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情報収集

 太陽の光が部屋に差し込み、閉じてる瞼の上から光が見える。

 眠気が徐々に覚めていき、体を起こした。


 知らない天井だ。


 と、異世界にいることを実感する。夢オチの可能性に僅かに期待していたが、そんなことはなかった。


「おはようございます」

「そういや…そうだったな」

 既に用意された普段着を着こなす海崎が机の上にノートを広げて何やら作業している。


 あくびを抑えながら体を伸ばす。寝不足気味だったが、異世界との時差で体内時計が戻ったようだ。彼女がここにいるということは、朝食の時間はまだなのだろう。



「ーーーいや、ちょっと待て。なんでここにいる。起きたら自室に行けよ!?」

「無防備な零さんが食べられるかも知れませんしね。パクッと」

 手でパクパクと食べる表現を俺に見せる。

 朝の低血糖な俺にツッコむ気力が湧かない。

 俺は海崎の冗談か本気なのか分からない発言をスルーして、顔を洗って眠気を覚ます。



「そういえば。昨晩零さんが寝てからお二人追加でいらっしゃいましたよ?」

 寝不足のせいか、全く気付かなかった。

「どうだった?」

「どちらも美人さんでしたね」

「いや、そうじゃねーよ。反応の方」

「冗談です。1人目は私を見てすぐに逃げていきましたね」

「そうとう怖かったんだろうな」

「…。2人目は「あなたは誰ですかっ!?そこをどきなさいっ」って言うので。「勇者です。ここは私の寝床です」って答えたら…」

「恐ろしい展開だな…」

「頭を床に付けて「ごめんなさいごめんなさい」って言って謝ってました」

「…不憫すぎる…」


 これで人を派遣するのは終わってくれるといいんだけど。

 そういえば、女性相手にはどんな人が来るんだろうか。ホストみたいな感じなのか。イケメンがくるのか。はっ…王子様とか?


「…あのさ」

「はい」

「明日は海崎の部屋ーー」

「却下です」

「明日だけ!」

「ダメです」

「俺だってどんな男が来るのか見たい!海崎だけ見てずるくない?」

「ダメです。それに見たくて見たわけじゃないですよ?」

「だって、王子様とかくるんだぞ?たぶん。ハニトラしかけにくる男とかどんな奴か超見たい!」

 隣に俺がいたらどんな顔をするだろう。楽しみでしょうがない。どうせ身分が高く金持ち貴族のイケメンが来るんだろ?そんな奴らを追い返すとか超楽しそう。

「ダメです」

「見るだけ!」

「ダメです」

「一回だけだから!」

「ダメです」

「じゃあちょっとだけ」

「ダメです」

「すぐやめるから!」

「ダメです」



「あ、あなたたち…」


「「!?」」

 いつの間にか部屋に入っていた桐生星華の声。

「おはようございます。どうしましたか?」

「ご飯だよって呼びに回ってたんだけど…。まさか零くんのそんな姿を見るなんて」

「そんなって…どんな」

 俺の寝巻姿がそんなに哀れか?寝ぐせか?


