王国側もあの手この手で必死
「遅かったわね。二人してどこ行ってたのかしら?」
「邪魔してるわよ」
「やぁ、さっきぶりだね」
部屋に戻って扉を開くと6人がくつろいでいる。俺は扉に書かれた番号を確認した。
「俺の部屋で何やってるんですか!?」
集まるにしても人のいない間になんで俺の部屋に集まる…。
「最初はさっきの空き部屋に集まろうとしたんだけどさ、君たちがいつ戻ってきたか分からないし、ならいっそ零君の部屋でってことで。流石に女の子の部屋に勝手に僕らが入るのはどうかと思ってね」
なるほど。合理的だ。納得はできんが…。
「それで?今までなんの話を?」
何かの話で盛り上がっていた様子。
「とりとめのない話よ。今は好きな死亡フラグのセリフの話をしていたわ」
「…いや、本当に何の話だよ…」
「私はあれですね。「別にこれを倒してしまっても構わんのだろう?」ですね」
「おぉ~‼澪緒ちゃん、リュートくんと一緒だぁ!」
マジで何の話だよ。海崎もなにちゃっかり乗ってんの。
「零君は?」
「俺も言う流れですか…。そうですねぇ。台風の時に、「船が心配だ。ちょっと見てくる」っていうセリフですかね」
「リアルスギィー!ネタ系のでお願い。コメントに困るわ」
「冗談です。そうですねぇ。「この戦いが終わったら」シリーズはもう出てると思うので、「これは俺の大事なものだ。お前が持っていてくれ」ですかね」
「零くんは感動系だね~」
死亡フラグに〇〇系とかジャンルあんの?初耳だわ。
「零先輩達はどこにいってたんすか?」
「書庫だよ。書庫。俺のスキルの概要ぐらいは把握しときたくてね」
「そうっすか」
「それで、なにか分かったかい?」
「残念ながら。まぁ、ある意味収穫はあったけど」
海崎に色々伝えれたのは大きい。彼女ならうまく振る舞ってくれるだろう。
「で?お二人仲良く零くんの部屋に入ってきたのは、私たちには内緒にしたい内密な話があるからかしら?」
まぁそうなるよな。桐生さんも半分冗談の様に言っているものの、全員が俺の返答に注意している。
こういう時は隠すなら徹底に隠す。そうでないならその斜め上をいく。
「残念ながら違いますよ。一番内密にしたい話は既に終わってます。これからの話は皆さんにも聞かれてもいい話です」
「「…」」
必殺、開き直り。
「解せんな。でも今は聞かんでおいてやる」
「僕も、言いたくないなら無理に話せとは言わないよ。いつか話してくれると嬉しいけど」
「共犯者の立場ですが、零さんは私たちのためを思っての行動ですので、心配しなくてもいいと思います」
ナイスフォロー海崎!
「…そうよね。意地悪な言い方して悪かったわ」
「そう言ってもらえると助かります」
「それで?アタシたちにも聞かせれる話ってのはなにかしら?」
「勝算についてです」
「魔王との?」
「ええ。綾小路さんとリュートくんは、終末の混沌イベントに参加したことありますか?」
「あるわよ」
「無論だ」
「俺は、今回の魔王侵攻も終末の混沌イベントだと捉えてます。お二人もそうだと思いますが」
「同感だ」
「アタシもそう思うわ」
同じSLIGプレイヤーのリュートと綾小路令嬢も同じ認識だ。
「二人は、終末の混沌イベントに8人で勝算があると思いますか?」
「待ってくれ?どういうことだい?」
ゲームをプレイしてない人らは取り残されている。
「うむ。俺が説明しよう」
リュートは意味深く頷いて説明を始めた。
「SLIGではな、3カ月に1度の大規模イベントがある。それが終末の混沌だ。そのイベントは世界中のプレイヤーが敵と全面戦争をする。負けたら世界がリセットだ。皆必死に戦ったさ」
「3ヵ月に1回?随分と頻繁にやるんだね」
「そうともいえるな」
「それがこの世界の魔王侵攻だっていうのかしら」
「うむ。これまでも終末の混沌で魔王や魔王軍が相手だったことは何度かある」
「なるほど…」
SLIGの終末の混沌の概要は伝わっただろう。
「でもおかしいわよ?3カ月に1回もそんな世界滅亡の危機が起こるなら、3カ月ごとに勇者を召喚しなきゃいけなくない?王様達の口ぶりだと、前回の勇者は随分と前に聞こえたけど」
桐生星華お姉さんがもっともな指摘をする。
