S.S.R.I本部
S.S.R.I本部の玄関を入ってすぐ横にある、昭和の匂いがする小さな台所のガスコンロにおかれた、これまた昭和レトロな大きなやかんで、田村所長がふたつの湯呑にほうじ茶を注いだ。
「田村さん、いつも悪いな。所長自ら茶を淹れてもらって」
田村がお盆に乗せた湯呑を六畳間のちゃぶ台の上に置く。
「いえいえ、ここでは、お茶を淹れるのは私の仕事ですからお気になさらずに。それにしても今回の事件、関係する人物すべてに犯人が役を割り振って、本人が気付かぬうちにその役を演じさせるとは。コスモエナジー救世会事件のときの、他人の思考と行動を操るサイキックにも劣らぬ恐ろしい相手でしたな」
「まったくだ。しかも犯人は真っ先にあの世に行ってるんだからな。それでいて連続殺人を続けるなんて、俺も長年刑事を勤めて奇怪な事件にも多くかかわってきたが、その中でも飛び切り奇怪な事件だったぜ。なんといっても本当の意味で姿が見えない殺人者だからな。宮下君と御影君の協力が無ければ、犯人の書いたシナリオ通りの結末だったかもしれん。それを思うと背筋が冷えるぜ」
「下手な怪談話の幽霊より怖いですな。怖いと言えば今回の事件に対する上からの圧力はどうですか」
「ああ、内調の鮫島もだが、警察庁からも圧力がある。なんといっても金田の兄貴が警察庁の上級キャリア官僚だからな。悔しいが、奴は無罪放免されるだろう。そっちはどうだ」
「ウチにもあちこちからクレームが来ていますよ。内閣筋からの圧力もあります。今日も電話で『S.S.R.Iなど、簡単に捻りつぶしてやるから覚悟しろ』って脅されました」
「大丈夫なのか?」
田村は相も変わらず飄々とした表情で茶を啜る。
「まあ、大丈夫でしょう。S.S.R.Iは建物は安普請ですが、そう簡単に潰されるほど軽くはありません。そもそもここを創設したのは、圧力をかけてくる連中よりも、もっと上の人物ですからね。ご心配なく」
「ふーん。ここは意外にアンタッチャブルな組織なんだな。ところで御影君が連れて行った、あの山口肇という青年はどうしてる?宮下君の彼氏だったかな」
「ああ、彼ね」
そう言うと田村は、なにやらジャングルに巨大な岩山がそびえ立つ写真の絵はがきをちゃぶ台に置いた。
「御影君からの絵はがきが先ほど届きました。彼のインビジブルという能力のコントロール法を身に付けるために、例のスリランカの寺院で修行させていると書いてあります」
「すると、今はスリランカに居るのか」
「いえいえ。はがきより早く、もう三日前に帰ってますよ。今、宮下君が御影君の事務所に会いに行ってます」




