12:ホットカシスとおしゃべり
「じゃあユリシーズ、優さんを頼んだよ」
「ああ、早く癒やし手呼んでくれ」
「みんな、心配性だなぁ。微熱だし、寝てれば治るよ」
「師匠、黙れ」
「……」
「ユリシーズ、口が悪いよ!」
アカザさん達紅き剣のメンバーは、ギルドからの呼び出しで。カールくんは一緒に行って、ヒーラーさんを呼んで来るため出かけて行った。
ぽつんと残った、私とユリシーズさん。
「……まったく。水温の低くなってるこの時期の海に、長く浸かってるからだぞ」
「返す言葉もないね」
私は苦笑いする。ユリシーズさんも私が流されないように、結局最初から最後まで抱きついたまま、同じ時間海に浸かっていたのにピンピンしている。
「何か飲んで温まる?」
「うん。じゃあ昨日の甘いの」
「ああ、あれか。ホットカシスか」
クロスグリだったんだ。カシス好きだけど、気づかなかった。地球の物より酸味は控えめで、甘くて飲みやすかったな。
ユリシーズさんはキャンピングカーのキッチンで、問題なくホットカシスを作っている。
大きな手に、長い指しているなあ。剣を持つよりピアノ弾くのに向いていそう。
そんな事を思っていると、瓶から注いだカシスの液体をひと煮立ちさせるだけのようで、すぐにホットカシスは出来上がった。
「ん」
「ありがとう。アツっ。んー、美味し」
異世界に来てから切っていない髪が邪魔で、カップに息を吹きかけて冷ますのがし難い。
「髪、伸びたよな」
髪が邪魔で何度もかき上げていたからか、ユリシーズさんがそんな話しを振ってくる。
「うん、切りたい。傷んで金色っぽくなったしね」
「……似合ってるから良いんじゃね?」
「髪をブラシで梳すと、絡まって大変なんだよ。
髪が細いから傷みやすいし、切らないと傷んだ髪はどうしようもないしね」
「最初見た時は町育ちの優男かと思ったけど、髪とか男の太い髪と全然違うもんな。
細いのも大変なんだな」
「うん。やりたい髪型はボリュームが足りなくて、だいたいできないのも悩みだな」
ここしばらくで、一番饒舌だな。
「ふーん? 髪に何か付けてるのは、髪型のためか傷んだからか?」
「ごめん、匂い強い?」
「いや、あの匂いは師匠って感じで、良い匂いだと思う」
匂いの強いのも、苦手な人には害だ。嫌な匂いではないようで良かった。
「両方。くせ毛だから何か付けないとほわほわして、綿毛みたいなすごい頭になるのを回避するのと、髪の傷みを抑えるのと」
「このキャンピングカーがあるからできる事だな。普通は毎日風呂どころか、シャワーも怪しいからな」
「ギルドのみなさんに感謝しかないよ。
お陰で普通の旅とは程遠い、快適な旅をさせてもらえてる」
「確かに」
ユリシーズさんは、突然の雨風でもテントを張ったりしなくてすむ事。
テントを張ったりしまったりしなくてすむので、しっかりした食事を作って食べられる事。
網戸のおかげで虫に悩まされず、しかもベッドで寝れる事が気に入っているそうだ。
「暖房もできるから、冬もあまり寒くないよ」
「そりゃ助かる。寒いと体が動かしにくいからな」
「何か不満はない? 私の育った国仕様だから、この国に合うものにどこか改良した方が良い事とかないかな?」
◇
珍しく良くしゃべるユリシーズさんと話していると、カールくんがヒーラーさんを連れ、そしてアカザさん達も一緒に戻って来た。
「お帰り、みんな。
アカザさん、早かったですね」
「ああ、ただいま。それがギルドの勘違いで、『赤い剣』ってパーティーを呼んだ心算だったとさ」
アカザさんのパーティーは『紅き剣』。似ているが、違う名前のパーティー名だ。
「お疲れさまです」
「まったくだ。護衛依頼を受けているから、他のパーティーだろうとあれだけ言ったのに……」
私が話している間、ヒーラーさんは興味深そうに、キャンピングカーをあちこち見て回っていた。
そしてヒーリングが終わり、見送った際に「私もキャンピングカーに住みます」と、いつかどこかで聞いた言葉を残して帰って行かれた。
◇
「師匠は今日一日大人しくしてろ。家事と二匹の散歩は俺がする」
「回復してもらったんだから大丈夫だよ。気持ちだけもらっとく、有難う」
結局家事は二人で私の担当分を片付け、二匹の散歩はユリシーズさんがしてくれた。
それ以外の時間は、魔法の練習と称してずっと寝室で過ごす監視をされていたから、ベッドの上で一日が終わった。
アカザさん達も昨日の話しをユリシーズさんから聞いているので、ユリシーズさんに協力的だったのが悲しい。
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