「うむ。俺もその点は不明だが、SLIGでは現実世界の60倍で時間が流れていた。おまけに、前回の終末の混沌は約1年前だ」
「この世界だと、60年前ってことになるのね…。でもどうして、1年間もそのイベントがなかったの?」
「…それは…。なんだ、まぁ色々とあるんだ!」
リュートが言葉をはぐらかす。無理もない。プレイヤーとしてはトラウマ事案だからだ。
ここは先輩プレイヤーが恥を忍んでその問いに答えよう。
「俺が代わりに説明するとですね、前回の11か月と3週間前にあった終末の混沌では、プレイヤー側が敗北して、全データが削除。世界がリセットされました」
「それは…随分とシビアなゲームなんだね」
「緊張感があって、むしろそれでハマる人が多いという側面がありますけどね」
「ははは…」
「まぁ、そんな訳で、丸っと1年間は終末の混沌の発生しない世界の芽吹きっていう期間でした」
「なるほどね。納得したわ」
「あ、あの…」
黙って聞き手に回っていた秋本紅葉が手を上げる。
「ん?」
「そのゲームでは、イベントに世界中のプレイヤーが相手にして戦ってたんですよね?私たちたった8人しかいないんですけど…」
そう。それが俺が言いたかった問題点だ。
「それなんですよ。俺もその点が一番の不安要素なんです。お二人は、この世界に残る気満々ですけど、その点についてどう考えているんですか?」
ゲームプレイヤーなら、誰もがこの状況を嬉々として歓迎するのかもしれないが、冷静に状況を考えれば勝ち目は薄い。それでも戦うというのは、自分の命を掛けて戦っても勝算があると考えているからだ。リュートも綾小路令嬢も馬鹿ではない。策もなく勝ち目のない戦いに命を掛けることはしないと踏んでいる。
「ふむ。俺は勝算があると考えている」
「根拠は?」
「そうだな。確かに終末の混沌は全世界で1.2億人のプレイヤーがいるが、同時接続は200万程度だ。それに、終末の混沌の対象レベルは50~100。DLSがうまく起動している証拠だ」
「DLS?なんだいそれは」
「難易度調整システムだ。多くのプレイヤーに楽しんでもらうために、エネミーの攻撃力や防御力がプレイヤーに応じて変わっている。そうでなければ、適正レベル以外はつまらんからな」
「なるほど…。それもそうよね」
「それと、プレイヤーのいる場所に適正な数の敵が出現する。例えば、時間帯によっては接続人数が10倍程開く時がある。同じ敵の量が出ていたら、接続人数が少ないと負け、多いと圧勝ということになりかねん。ゲームバランスがうまく機能してるから丁度いい難易度でプレイできる」
「敵のスポーン率がプレイヤーによって調整されてるってことね」
「その通りだ。ゆえに、俺たちだけでもなんとかなるレベルだと踏んでいる。そうでなければ、これまでのこの世界の危機を乗り越えれるはずもない」
「私も同じよ。勇者召喚された時に、固有スキルなんて追加で与えてくれるぐらいだし、この世界の神のようなゲームマスターがいるんだと思うわ」
「なるほど…」
確かに一理あると思う。俺も前の勇者がいたりする時点で、勇者の力で何とかなるイベントレベルだと思う節はある。
「アンタは違う見解なのかしら?」
綾小路令嬢は俺に話を振る。
「そうですね。完全にこれって訳じゃないですが、俺も二人の言うようにゲームバランスが整っているとは思いたいが…」
「不安要素があるかかしら?」
「ええ。まず、難易度調整システムも、”プレイヤーの数”によって調整されてました。そこにNPCは含まれません。そもそもSLIGではNPCはイベントに参加していない」
「「っ!?」」
「気づきましたか?俺らが召喚されるよりも前から、魔物の侵攻は受けているようです。となると、例え難易度調整システムが機能していたとしても、その対象人数は、俺ら勇者の数じゃないと考えられます」
「ま、まって!そしたら、敵の数はこの世界の人類の数を基準に現れるってこと?SLIGの総プレイヤー数より多いじゃない!」
「可能性の一つですが…。そう考えられます」
「そっ、そんな…」
「そんなの勝ち目ないじゃない!」
「まぁ、本当にそうなら今の俺らじゃ焼け石に水ですね。ただ救いがあるとするなら…」
「あるとしたら?」
