15:水泳は来年
朝早く、そっとキャンピングカーから出る。
クーとルーも後に続いて、そろっと出てくる。
この町にいる間、キャンピングカーを止めさせて下さるダカルヤナさんの商会の庭から通りへ出る。
「ふう。クー、ルー、行こうか」
〘行こういこう!〙
〘海のすなのひろば!〙
スケボーを無限収納から出し、さあと思った所で肩を押さえられた。
驚きのあまり叫びそうになるが、何とか堪えて振り返る。
「……」
「ユリシーズさん。えーっと、オハヨ」
◇
「まったく。師匠は自分が護衛対象だって自覚あんのか?」
「あ、うん、一応?」
ユリシーズさんは、はあっと深いため息をつく。
「抜け出されるくらいなら付いてくから、抜け出すな」
「いや、でも」
「水泳? したいんだろ。行くぞ」
すたすた海に向かって歩き始めたユリシーズさんの後を、スケボーで追いかける。
「ユリシーズさん。クーとルーと行くよ。この子達となら、どんな服で泳いでも大丈夫だから」
そう。人魚さんのキューブトップみたいな水着がありなら、キャミとハーフパンツで泳ぎたいと言ったのだ。
まあ、みんなに反対されたから、朝早くキャンピングカーを抜け出したんだけど。
「…………一応服着てるから……」
眉間のシワの深さが反対なのだと物語っている。クーとルーの散歩だけして帰ろう……
◇
「どうしたんだい? 優さん」
「朝からずっと元気ないよ〜?」
「ああ、うん。大丈夫だから」
ベッドルームを仕切るカーテンを引いて引きこもっているから、さっきからアカザさん達が心配して覗いて様子を気にしてくれている。
私はといえば、キャンピングカーの窓を開けてぼーっと外を眺めて過ごしている。
「……師匠、入って良いか?」
しばらくすると、ユリシーズさんが声をかけて来た。
「……どうぞ」
少しためらったのか、間があってからユリシーズさんはカーテンのこちら側へ入って来た。
「師匠がそんなにしょぼくれてるのは、水泳を止めたからだよな?
そこまでしたがってたとは思わなかったんだ。ごめん……」
ユリシーズさんは窓の反対のベッドの端に腰掛けると、言葉を切り出して来た。
「ううん。気にしないで良いよ。
……諦めがつくまで、ちょっとだけ時間もらうよ」
しばしの沈黙が落ちる。
「何か……泳ぎたい理由があんのか?」
「――――……」
「…………」
「地球のさ、家族と夏に一度泳ぐのが毎年の思い出の一つなんだ……」
言わないと、この重い沈黙から解放されないらしい。私は諦めて話す。
「旧王都から海は遠いし、ばたばたしてたから今年は泳ぐの諦めてた。
我慢はしたんだけどね。まだなんとか泳げる時期に海に来たから、やっぱりどうしても泳ぎたくなったんだ。
子どもっぽい理由だし、この間も熱出して迷惑かけたし、泳ぐ時の服もこの世界の今の時代にはそぐわないのも分かってるから……」
そう。ちょっとだけホームシックにかかったんだ。ちょっとだけ――――……
「理由があるならちゃんと言ってくれ。言ってくれないと、本当に止めて良いのか分からないから」
「うん、そだね……」
「その。明日でも泳ぎに行くか?」
「ううん、この間も熱出すくらい海水はもう冷たかったからさ。
今年はもう泳げないって分かったから、泳がなくて大丈夫だよ」
また落ちる重い沈黙。
「ふう。うん。髪でも切って来るよ。気分転換になるだろ」
「え?!」
「髪切りに行くけど、誰か髪切りに行きたい人〜」
私は傷んでいる髪を切りに出かける事にした。長兄も次兄も、私が元気ないとおろおろする妹バカだった。
父と母は、兄達で手に負えないと出てきたっけ。
こっちのお父さんもお母さんも、きっと心配する。
元気がない自分はらしくないと思うし、ウジウジは終わり。
来年は早くから予定入れて、絶対に泳ぐから!
◇
「本当に、髪切ったんだな」
「前から切りたがってたでしょ?」
「……」
前髪も切って視界が開けたからか、気分も上がった。切って良かった。
さあ、また次の町を目指そう!
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