夢の中の少女
【ミノタウロスJr.】との戦闘で魔力を使い果し、気絶した俺は、何時間眠っていたかわからない。だか、夢の中での懐かしい声が聞こえてきた。
「私は、信じています。必ず、助けに来てくれるって。ずっと、ずっと待っています。だから、立ち止まらないでください」
俺はその言葉で目が覚めた。
俺はダンジョンの地面ではなく、ベットのようなものに横たわっていた。
視界には、知らない天井がある。
「やぁやぁ、目が覚めたかい?」
俺は見知らぬ女性に声をかけられた。
俺は自分が横たわっていたベットから身を起こし、近くの椅子に座っていた女性を見た。
黒色の長髪に、黒い瞳、そして、白衣らしきものを見にまとっている。一体誰だろうか?
「あの、失礼ですが、あなたは?」
俺は質問する。
すると女性はニコッと微笑んで、
「私? 私はこの学校で一番の治癒魔法の使い手、ファーストグレード・チルドレン担当の養護教諭、ウイ・クロラルだよ〜」
養護教諭、ということは、ここは保健室なるところか、俺はあの後一体どうなったのだろうか、
「先生、一体俺はどうなっていたのですか?」
「んーとね、三組の君以外の子はみんな戻ってきてたのに、君だけ戻ってこないから、シーちゃんが心配して、ダンジョンに潜ったら、最奥地で、君が倒れてたから、慌てて、私のところに連れてきたんだよー。んで、私が調べたら、ただの魔力切れだって…ふふっ。君面白いなぁー」
俺は先生に笑われる。
「それで、俺はもう動いて大丈夫なんでしょうか」
「うん、一応治癒魔法かけといたし、魔力のポーションも飲ませておいたから」
「そうですか、ありがとうございます」
俺は立ち上がり、扉に手をかけた、すると、クロラル先生に声を掛けられた。
「アルファスくーん、また遊びにおいでよー」
「そうですね、またいずれお世話になるかもしれないので、その時は」
俺は、そう言い、保健室を後にした。
保健室を出ると、長い廊下があって、部屋がいくつか並んでいた。まだ、この学校の構造が、よくわからないので、どこに行けばいいのかわからず、その場をうろうろとしていると、後ろから声をかけられた。
「あら、アルファスさん、体の方は、大丈夫ですか?」
振り返ると、そこには俺たち三組の担任、リザリーラ先生が立っていた。
「ええ、クロラル先生に、治癒魔法をかけていただいたので」
すると、リザリーラ先生は微笑んで、
「そうですか、それは良かったですね。あ、そういえば、あなたをここまで運んできたのは、シスカだと聞きました。あとでお礼を言っておいてくださいね。 それでは、今日は安静にしてくださいね。明日からは、通常授業なので」
俺は頷き、
「はい、分かりました」
と、短く返事をした。ここで、俺は聞かなければいけない事を思い出した。
「先生、俺はこれからどうすればいいのですか?」
「ファーストグレードの生徒は、今日はもう寮で休んでいますよ。寮は、学校を出て、少し歩いたところにありますよ。部屋は、二人一部屋ですので、僚艦の方に聞いてください」
「ありがとうございます」
俺は礼を言い、寮を目指して歩き始めた。
学校を出て、少し歩いたところに、寮はあった。
ファーストグレード・チルドレンの生徒60人が滞在することになるこの寮は、五階建ての構造で、一階はミーティングルームや食堂、大浴場などと、設備が整っている。二階からは、生徒の部屋となっている。
俺は、自分の部屋を聞こうと、僚艦を訪ねる。
「すみません、自分の部屋はどこでしょうか?」
俺は、恐らく僚艦であろう、大柄の女性に尋ねる。
「あんた、名前は?」
「アルト・アルファスです」
「アンタは三階の右端の部屋、タクト・フォン・アメリールと一緒の部屋だ」
「ありがとうございます」
俺は感謝を述べ、階段へと向かった。
三階に着き、右端の部屋へと向かった。
部屋に着き、部屋の扉を開けて、中に入ろうとすると、中から声が聞こえてきた。
「うん、今日、ダンジョンに行ったよ。…いや、まだ、分からない。ううん、大丈夫。うん、それじゃあ、また」
声が聞こえなくなったので、俺は中に入った。
中に入り、タクトが俺に気づくと、すぐに俺の目の前に来た。
「アルトっ! 大丈夫なの?!」
「あぁ、心配かけて悪かったな」
タクトはホッと、胸をなでおろし、
「ううん、大丈夫、それより、疲れたでしょ、明日から授業だし、もう寝なよ」
「あぁ、そうさせてもらう」
俺は、部屋の奥にあるベットに横たわり、すぐに眠ろうとした。
しかし、なかなか眠れない。先程見た夢が、頭から離れないのだ。
なぜ、その声が、今夢で聞こえてきたのかわからない。
俺は、その声の主に何度も救われた。その声の主は、俺のたった一人の、大切な、家族だ。今は、いない、最愛の、妹。
俺は、必ず妹を救ってみせる、たとえ、この身が、滅んでも…
俺は、知らない間に、眠ってしまっていた。
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「ファーストグレード・チルドレンの、実力テスト、終了いたしました」
「そうですか、ご苦労様でした、ヴェルズ」
私、シスカ・ヴェルズは今、学校の地下にいる、とあるお方に、本日行った実力試験の結果を報告している。
「…そして、三組では、リュカ・エメラルド、タクト・フォン・アメリールなどの生徒が優秀な成績をあげました」
「なるほど、ん? 」
パラパラと成績表を見ていたそのお方の手が、不意に止まった。
「あの、どうか、なさいましたか?」
「ヴェルズ、この、アルト・アルファスという生徒は?」
「はい、本日の試験、14階層の、最奥地にて、魔力切れを起こしておりました」
「ほう、ということは、上級魔法を?」
「はい、クロラルが、そう言っておりました」
「ヴェルズ、あなた、この子の結果を見て、何か気づく事はない?」
私は、渡されたアルファスの試験結果を見て、あることに気づいた。
「あっ!」
「気づいたようね、」
私が、気づいたこと、それは、モンスターとの戦闘時間だ。他の生徒が大して時間をかけずにできていた、ゴブリン討伐、しかし、彼は、それに一時間以上かかっていた。
しかし、逆に、他の生徒が最も苦戦した【ミノタウロスJr.】との戦い、それを、彼は、上級魔法一発で、それも、一度も攻撃を喰らわずに倒すことが出来ている。
「これは…面白い生徒が入ったようね、」
私も、思うところがあった。いきなりダンジョンに行くと言われ、混乱している生徒に対し、彼は、的確な質問をしてきた、それに、明らかにダンジョンについての知識が身に付いている。
「いい報告をありがとう、ヴェルズ、下がりなさい」
「はい、失礼します」
私は、礼をし、この場を後にした。
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ヴェルズが、去ったあと、女は、グラスに入ったワインを飲む。そして、一言、
「アルト・アルファス、興味深いわね…私も、三年ぶりに、ここから出てみようかしら」
彼女は、そう言って微笑んだ。それは、まるで、悪戯をしようとしている、少女のような顔だった…
四話です。
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