。私は暑くなっていたから脱げてちょうど良くなったが、周りから小さな悲鳴が聞こえるのは気のせいだろう……。
馬車を待たせてあった場所まで来ると、キナーラさんと侍女さん達には先に帰ってもらう。
「風邪引く前に温かくして。今日は案内してくれてありがとう」
「どういたしまして。ところで、優さまはまだお帰りにならないの?」
「腹ごなしに少し歩くよ。だから、先に帰ってて下さい」
残念がるキナーラさん達を見送り、ほっとする。
「……もてもてだな」
「はあ。こういうモテ期はいらない。
まだ食べ足りないから、ユリシーズさん食べ歩きに付き合って」
◇
男の二人連れに見えるようになってからは、気楽に町を回れた。
この国では食べる地域が少ないというイカ焼きにかぶり付いたり、素朴な焼き菓子を食べたり、海老を押し潰したエビせんを食べたり。
ユリシーズさんが立ち止まった武器屋に入ってみたり。
乾物や干物のお店を覗いたり、散々歩き回って楽しんでキャンピングカーへ戻った。
途中で良さげなアクセサリーを見つけたので、それも買ったよ。
◇
「今日は本当にありがとう。これ、今日のお礼」
先に帰らされて少々落ち込んでいたらしいキナーラさんの機嫌も直り、一日が終わる。
「師匠って、本当は男じゃないよな?」
「本当に男なら、キャミとハーフパンツで海に入って怒られたのは納得いかない」
どっと疲れを滲ませそう言うと、ユリシーズさんは短くなった私の髪を緩く引く。
「切る前くらいまで、また髪を伸ばしたら?肩下まで髪を伸ばしてる男はいないからな」
傷まなければ伸ばそう。そう思った私なのだった。
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