「「一回だけでいいから!!」「ちょっとだけ!!」「すぐやめるから!!」」って懇願してるところ…」



「…」

「…」


「大丈夫!お姉さん何も見てないし聞いてないから!先食堂行ってるね」

 バタンと勢いよく扉が閉まってさっきまでの騒がしさがなくなる。


「…私のせいですか?」

「…いや…俺のせいだ」

「どうしますか?」

「…名誉挽回手伝ってください」

「私の部屋は無しですね」

「…背に腹は代えられぬか…」

「ふふっ」

 海崎は勝ったような笑みを浮かべてノートを片付け立ち上がった。


「先に行って。着替えてから行く」

「分かりました」



 全面的に俺に非があるとはいえ、朝から災難だ。

 装飾のついた白と青の服に着替える。

「コスプレかよ」

 俺の身長にぴったりあう。流石は王宮の使用人だ。


 俺は着なれない服に身を纏い、朝食を食べに食堂に向かった。



 朝食を食べながら、星華さんの誤解を解き、食後の予定を確認する。

 どのみち昼にまた食堂に集まることになる。その時に中間報告もできるだろう。


「あ、そうだ。聞き込み組の二人に、ぜひ聞いておいてほしいことがあるんですよ」

「重要な話ね…任せて頂戴?」

「いえ…。王宮なら浴場があると思うので、俺らも使えるかってことを…」

「…あ、そういうね」

「何ですか?」

「いえね、零くんが是非にというものだから、どんな内容かと覚悟したんだけど、案外拍子抜けで。ごめんなさい?」

「拍子抜けとは心外ですね。風呂は日本人の魂ですよ」

「そうね。私も同感だわ。聞いておくわ」


 食事を終えて二手に分かれる。

 俺たち6人は、セバスの案内で王宮内に隣接する図書館に入った。


「じゃあ、手分けして情報収集に努めるわよ?」

「なぜお前が仕切る」

 張り切る綾小路令嬢にリュートが噛みつく。


「まぁまぁ、星華さんを除けば一応一番年上だし…。ここは従いましょう」

「アンタ…。一応って何よ」

 俺はせっかくフォローしようとしたのに…。


「ふん。いいだろう。貴様がそういうなら聞いてやる」

「ハハハ…」

 リュートも納得してくれたのならまぁいいか。


「じゃあ役割を決めるわよ?紅葉(アンタ)澪緒(アンタ)大智(アンタ)は帰還方法について。アタシとリュート(アンタ)とアンタは、前回の終末の混沌ロストカオスと、過去の勇者について。他は臨機応変に。異論あるかしら?」



「いや、ベストだと思いますよ」

 いい配役だ。元プレイヤーは、ある程度の前提知識がある。前回の終末の混沌ロストカオスの情報が見つかればそれなりに解釈ができる。逆に、帰還方法については全くの未知。ゲームの知識の有り無しは関係ない。後で情報共有するならこの配員が最も効率がいい。


「異論ない」

「ええ」



 俺たちは、この国で一番大きい本の香りが漂うファンタジー図書館に、知識を求めて足を踏み入れた。



 前回の終末の混沌ロストカオスの手がかりはすぐに見つかった。それは約600年前に遡る。6人の異世界の勇者が、魔王軍を撃退したとの内容だった。

「ゲーム時間で600年前だと、現実だと10年前か…?。10年前にSLIGエスリグはまだリリースされてないよな…」

 俺たちの知らない歴史があるようだ。


 空白の600年間に何があるかは全く記載がない。まるで、終末の混沌ロストカオスはないかのようだ。いや、本当にないのだろう。今回のような魔王進軍イベントがゲーム時間3カ月、この世界で15年おきに起こっていたら、今頃世界はとっくに滅んでる。


 ーー結論を出すには情報が少なすぎるか…。せめて、今回の終末の混沌ロストカオスの規模だけは把握したい。


 俺は前回の魔王侵攻についての歴史書を読み漁った。



 ゴーン…

 ゴーン…


 昼の鐘がなる。一旦ここで切り上げだ。他のみんなとの情報共有も必要だろう。



 本を片づけてロビーに戻る。


「揃ったわね」


 ロビーで皆と合流して図書館を出る。


「セバスさん…ずっと外で待ってたんですか?」

「はい。それが私の務めでございます」

 当たり前かのように返す姿に、プロだなと感じる。まぁ、監視もかねてのことだとは思うが…。


 食堂に向かう道がてら、セバスは俺たちに話しかけてきた。


「僭越ながら…。なぜご自身らで図書館に行かれるのでしょうか。私共に尋ねて頂ければお答えいたします。分からないことであればお調べいたしますが…」

「確かにそうなんですけどね。用意された答えを聞いても、同じ結論にしか至りません。俺たちは勇者として呼ばれています。人のできないことをするから勇者たりえるだと思うのですが…違いますか?」


 セバスは俺たちを任された執事長だ。当然、この世界の”いろは”を聞かれることは想定しているだろう。ならば、その答えも用意していて当然。その答えが、俺たちを誘導する意味を含んでいるか、それとも真に勇者のためを思っての言葉かは俺たちに知りようもない。



 要は、そっち側の人間の言うことを鵜呑みにするほど馬鹿じゃないですよって話だ。それをオブラートに包んで伝えたまで。


「……差し出がましいことを言いました」

「いえいえ、お気持ちだけで十分ありがたいですよ」


 食堂前まで辿り着くと、セバスは深く頭を下げて俺たちが中に入るのを見送った。





 昼食は鶏肉のソテーだ。男の1人暮らしだと手の込んだ料理は面倒で避けてしまう。異世界に来て手の込んだ料理を腹いっぱい食べれるだけで役得だと思ってしまうのは、浅はかだろうか。


