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パイロキネシス

「あなたは・・鮫島さん」


 御影の言う通り、その声の主は内閣情報調査室のエージェント鮫島であった。

 その背後に屈強そうな黒スーツの男たち三名を従えている。


「御影さん、お久しぶりです。コスモエナジー救世会事件ではお世話になりました」


「いったい内調が、こんなところに何の用ですか」


「ははは・・・あなたはなんでもお見通しじゃなかったのですか」


 その場に山城警部が割って入る。


「この現場は我々県警が仕切っている。あんたら内調の出番ではないぞ」


 鮫島は冷たい視線を山科に向けて言った。


「山科さん、動いているのは我々内調だけではない。国家安全保障局、公安調査庁、そして警察庁公安部もです。県警や、科捜研や、ましてや民間探偵などのほうが出番はないのですよ」


 宮下真奈美が素早く鮫島の思考を読み取った。

「・・・山科警部。鮫島さんの言うことは事実のようです」


「くっ・・・くそ。。」


「おわかりならご協力願います。さて・・・」


 鮫島は松下真一と花城由紀恵に向きなおって言った。

「そのノートは国家がお預かりします。こちらにお引渡しください」


 由紀恵はあわててノートを松下から奪い取ると、それを身体で庇うようにうずくまり叫んだ。


「いやです!このノートは処分します」


「あなた方は花城社長の研究の重要性がわかっていない。それは国家の安全を左右するかもしれない大変なものなのですよ」


「いいえ、これは罪も無い人々の血で汚れた悪魔の研究です。お渡しできません」


「これは要求ではありません、命令です。従わない場合は国家の権限であなた方を拘束することになります」


 鮫島の背後の男たちが前に出ようとするのを見て、御影が言った。


「花城由紀恵さん、ノートを渡しなさい。彼らは本気です」


 爬虫類のような顔に嫌な笑みを浮かべて、鮫島は由紀恵に近づき、手を差し出す。

 その手に由紀恵は力なくノートを手渡した。


「御影さん、ご協力ありがとうございます。ではこの現場は我々が引き継ぎますので、あなた方はどうぞお引き取りください」


 鮫島が言ったその時である。


 彼が手に持ったノートに眩いほどの光を発する炎が燃え上がった。


「うわ・・・っ」


 思わず鮫島はノートを床に投げ捨てる。

 ノートは何かの燃料が燃えるように一気に燃え上がると、あっという間に火が消えた。

 後に残ったのは黒い灰だけである。

 鮫島は普段は青白い顔を真っ赤に染めて怒鳴った。


「み・・御影純一・・貴様、何かしたな!」


 御影は平然として答える。

「おやおや。鮫島さんはまさか僕が超能力とか非科学的な力を使ったとでも言うのですか?超能力なんてこの世に存在しません。おそらく花城社長がノートに何か細工していたのでしょう。第三者の手に渡ったときには自動的に発火するとかですね。さすが天才だ」


 鮫島は怒りに震えていた。


「む・・・くそっ。御影純一、そしてS.S.R.Iも。あんた方はこのままで済むと思わぬことだ。引き上げるぞ」


 鮫島は黒スーツの男たちに命じると、素早く部屋を出て行った。


 宮下真奈美が御影純一に走り寄って言った。

「いまの・・御影さん、今のあれは発火能力(パイロキネシス)ですよね。そんな能力まで隠し持っていたのですか」


 御影はいつものように柔和な笑みを浮かべて答えた。

「燃えやすい紙を燃やす程度なら大したことではないさ。生木を燃やすとかになればかなりの能力者といえるがね」


 愛する父親がサイコパス殺人者であったことを知った花城由紀恵は、両手で顔を覆い隠すように(うずくま)り、心を閉ざしていた。松下はその由紀恵に対して、どう振舞えば良いのか戸惑っていることが、真奈美には読み取れた。


 (かわいそうに。この人たちは、これからいったいどうなるのだろう・・・あ、そうだ!)


 真奈美はあわてて花城博士の個人研究室を飛び出し、三階のフロアを見渡した。


 (あ・・まだ居た!消えてない)


「山口君、そこに居て。そのまま」


 宮下真奈美が山口肇の傍まで急いで走り寄った。


「宮下君?」


「はあ・・はあ・・あ、山口君、あの・・今日は助けてくれてありがとう」


「あ、いや・・どういたしまして」


 常に無表情だった山口肇の顔が、この時は少し照れているように見えた。


「それでね、お願いだからもう消えて居なくならないで。十年前みたいに」


「あのときも僕は宮下君の前から消えるつもりはなかったんだ。でも、翌日の君はもう僕のことを忘れていた。僕が見えなくなっていた」


「それは私が悪かったけど、声を掛けてくれたらよかったでしょう」


「本当に君の言う通りだった。僕は今でもずっと後悔している」


 (・・・後悔している?ほんとうに・・)


「邪魔するけど、山口君が後悔していたのは本当の事だと思うよ」


 御影純一が突然ふたりの会話に割り込んできた。


「御影さん、また私の心を?」


「だから読んでないって。でも間抜けな男の後悔ならよく理解できるさ。僕にも山ほど経験があるから」


「御影さんが?そうは見えないですけど」


「僕が結婚に失敗したことは知っているだろう。僕の人生は後悔だらけさ。だから若い君たちにはこれ以上後悔してほしくない。山口君はしばらく僕のところに来るといい。君の能力はすばらしい天からのギフトだけど、君はそれをコントロールできてない。かつての宮下君と同じで、能力のON、OFFの切り替えが曖昧だ。訓練してあげよう」


 山口肇は、はじめて感情を顔に出して言った。


「御影さん、ありがとうございます。ぜひこちらからお願いいたします」


「よし!とりあえず、これで事件の解明は終了でいいかな?山科警部。そういうわけで、この事件の犯人はすでに死亡のため、逮捕すべき人間は金田探偵の他には居ないということで、あとはよろしくお願いいたします」


※これでいちおう事件は解決しましたが、お話はまだもう少し続きます。最後までよろしくお付き合いください。

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