1:リジー嬢との出会い
私は芦屋大城優。異世界に転移して、このシュシェーナ王国の旧王都に飛ばされ、そこでお父さんに拾われて暮らしていたが、今は旅の空の下だ。
旅の仲間は、フェンリルの幼獣のクーとルー。
成り行きで、魔法使いの弟子にしてしまったユリシーズさん。
本当は剣で活動している、Cランク冒険者だ。
旅のお供は、キャンピングカーさくら号。
さくら号を牽引してくれているのは、大型馬種ペルシュロンのアークだ。
◇
「相変わらず、師匠の魔法はマルチのレベルじゃない。
なんだ、この土魔法の広い囲いは」
「できるから良いんだよ」
おかげで、アークものびのび過ごせる。
「アーク、お昼からまた宜しく頼むね」
アークにお水を入れた桶を用意して、キャンピングカーへ戻る。
「一雨来そうだな」
ユリシーズさんは、ぽつりと溢した。
◇
ざっあああああああッ。
「ひどい雨だね。テントの人は大変だろうな」
外は台風みたいな、大荒れの天候だ。
「春と秋にに二、三回ある、外れの日だな」
〘だれか近づいてくる〙
〘来るのー〙
キャンピングカーには、結界を張ってある。
アークの囲いも、別で結界を張ってある。
ドアを叩けても、キャンピングカーには入れない。だから、大丈夫だろう。
「すみません!
どうかお助け下さい!」
ドアを激しく叩くとともに、助けを求める声がする。
「私たちはこの先の領地、アッレロ領の縁の者。怪しい者ではございません!」
「どうされました?」
「雨風に煽られ馬車が横転して壊れ、身を寄せる場所がなく困っております。
どうか、お嬢さまだけでも保護して頂けませぬか?」
一応警戒しながらドアを開けると、全身ずぶ濡れの五人組が立っていた。
「全員入って下さい。タオルと、温かい飲み物をご用意します」
背後でユリシーズさんが警戒しているが、たぶん大丈夫だろう。
「お嬢さんと乳母さん? から、お風呂に入って温まって下さい。
他の方は温かい飲み物をお出ししますから、タオルで体を拭きながらそれで温まっていて下さい。
錬金術スキルの、水分分離乾燥法ができない方は、私に服を渡して下さい。乾かします」
みなさん四の五のおっしゃるので、「風邪引く心算も中を汚す心算もなければ、早くお風呂に入って温まって下さい」と、有無を言わさず、順番にお風呂に叩き込んだ。
◇
「何からなにまで、すみません。ありがとうございます」
「いえいえ。こんな雨の中です、助け合うのはお互いさまです」
全員お風呂をすませ、ダイニングに集まっている。
「結界があるので風雨の影響がないのは分かりますが、この馬車??? は、見た事もない凄い物ですねぇ」
「まだ試作しかありませんが、『キャンピングカー』という、移動する家だと思って下さい」
「移動する家?!」
「はい。これはその、一番大きなタイプになります」
みなさん、きょろきょろし始めた。お城に住んでいる方にしてみれば、これを家と言ったら狭いよね。
「ご安心下さい。ぎゅうぎゅう詰めになりますが、みなさんに寝て頂けるスペースもあります。
そろそろ食事にしましょうか」
「あ、動転して名前も申し上げず、申し訳ございません。
こちらはアッレロ伯アシュトンさまのご長女、リジーさま。
私は乳母の、マリーと申します」
「私は芦屋大城優と申します」
ん? みんな固まった。
「もしや、大城つよしさまのお嬢さまで、先ごろ方伯に叙爵されましたお嬢さまでしょうか?」
え、名前がもう広まっているの?
「ご存知でしたか。お恥ずかしながら、方伯の爵位を賜りました、その娘です」
「も、申し訳ございません。
お背も高く、男性だとばかり」
ああ、そっちか。貴族のお嬢さんは、変な男の馬車に乗るのは外聞が良くないもんね。
「お気になさらず。化粧もしていませんし、ズボン姿ですから」
新米とはいえ、上の家格の私に、失礼な事をしていないかという心配もあるんだろう。
キナル第二王子殿下ではないが、人として失礼がなければ、別にかまわない。
「ばあや。女の方なら、もうしゃべっても良いかしら?」
「はい、お嬢さま。大丈夫でございますよ」
「優さま、助けてくれてありがとうございます。
暗くて寒くて怖かったから、本当に助かりました」
サーラちゃんと歳は変わらなさそうだが、お嬢さま然としているな。
「どういたしまして。お口に合うか分かりませんが、晩ご飯にしますね」
そう言いおいて、ご飯の準備に取り掛かったのだが……。
「リジー嬢?」
「普段、お料理をしているところは見れませんの。だから、見てても宜しいですか?」
この世界でこのパターンを経験するのは、何回目だろう。
◇
「美味しい……!」
「お口に合って良かった」
「まあ、お嬢さま。今夜はよくお召し上がりですね。
ばあやは嬉しゅうございます」
「だって、美味しいんですもの」
リジー嬢は、確かにたくさん食べている。病的な細い体、血色の悪い顔色からは、こんなに食べられるとは思えない。
「普段は、どうしてあまり食べないんですか?」
「あ、その……。食事が合わなくて……、食が進まないのです」
マリーさんはその事を知らなかったみたいで、とても驚いている。
詳しく聞いてみると、料理人が変わってから口に合わなくなったのだそうだ。
◇
「他のご家族はちゃんと食べられているから、病気ではないかと旧王都の、高名なお医者さんのところへ行かれたんですか」
「はい。どこも問題ないと、自領のお医者さまと同じ事を言われましたわ」
前の料理人さんと同じメニューが出ても、食べられない、と。
「食べられないのは、塩辛い、生臭いと感じる料理か?」
「そうです!」
お、ユリシーズさん凄い。
「うちにも、ちょっと手を抜いて生臭い、塩を入れすぎて塩辛いと、飯の食べられないヤツがいたよ」
身近に、そんな方がいたのか。
「生臭いのも、塩辛いのもキツイからね。他の人は大丈夫でも、食べられない人がいても変じゃない。
ましてや、病気ではない。大丈夫だよ」
リジー嬢は、大きな瞳からぽろぽろ涙を零して泣き始めた。
病気かもしれないと、不安だったのだろう。
その夜は私とばあやはさんと一緒に、奥のベッドルームで横になったが、泣いたせいもあるのか、ぐっすり眠っていた。
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