「NPC…いや、ここの世界の住人も戦うことができるってことでしょうか。国王も、国境に城壁を建設中って話をしてましたし、ゲームじゃ城壁なんて作れませんでしたからね」
「…ふむ。SLIGではNPCは戦闘に参加しなかったしな」
「でも!レベル30程度の雑魚じゃない!終末の混沌の適正レベルは50~100よ?」
「そ。だから二人に勝算があるのかと聞いたんだけど」
「…」
「…」
空気が重くのしかかる。初めから勝ち目のない戦争だと言われれば仕方がない。
「もっとも、どちらも可能性の話です。本当はとんでもなく弱かったりするかも知れません。レベル100に随分と驚いてましたし」
…。
今更フォローを入れても響かないか。
「…この話を君はなぜこのタイミングでしようと思ったんだい?伝える気ならさっきのミーティングの時に伝えてただろうし。僕らがここにいるから話したんだろう?逆に言えば、元々話す気はなかったというように捉えれるんだが…」
悠希は冷静に俺の意図を読み取ろうと質問する。
「あぁ、ミーティングの時に話しても良かったんですけどね。今朝の会見の時に、「未来視で魔物の軍勢に蹂躙される未来が見えた」とか何とか言ってたし、勇者召喚したのに未来が変わらない!てなったり、「4年で見捨てて逃げる気だ」ってバレたら何されるか分からなかったので。あくまで助力の姿勢は示しておこうかなと。帰還方法がこっちの手に入るまでは」
「…それなら今まずいんじゃ」
「あ、それならさっき、うちの未来視持ちに能力の確認したから心配ないかなと」
海崎の方を見る。
「あ…はい。見たいものがなんでも視れる程便利なものではありませんよ」
「…確認済みか。手が早いな。じゃあ、ここで僕らが「さっさと逃げ帰ろう」という選択をしてもいいわけか」
「そう思うのはいいですが、明後日の会見ではあくまで助力の姿勢は示すべきですね。少なくとも、帰還方法が俺らの手に入るまでは」
「それは…どういう…?」
ここまで言ったら全部吐くか?流石に「それは気にするな」というのは無理があるような気もする。
「そうですねぇ…。簡単にいうと、俺らはこの世界からの帰還方法が分からないけど、向こうは知っている。向こうの要求は世界を救ってほしい。でも俺たちが帰りたいと言っている。じゃあどうする?ってことですね」
「…帰還を餌に助力を求めるというのかい?」
「そうですね。で、もし4年後に本当に帰れるとして、まだ世界に勇者が必要だった場合に、帰還させてくれるだろうか、という問題ですね」
「…それは…」
「まぁ、これは、向こうがすんなり返してくれる可能性もありますし、杞憂に終わることかもしれません。なので、この件は俺に任せてくれませんか?絶対に、俺らの意思でいつでも帰れるという状況を作るので」
「…わかったわ」
「よろしくお願いするっす」
「アタシ、構わないわ」
「よろしくお願いします」
「頼んだよ」
「異論ない」
「はい。お任せします」
いいところに着地できたか。
「じゃあ、明日図書館で優先すべきは帰還方法。次に過去の終末の混沌の形跡。勇者の伝説ってところですね」
「私たちは?」
「特にないですよ。強いて言うならこの世界の基本的なことですかね。世間話しながら友好関係築くのが目的なので、あんまりガツガツ情報収集する必要もないかと」
「分かったわ」
「僕もだ」
スマホの時計が日本時間で17時を指す。日が落ちてから5時間程。この世界では23時ぐらいだろう。そろそろ就寝時間だ。
「今日はそろそろ解散かしら?」
「そうね。夜も更けてきたみたいだし」
くつろいでいた各々も、立ち上がる。
「あのー。その更けた夜に関して、もう一つあるんですけど」
これはあんまり言う気になれないけど、伝えない訳にもいかない。
「今日は全員でここに泊まりません?」
ピタッと動きが止まる。こいつは何を言っているんだと言わんばかりの視線を送られる。今日は何度目だろうか。
「まぁなんというか、明日の朝、急に王国サイドに全面協力しだす人がいるかも知れませんし、少なくとも今日明日はその方がいいかと」
「そんな寝てる間に考えは変わらないと思うけど」
そういう意味じゃないんだけど…察してくれないかなぁ!?
