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Hello World

 食事を食べ終えて、俺たちは再び集まる。


「集まるのはいいんですが…なぜ俺の部屋に。空き部屋もあるでしょ…」

「まぁそうなんだけどっ。伝統を継ぐのも大事かなと思って」

 その伝統は昨日、部屋主のいない間に勝手に作られたんですがそれは…。そもそもの伝統をいうなら、一番最初に使った空き部屋を使うべきでは。


 と反論も出るが、不利益もないのでおとなしく全員を入れる。



「それじゃ、情報共有の続きね。私たちからは終わってるから、図書館組お願いねっ」


「うむ。では俺の調べで分かったことを教えてやろう」

 リュートは、前回の終末の混沌(ロストカオス)の詳細を報告した。

 綾小路詩音も同じような内容だ。それらをまとめると、



 600年前は、大陸全土で人類が生活していたが、大陸の南の端に魔王が誕生。それから魔人族とともに破竹の勢いで人類の生存圏を侵略した。大陸の半分を制圧しかかるところで、異世界から6人の勇者が召喚されて魔王軍との激戦の末、撃退に成功。その後、魔王の姿は現れず、少しずつ人類の生存圏を南に伸ばして3分の2まで取り戻した…というのがこの600年間の流れらしい。


 草木や動物、人などの生命から溢れ出る“聖力”というものが、魔王や魔人族にとって毒だという。ゆえに、魔王や魔人族は、瘴気を使って自分らが住みやすい様に不毛の地に変える。通称魔界。そして今再び、人類の生存権が魔界に侵食されつつあるという状況らしい。



「そういえば、聖力ってあの国王も言ってたわね。アンタ達ゲームで聖力って聞いたことある?アタシは無いわ」

 と言い添えて俺とリュートに綾小路令嬢が尋ねてきた。

「こちらにきて初めて聞く単語だ」

「俺もですね」


 ゲームには無かった魔力と精霊力以外に何かしらの力があるのか、それとも、精霊力のことを聖力と言っているだけの可能性もある。この辺は後々分かってくることだろう。



「アンタは何か分かった?」


 俺はこの世界の魔法体系について、ほとんどゲームと同じであるということと簡単な解説をした。


「一緒というのは都合がいい。一から試行錯誤する必要もないしな」

「そうね。アタシがゲームで習得したクラススキルなら習得条件はだいたい覚えてるだろうし」

 攻略サイトや情報掲示板が使えないこの世界で、スキルの習得条件を手探りで探すのは非効率すぎる。SLIGエスリグをプレイしていて良かったと改めて感じる。


「僕らは右も左も分からない。教えてくださいよ?」

「大船にのったつもりでいいわよ」

「詩音先輩、よろしくお願いするっす」

「お、お願いしますぅ…」

 悠希や大智や紅葉に頼られる快感に溺れているのか、得意げに綾小路令嬢は平たい胸を張る。


 リア充の権化の様な悠希と、体育会系の大智、小動物の様なふるゆわ癒し系紅葉といった、ゲーム界隈の仮想敵…というか一方的に敵視している人種に頭を下げられるのがそんなに嬉しいか?



 …いや、嬉しいよ?うん。間違いない。




「では、最後に私たちから帰還方法についてですが…。残念ながら有力な方法は見つかりませんでした。召喚術と占星術の方面からも調べてみましたが…」

 海崎が残念そうに報告する。

「そう簡単にはいかないようね…」

「一応、勇者召喚については少し分かりました。王家に伝わる秘儀であり、召喚には宝珠という特殊な魔石と呼ばれるものが必要らしいです」

「魔石って?解説お願い、零くんっ」


「ゲームでは、魔力を溜めることのできる石ですね。魔物は魔素の塊で、その核となるのが魔石でした」



 つまり、帰還魔法にもその特殊な魔石が必要という可能性が高い。

 ゲームでは宝珠なんてアイテムは存在しなかったし、この世界特有の要素と考えるのが妥当だろう。




 全員の収集した情報を共有して、分かったことは増えた。けれど、俺たちは崖っぷちである可能性は高い。


「情報共有会議は終了ね。…明日は約束の謁見が待ってるわ、決めないといけないのよね」

 深刻な顔をして星華さんが告げる。


「そうっすね…」


 今日、これらの情報だけで俺たちは選択しなければいけない。


 戦うか、逃げるか。


 そして、4年後に帰還できるとして、帰るのか、残るのか。


 自分と相談するかのように皆下を向いて耽る。


「あ、そうだ」

 沈黙を破って鈴木悠希が声をあげる。

「風呂の件、聞いたんだよ。そしたら自由に使っていいってことだったから」

「そうだったわね。忘れてたわ。どうせなら、いったん解散にしてお風呂に入りましょうか。そのあと、第二回ミーティングってことで」

「そうですね」

「悪くないわ」

「うむ」


 決断する時間は必要だ。湯船につかりながら考えるのもいいだろう。



 俺たちは2時間後に再度集まることにして解散した。



「おぉ~風呂というより、プールだな」

 俺たちは男四人で浴場に来た。

 裸の付き合いというやつか。


 SLIG(エスリグ)でも街に浴場があった。パーティーを組んでる相手と一緒に入ると、ドロップ率が僅かに上昇するという逸話があったりして面白半分で使っていた。


「ふぅ~」

 二日ぶりの湯船に体が癒される。

「極楽っすねぇ~」


 男四人の顔が水面から出ている。不思議なものだ。昨日の朝、たまたまバスに乗り合わせただけの奴等とこうして異世界で一緒に風呂に入っているのだから。世の中何があるか分からないというのは本当だ。