 ナイフとフォークを持ちながら、俺たちは情報交換を行う。


「ーーーという感じね。不思議なぐらい私たちの世界と一緒な印象。暦も時間単位も一緒なんて」

「報告ありがとうございます。それについては、ゲームとほとんど同じようですね…」

 それはそれでありがたい。


「じゃあ、次は僕から。国についてだけど、この国はアストリア王国。人間主導の国家だということと、この大陸で一番国土も人口も多い大国らしい。その他、8ヵ国があって、同じ人類と呼ばれているが、人間じゃないみたいだね」

「エ、エルフ…とかがいるんですか?」

 悠希イケメンの説明に紅葉モミジが驚く。俺たちゲームプレイヤーは、エルフもドワーフなんかの亜人種はいる前提で考えていたが、ゲームを知らない人にしたら未知の異世界だ。


「どうやらそうみたいだね。エルフの国は緑碧の森って呼ばれているみたいだよ」

「ふむ。ゲームと同じだな。これは世界地図も一緒の可能性が高いな。他の国名は何と言う?」

 中二病リュートも当然、こちら側の感覚でこの世界を見ているようだ。


「あ、ああ。ちょっと待ってくれ。一度に覚えられなそうだったからメモしてある。えっと…」

 獣人種の国、ガルガティル連邦。

 地霊種ドワーフの国、ラルド。

 森霊種(エルフ)の国、緑碧の森

 竜人種の国、ヴォルデノン

 鬼人種の国、ドーワ

 小人種の国、ルラン

 妖精種の国、ケルリア

 それと、ここ人種の国、アストリア王国。

 かしら?」


「…そうだ。確かそんな名前だった。よく知ってますね」


 ふふーんっと得意げに鼻を鳴らす綾小路令嬢。まぁプレイヤーなら誰もが知ってるとは思うが…。


「それで?」

「ああ。それで、その8カ国は連合を組んで、魔王勢力と渡り合おうとしているというのが今の流れだね」

「ふむ。終末の混沌ロストカオスでは無能NPC共が参加することは愚か、同盟などありえんかったな。それはゲームとは違うようだ」

 リュート…。NPCが無能って…。それはそういう仕様だから…。


「僕からは以上だね。図書館組はどうだい?」



「では、私から」

 海崎は手にしていたフォークをおいて話始めた。

「帰還の方法についての記述は見つかりませんでした。勇者召喚の儀式については、”王国に伝わる秘儀”としかありません。午後からは、星の配置が重要ということらしいので、占星術というのを中心に探そうかと思います」


 他の帰還方法を探していた人たちも、同じような感じだ、と首を振る。

 召喚方法さえ本に残っていないのであれば、帰還方法を同じく本から探すのは厳しいかも知れない。


「じゃあ、前回の終末の混沌(ロストカオス)についてまずは俺から」

 俺はさっき調べたことを端的に述べた。


 …

 …

 …


「俺の方も同じ感じだ。大差ない」

「アタシもね。午後も引き続き探してみるわ」


「午後は、魔法やスキルのことについて調べるつもりです」

 俺たちの知ってるゲームと同じシステムかどうかは把握しておく必要がある。


「じゃ、午後も張り切っていきましょう~!」

 星華さんのテンションに押されながら食堂を出る。そして再び俺たちは図書館に赴いた。



 この世界の魔法と呼ばれるシステムについて理解を深める。いくつかの魔法に関しての解説書を呼んで、SLIG(エスリグ)と同じ仕様だと安堵した。


 魔法は、全ての術式の総称で、


 魔術

 精霊術

 呪術

 召喚術

 神聖術

 占星術

 錬金術

 付与術

 降霊術

 死霊術

 霊符術

 仙術

 忍術

 …

 …

 …といくつもあるが、結局のところ、魔力か精霊力のどちらかを使って術を発動するということにおいては同じだ。


 ゲームでは、

 例えば、”火球(ファイヤーボール)”という魔法を覚えようとしたら、職業を魔術師となり、ファイヤーボールの習得に必要なクラスレベルになり、習得に必要な条件を揃えるか、低確率だがファイヤーボールを使うモンスターを倒すことで習得できた。


 この方法はこの世界でも共通らしい。


 今の俺たちは、レベルは上限の100。ステータスパラメータは圧倒的に高いが、勇者というクラスレベルは1だ。ゆえに、魔法の一つも使えない。戦う可能性があるなら早急にクラスレベルを上げる必要がある。



