サイキック
御影純一は事務所の広い窓際にある、大きな応接セットに腰かけて、穂積恵子が用意した紅茶を飲みながら、チーズケーキを頬張りつつ黙々と自分のノートPCで金田探偵の供述を読みふけっていた。
真奈美と恵子はその間、紅茶とケーキを相伴になりながらガールズトークに花を咲かせていた。
30分ほどすると御影は顔を上げて瞼を閉じ、そこを指でマッサージし始めた。
「あ、御影さん。読み終わりましたか。どうでした」
真奈美が話しかけると、御影は両手を挙げて大きく伸びをしてから答えた。
「実に面白いよ、宮下君。まずね、この金田という探偵は思っていたほど愚鈍ではないな。彼は本当に名探偵の素養があるかもしれないよ。何よりも視点が鋭い。恐らくこの供述書には普通の人が見落としがちな、重要なディティールがほぼ余すところなく書かれている。これなら僕は現場に行かなくてもアームチェア・ディテクティブで推理を展開できそうだ」
「へえ・・そうは見えなかったけど、御影さんが言うならそうなんでしょうね」
「最もこの供述書でパズルのピースがすべて揃っているわけではない。そのうちのひとつが失踪中の山口肇だね。金田探偵は彼が犯人だと考えているようだが、はて彼はどこに居るのか」
その時、真奈美のスマートフォンの着信音が鳴った。
「あ、田村所長からだ。もしもし・・・はい、宮下です」
『宮下君、新事実が出た。例の山口肇だがね、出入国カードから身元を洗ったところ、驚いたことがわかった。山口は宮下君、君の中学の同級生なんだ。覚えはないかね』
「え・・?山口・・肇・・・あーすみません。ちょっと憶えていません。私、男子とはあまり交流なかったので」
『そうなのか。いちおう念のため、入手した山口肇の顔写真を送付したから確認してくれ』
田村はそう言って電話を切った。
「田村君、なんだって?」
御影が尋ねる。
「ああ、なんだかその山口肇って人は私の中学の同級らしいんですけど、私まったく覚えがないんです。あ、写真が送られて来た」
真奈美はスマートフォンで画像を確認した。
それは色白で切れ長の目を持つ、綺麗な顔立ちの青年だった。
(あれ・・?この顔は・・・)
真奈美はなぜか心臓の激しい高鳴りを感じた。
・・・何か意味があるんだよ。宮下君の能力にも僕の能力にも・・・
(え?これは誰の声)
・・・山口君、消えてしまわないで。見えなくならないで。私の目からは。。。
(あ、ああ・・・・)
真奈美の両目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「宮下君、どうした?大丈夫か」
驚いた御影が声を掛けると、真奈美は震える声で答えた。
「・・・私、彼を知っています・・山口君・・・電話しなきゃ・・所長に」
真奈美は気力を振り絞るように大きく深呼吸してから、スマートフォンをかけ直した。そしてはっきりした声で田村に言った。
「所長、わかりました。山口肇はサイキックです。S.S.R.Iが出動しなければなりません」