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授業はダンジョンの中で  作者: 片栗粉
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授業初日と魔道書



俺は、目覚めたのと同時に寝坊を確信していた。


昨日は確かに色々とあってなかなか寝付けなかったが、俺は別に朝に弱い訳ではない。つまり、なぜ起きれなかったかのか分からない。だが、今はそんな事を考えている時間はない。急いで準備をしなければ。


俺は、急いでファーストグレード・チルドレン専用の黒いローブを羽織り、ベットの下に置いておいたヒビの入った剣を鞘に納めて、急いで部屋を出た。


一階に降りて、食堂に寄った。何故食堂に寄るのかと言うと、弁当を取りに行くためだ。


最近では、冒険者が、泊まった宿で次の日の昼食を用意してもらえるサービスがある。

この学校でも、その制度を取り入れていて、朝に食堂でもらえるようになっている。


俺は食堂のカウンターにいる女性に声を掛けた。


「すいません、アルト・アルファスです。弁当をもらいに来ました」


「はいよ、アルファスさんね、初日から寝坊かい?まだ少し時間があるからいいけど、気をつけなさいね」


「はい、ありがとうございます」


俺は、弁当を受け取り、校舎の方に急いで向かおうと身を翻した。


俺は、少し小走りで寮の玄関を目指した。

玄関目前の曲がり角まできて、素早く曲がろうとしたところで、


「きゃっ?!」


俺は反対方向から来た女性とぶつかってしまった。


ぶつかった弾みで、弁当を落としてしまったが、今は、ぶつかってしまった女性の方だ。


「すみません、大丈夫ですか?」


俺は、女性に声をかけ、手を差し伸べる。


女性は、俺の手を掴み、立ち上がった。


「はい、大丈夫です。すみません、前を見てなくて、」


「いえ、俺の不注意です。怪我はないですか?」


「はい、大丈夫です。 あっ?!…」


女性は落ちている俺の弁当箱を見る。


「す、すみません!大切なお弁当が…」


女性の蒼色の瞳に、涙が浮かぶ。俺は慌てて言う。


「だ、大丈夫ですよ!昼ご飯ぐらい食べなくても、なんとかなりますからっ」


すると、女性は顔をグッと近づけてきて、


「ダメですよっ! 子供はちゃんと食べないと!」


頬をプクッと膨らませて、叱ってきた。


「で、でも、弁当はこんなですし、何より時間が……」


女性はうーん、と何やら考え込んで、「あっ!そうだ!」と言って、


「五分!そこで待ってて下さい!」


と、言って食堂の方に走って行った。


「いや、だから時間無いんだけどなぁ…」


俺は壁に付けられている大型の魔刻計を見る。


集合時間まで、あと15分、全力で走れば間に合うだろう。


女性を待つこと5分、まだか、と思っていると食堂の方から女性が手に小さなバスケットのようなものを持って走ってきた。


「お待たせしました! これを、どうぞ!」


そう言って女性は手に持っていたバスケットを渡してきた。


「あの、これは?」


「私、食堂で働いていて、あの、昨日の料理の残り者で悪いんですけど、よかったら、どうぞ!」


「え、いいんですか? でも、これって賄い的なものになるやつじゃ?」


「いえいえ、他にも食べるものはあるので、大丈夫ですよ」


俺はバスケットを受け取り、


「それじゃあ、頂きます。 あの、あなたの名前は?」


俺が聞くと、女性は、身につけたエプロンを翻し、


「私は、ラナ・フリューです。それでは、いってらっしゃい、アルファスさん」


俺は礼をして、玄関へと向かった。


玄関を出て、全速力で学校へ向かい、三階にあるらしい教室に入った。


中に入ると、当然だが、俺以外の生徒はもう来ていた。


席は自由だというので、俺は後ろの席に座る。すると、隣にタクトが座って来た。


「おはよう!アルト、結構ギリギリだったね」


「あぁ、ちょっと寝坊したのと、ちょっと色々あってな…」


「そ、そうなんだ…」


タクトと、会話していると、ヴェルズ先生が入ってきた。


「おはよう諸君。 さて、察していると思うが、今日もダンジョンへ行くぞ」


「まじですか?」


「ああ、マジだ。 今日はこいつを使う」


そう言って先生が見せてきたのは、なにやら分厚い本のような物だった。


「先生、それは?」


「これは、お前たちが今年使う魔道書(きょうかしょ)だ」


魔道書、それは冒険者が魔法を覚えるのに必須な道具だ。 主に詠唱が書かれている。魔法を覚えたては、これを見ながら打つことが多い。


「お前達には今から半分ずつに分かれて、二つのダンジョンに行ってもらう」


その後、俺たちは、二つのグループに分かれて、(ゲート)を超え、片方のグループは左のほうの道を行ったところのダンジョン、もう片方のグループは、右の方のダンジョンだ。俺は、左の方のグループだった。