 そして、それとは枠外にある固有スキル。これは魔法ではなく、必要となるリソースが必要なかったり、回数制限があったり、発動条件があったり、特定のアイテムを消費したりと様々だ。


 他にも、生態系についても調べておく。ざっと調べた感じ、魔獣や魔物はゲームと同じのようだ。



 リーン♪

 ゴーン♪

 リーンリーン♪


 夕日が黄ばんだ古本をオレンジ色に染める。閉館のチャイムだろう。随分と集中して読みふけっていた。



「て、手伝います」

「ああ。助かるよ」

 秋本紅葉が、俺の周りに知らぬ間に積み上がった本の片づけに協力してくれる。


「収穫は?」

「す、すみません…」

 謝ることではないが、どうやら帰還の方法は見つからなかったようだ。


「ま、なんとかするさ」

 昨晩任せろと言った以上、弱音を吐くわけにもいかない。

「あ、ありがとうございます…」



 本棚に本を片付け図書館を後にする。


「なーんかさー」

 王宮に戻りながらブラブラと歩く綾小路令嬢が茜色の空を見ながら声を上げる。


「異世界に来たのにね、やってることが大学生と同じってどういうことよ?」

 確かに。昨日は部屋から出ずにミーティング。今日は図書館通いでお勉強。


「アタシさー。もっと剣と魔法の冒険するかと思ってたのよ?全然違うじゃない!」

 言わんとしていることは分かる。現実なんてそんなものだ。


「まぁまぁ、そんなことは言わずに。まだこっちに来てから2日ですし」

「…そうよね。そうなんだけどね」

「物語の定番だと、王様に1000ゴールドと銅の剣を持たされて城を追い出されるんスよね?」

 ーー大智くんは昭和の人間かな?

「バカねっ。大抵こういうのは、1人だけ追放されて、実はそいつはめちゃくちゃ強いってパターンが王道よ」

 ーーいや、全然王道じゃないよ?

「逆説的に言えば、追放されたらチートキャラになるってことかしら。アタシちょっと国王殴ってこようかしら?」

「今の他の人に聞かれるだけでも不敬罪で捕まるかもですよ…。セバスさんがいなくてよかったですね」

「ほんのジョークよ。それにセバスがいたら言わないわよ」


 部活帰りの学生なようなノリで、俺たちは帰路につく。夕飯には早いかと思ったが、既に星華さんと悠希は食堂で俺たちの帰りを待っていた。


「お疲れ~」

「お先に切り上げさせてもらったよ」


 互いの仕事を労いながら席に着く。


「まずは、今日もみんなお疲れ様っ。食事が来るまで軽く情報交換かな?」

 星華が俺たちの進行役としての板についてきた。最初は年上だからとりあえず引き受けてる、と言っていたが、適任だろう。

「賛成」

「はい」

「いいわ」


「おっけ~。じゃあ、まずは聞き込み班の私達からね。悠希くん、お願いね」


 聞き込み班の二人からの情報は、


 国王は人望が厚いということ

 戦争に備えて兵士を大量に雇い入れているということ

 南の国境沿いでは、既に魔物との戦闘で街を4つ失っているということ


 この国の政治体制については、

 基本的には王政であるが、主に二人の執政官が取り纏めている。そのうちの一人が、昨日の会見でシモン・ラルードと名乗った男。もう一人はエルドランというらしい。


「他にも、通貨や暦についても色々聞くことはできたが、直近で共有すべきことはそれぐらいだと思うな」


 鈴木悠希の話が終わることで丁度夕飯が運ばれてくる。メイドさんたちがテキパキと食器を並べていく。前菜にスープ…。


 そういえば、昨日の夕食の時にセバスが「本来はコースですが、今日はビュッフェで」とか言ってたな。今日はフルコースか。気楽に食べながら情報共有を兼ねた雑談という訳にはいかないようだ。



「切りがいいとこだし、続きは夜にしましょう」

 星華も察したようで、情報共有会はひとまずお開きとなった。


 普段食べ慣れていない西洋風コース料理だからなのか、単純に異世界だからなのかを判断しかねる絶妙なラインを攻める夕飯を頬張りながら、俺たちはたわいもない雑談をし夕食を終えた。



 雑談の話題で、高校3年生の大原大智の進路の話になり、その過程で彼が柔道の全国大会で準優勝しているという話が出た時は俺たちは驚愕したりもした。

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