10:いるかは陸を歩く?
「はっ、ハアッ、ぜいっ」
「ぜいっ、ぜいっ、はあッ」
「すう、はあ、すう、はあっ」
ざかっ、ざくっ、ざくっ。
「も・ちょいだよ、頑張ろう」
砂浜の走り込みは、普通の土の上を走るよりキッツい。海の近くにしばらくいるんで、有効に過ごす時間を作ったんだ。それが鍛錬の後の、海岸の走り込み。
で、カールくんも含めてみんな着いて来たのだが……
「ひゅっ、はっ、ゼッ」
ははは、鍛えている冒険者五人をバテバテにする砂浜の走り込み、かなりの強者だね。
◇
「あっはー、明日はみんな筋肉痛だねー」
「ぜっ、ぜっ、優サン、元気だね……」
「まあ、日本にいた頃は時間を作って、海岸線を走ってたからね」
もちろん息は上がってる。久しぶりの走り込みだから、私も筋肉痛だなあ。
〘たっのしーい! 〙
〘もっと走りたーい! 〙
「ごめん、さすがにもう無理。ここで待ってるから、二匹で走っておいで?」
〘分かったのー! 〙
〘行ってくるー! 〙
砂浜の散歩は、短い距離で二匹にとって満足できる運動になるらしい。この町にいる間の散歩は、砂浜に決まったのは言うまでもない。
◇
砂浜の走り込み二日目の朝。今日はアカザさん達は筋肉痛でダウンしている。通常の鍛錬も休むほどの筋肉痛だ。
そんな中、ユリシーズさんだけは気合で護衛に付いて来たよ。無理せずゆっくりしてて良いよって言ったんだけど、「師匠を一人にして、万が一何かあったら後悔する」って聞かなかったんだけどさ。
そうそう万が一があってたまるか。
◇
そう思っていたのは、ちょっと前までだ。
「……えーっと?」
〘ふんふんふんっ〙
〘くんくんくんっ〙
「いるかかクジラだな。いるかとかクジラって、陸を歩けるのか?」
んなわけなかろう!!
「弱ってるみたい。早く海に戻してあげないと!」
土魔法を試してみるが、やはりと言うべきか砂には効かない。
水魔法で水路作って押す?
「お願い……!」
「そのいるかを助けて」
声のした方って、海だよね? 振り返ると、女性人魚と男性人魚がこちらを見ている。
かなり大きいが、いるからしい生き物の心配をしている。
「頑張ってみるけど、大きないるかだからキツイな」
土魔法では砂をかけなかったので、水魔法で大きないるかも動かせそうな何か……
私は海の方へ向かう。
「師匠?!」
走り寄って来たユリシーズさんに抱きとめられてしまうが、離せ。
「思い付いた事をやるんだ。変な事はしないから、安心して」
「バカか?! ここで、背の高い師匠の身長で腰近くまでの水深だぞ?!
これ以上先へ行くのは、ここより安心なんかできない!」
んー、離岸流みたいな物が発生して、流されても困るな。
「分かったよ。ここからやるよ」
◇
しっかりイメージを固める。
幅はいるかの二倍、高さは五十センチ……
「海嘯」
ゆっくり、波に波が重なって高さを増していく。いるかの手前までしか届いていなかった波が、いるかに被る辺りまで届く。
波が引く時に、いるかが少し海へ近づくが……
「一度では無理か。何回かするしかないな」
波が引く間流されないように立っているのも、海嘯という自然現象を無理に発生させるのに使う魔力が多いのもキッツいな。
海岸でこの現象が起こるのは、河口が広い三角江。発生する河川はいくつかあるが、ブラジルのアマゾン川(アマゾンの海嘯をポロロッカと言うよ)、中国の銭塘江なら知っているんじゃないかな?
ニュースでを海嘯を波に見立ててサーフィンしいてるのや、中国の海嘯は良く流れるんだ。
◇
「海嘯」
はあっ、これで魔力が切れると思う。二回目からは多分、女性人魚か男性人魚がしてくれているのだろう。
海の波の影響も、海嘯の影響も受けなくなった分は楽になっている。
ばしゃばしゃっと、いるかも海に戻ろうと懸命にもがいてる。
「プナー!」
「きゅう〜ーっ!」
ばしゃ、すい〜……
「よ、かった、もどったぁ……」
「師匠?!」
……ユリシーズさんの声が遠い……な……
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