ダンジョンに入る前、ヴェルズ先生に声を掛けられた。


「アルファス、くれぐれも魔力切れを起こさないようにな」


「はい、重々承知しています」


ヴェルズ先生はそうか、と言いその場を離れた。


俺たちのグループはダンジョンに入った。


一階層は主に、ゴブリンが歩いてくる、それを狙って魔法を撃つのだろう


「ガァァア!」


狙いどうり、ゴブリンはこちらに向かって歩いてきた。だが、ゴブリンは動きが遅い、

魔道書(きょうかしょ)を見ながら詠唱しても余裕で間に合う


「疾風の如く、切り裂け、何人よりも、速く、」


今は、俺の前の人の番だ。どうやらこうやって一人ずつ撃てば終わりらしい。まぁ、初日は、こんなもんか。


俺の前の女子は、風属性の魔法を撃ち、ゴブリンを倒した。さて、俺の番か。


俺は一応魔道書(きょうかしょ)を見ながら、詠唱をした。


「轟け、雷鳴、爆ぜろ、生命、…」


俺がゴブリンに向かってかざしている手から、だんだんと術式が組み上がっている。


「おお!…」


「その炎で、土へと帰らん、灰とにャリべッ!」


「あ、…噛んだ」


「噛んだぞ」


もう少しで魔法が完成するというところで、俺は盛大に噛んでしまった。


組み上がっていた魔法は消え、ゴブリンがどんどん迫ってきた。


「…痛ぁ…、ふぅ、さて、えーと、爆ぜろ」


俺は痛みをこらえて短くそういった。


ゴブリンは小さな炎に包まれて、消滅した。






「何やってんだよー!はははっ!」


俺はクラスメイトに笑われながら、帰宅していた。


ダンジョンから帰る途中、クラス全体で、昼食をとっていた。


俺は、フリューさんから受け取った弁当を食べていた。中には、唐揚げなど、色とりどりの食事が入っていた。


ご飯を食べた後、(ゲート)を出て、学校に帰った。すると、なんと今日は解散ということで、俺たちは寮に帰った。


寮に帰ると、みんなは食堂に行き、弁当箱を返却していた。


みんなが、返し終えたのを見計らって、俺は、厨房にいたフリューさんに声を掛けた。


「あの、これ、ありがとうございました」


「いえいえ、気にしないでください。 …あの、アルファスさん、」


「はい、何ですか?」


「明日から、アルファスさんの弁当、私に作らせてくださいっ!」


「はい?」


唐突に言われ、俺は困惑した。


「ですから、アルファスさんの弁当、私に作らせてください!」


「ど、どうしてですか?」


「こうして、私たちが関わったのは、きっとなにかの縁です、なので、私が作った新作の試作品をアルファスさんのお弁当にして、食べていただく、どちらにとっても、いい話でしょう」


サラッと凄いこと言ったぞ、この人、要は、自分が作った新作料理の試作品を俺に食べさせて、味がどうか、確かめる。つまり毒味をしろと、そういうことだ。


「あの、なんて、俺に…」


俺が言い終わる前に、フリューさんは俺の唇に指を当てて、


「皆まで言わないでください。大丈夫です、私、料理には自信があるんですよ。どんなことがあっても、私の料理で乗り越えられますよ」


その言葉には、妙に説得力があった。

俺は、


「じゃあ、お願いします」と、言った。


フリューさんは満面の笑みを浮かべて、


「はいっ!任されましたっ」


と、言った。


そして、「それでは、これから新しいメニューの開発にかかります!では、アルファスさん、また明日、あ、それと…」


「はい? 何でしょう?」


俺が聞くと、フリューさんは悪戯っぽい笑みを浮かべて、


「舌、もう噛まないよう気をつけて下さいね」


そう言って厨房へと戻っていった。


俺も食堂を出て、階段を登って行った。

そして、ある事に疑問を浮かべていた。


(あれ、そういえば、俺はフリューさんに今日の授業の事言っただろうか。それに、朝も、俺は名乗っていないはずなのに、名前を知っていた。なぜだ? まさか…)


「いや、きっと俺の思い違いだな」


俺は階段を登って、部屋へ向かった。


俺のこの学校での授業初日は、なんとか無事に終わった。


しかし、頭に、疑問を残しながら…





五話です


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