「…」

「…」

「…」

「…」


 あまりの心地よさに会話することも忘れている。想像以上に俺たちは知らない場所でストレスを感じていたのだろう。


「そういえば、僕らは月曜日のあの時間、いつも同じバスに乗ってたんだよね」

 鈴木悠希が唇をほとんど動かさずに声をだす。相当喋るのも面倒みたいだ。それでも話題を切り出すのは、流石コミュ力マックスイケメン。


「ふっ。そうだな。これも運命さだめか」

 ーーいや、たまたまでしょ…。

「零くんは学内で見たことあったけど、他の人は全く知らなかったなぁと思って」

「意識しないとそんなもんですよ」

「そうだよねぇ」



 ポツ、ポツと誰か話題を出しては泡のように消えていく。

 ほんの二、三言の会話が心地いい。掘り下げた会話をする気力もなく、思いついたことを口にするような雑談。



 体の芯が温まって十分に湯船を満喫できた。


「俺は先に上がるとするよ」

 堕落した体に力を入れて湯船から引きずりだす。



 部屋に戻っても誰もいないことを確認して、ステータスウィンドウを開く。

 スキル〈ゲームエンジン〉

 この後のミーティングで、今後どうするかを語る前に、俺の唯一の固有スキルの有用性を把握する必要性がある。昨日の書庫でも今日の図書館でも俺の固有スキルについての情報はなかった。

 実際にやって把握するしかない。危険は…まぁないだろう…ないと思いたい…ないといいなぁ…。



 魔法やスキルの使用には、使用者の意思と、それに必要なリソースがあれば発動すると本に書いてあった。


 〈固有スキル発動ゲームエンジン〉



 ウォンッ


 視界に黒い板が現れる。テキストが記述できるカーソルが点滅していた。


「おい…冗談だろ…」

 コンソールだ。

 コンピューターをはじめとしたプログラムを制御するために使われる入力装置。


 現実世界での”ゲームエンジン”とは、ゲーム内の事象、情報、法則の全てを管理・計算し、結果を出力する謂わば世界のコア。

 風に揺れる木の葉一枚の動きから、天体の軌道まであらとあらゆるものがゲームエンジンによって管理されている。


 もし…もしこのスキルが、その名の通り、世界の法則そのものに干渉できるものだったら…。それはもはやスキルの度合いを超えている。


 この世界がゲームなら、どれだけ強力な固有スキルも魔法もあくまでゲームの要素。しかし、ゲームシステムを弄れるというのであれば、もはやそれはゲームの外側、開発側の領域だ。


 俺は息を飲む。


「どうやって使う…?」

 コンソールであるなら、プログラムを記述する必要がある。カーソルが点滅しているがキーボードなるものはない。


「魔法やスキルは使用者の意識によって発動される…か。試してみるか。」


 俺はコンソールの黒い画面に意識を向けた。


 //コンソール上でHello Worldと表示せよ

【Console WriteLine("Hello World");】



 SLIGエスリグは、2025年からC#やC++にとって変わって普及した仮想量子演算に特化したVA言語を利用しているはず。

 俺の意識に合わせて文字が羅列されていく。


【実行】

 ーーーーーーーーー

 Hello World

 ーーーーーーーーー


 俺はコンソールに表示されたそれを見て一安心。全く未知の異世界言語にしか対応していないというならお手上げだった。…というよりも、VA言語が使える方が余計に謎めいている。


 ゲームの世界というのは馬鹿げている。


 まだ、SLIGエスリグに限りなく似た無限に存在する並行世界の一つという方が納得できた。


「さて…」

 俺は部屋にあった照明に使われている光魔石を手に取る。電気を使わず水につけると光というファンタジックなアイテムだ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

//コンソールに表示する

Console WriteLine ;

{

 //プレイヤーの右手に触れたら

 OnTriggerEnter.player.OnCollision(RightHand)

 //そのオブジェクトのプロパティを調べる

 this.gameObject.Search.property;

}

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 〈詳細〉

 名称:魔光石

 種別:第三種

 分類:魔石

 オブジェクト名:MagicStone_121

 固有ID:G24HfIH568ge3wj39n8rTU


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 …。


 やっぱりできるか。…できちゃうか・・・。



 その後、俺はしばらく試行錯誤し、自分の固有スキルの能力を把握することに努めていた。



 コンコンコン


 扉がノックされる。悠希達だろう。

「どうぞー」


 俺は一旦このスキルのことは終わりにして、これから起こる今後の方針についての重要な会議に備えた。


作中の〈ゲームエンジン〉で使用されるVA言語は、C#をベースに簡略化&改変している実在しない言語です。

大人の都合により、クラスやコンポーネント処理は一切記載していません。

ご注意ください。

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