コンコンコン
っと扉を叩く音が聞こえる。
「噂をすれば何とやら。直接見た方が早いだろうね。どうぞ!」
カチャ…
ゆっくりと扉が開く。入ってきたのはセバスではなかった。
「失礼し・・・・」
中に入ってきたのは薄着の女性だった。俺たちを見て固まる。
「どうも、この部屋の本来の住人の零です」
20か、それよりも歳の低い綺麗なブロンズ色の女性は固まって動かない。
「…お名前尋ねても?」
目のやり場に困るがとりあえず、自然を装って会話を試みる。
「し、失礼しましたっ」
バッと身を翻して部屋から出て行った。まるで俺が名前を聞いたから逃げたみたいだ。傷つくから辞めてほしいな…。
「なるほど。一晩で手のひら返す理由か…」
「生々しいわね…」
リュートと綾小路令嬢が溜息まじりに呟く。
「まあハニトラはコスパ最強ですしね。今頃皆さんの部屋にも刺客が訪れてますよ」
「それで皆で泊まろうってことね」
「ま、そういうことです」
「でも、流石にみんなじゃなくてもいいんじゃないかな。ベットも2つしかないし。2人ずつでもいいと思うけど」
「うーん。それは甘いですね鈴木さん。あ、一応先に言っておきますが、別に俺は1人の想い人のために勇者になるってのはいいと思うので、その気があるなら止めませんよ?」
「「え?」」
「問題はそこじゃないというか…。例えば、俺が1人でいたとして、さっきの子が入ってきたらもうその時点で向こうの勝ちです」
「それはいくらなんでも…」
「いや、例え俺が否定しても、彼女が嘘の証言すれば終わりです」
「…」
「それが1人でも2人でも変わりませんね。貴賓室に人を送れるってのは、そうとう立場の高い人間にしかできませんよ。つまり、この国がバックにいるようなもの。少しでもつけ入るところがあれば、事実なんて捻じ曲げて協力させようとい仕掛けてくるのは当然かと。俺ならそうしますね…間違いなく」
「確かにそうかも知れない。すまない。僕の考えが甘かったようだ」
「ふーん。それってさ、濡れ衣証明が出来ればいいんでしょう?」
閃いたと言わんばかりに星華さんが手を合わせる。
「ええまぁ」
「じゃあ、お姉さんがいいこと思いついちゃった!皆ベットで寝れるしーーー」
「却下です」
「まだ何もいってないんだけど~?」
「俺もベットで寝たいのでそれも考えましたけど、それを俺から提案するのは流石にまずいと思って雑魚寝覚悟でみんなで泊まろうと言ってるんですよ」
「じゃあ、私からなら問題ないわね」
「いや、どう考えてもそういう問題じゃ…」
「私は星華さんの考えに賛成です。いつまで続くか分からない以上、こちらも牽制すべきです。床で寝たくはありません」
「アタシも構わないわよ。床で寝るぐらいならマシね」
「わ、私もみなさんなら構いません」
「…女性陣がいいなら俺は別にいいですけど…」
「他のみんなは?」
「ま、まあそれでいいなら僕は構わないけど」
「異論ない」
「え?さっきからなんの話してるっすか?」
主語がなく、具体的な内容に触れずに来た弊害だ。星華さんが顔を赤くする大原大智を面白がってナマナマしい具体的な禁止事項まで教えていた。
今晩は解散して明日に備える運びとなった。そして今に至る。
「…」
「…」
気まずい無言の時間。
よりによってなぜ海崎澪緒になる。いや、間違いなく桐生星華の策略。何が年上特権だ。自分はイケメンこと鈴木悠希をちゃっかり確保して…この女狐め。
そう、星華お姉さんプレゼンツの対処法。「男女で二人組なら、ハニートラップの介入余地ないよね」作戦が強行された。そして、提案者の星華さんの采配によって組み合わせが強引に決まる…。
「着替え取ってきますね」
「いや、着替えてこいよ…」
「シャワーお借りするので着替えてきてもまた着替えることになりますよ?」
「いや、普通にシャワー浴びてこいよ…」
「その間に零さんが食べられたら大変ですから」
「…冗談言ってないではよシャワー浴びてこいよ。俺も浴びたいし」
大体ここにはさっきハニトラ嬢が逃げたところだ。彼女のジョークは本気なのか冗談なのか分からない。海崎が部屋から出たことを確認して、俺はシャワールームに入る。流石に貴賓室にもバスルームはないか。日本人たるもの、湯船に使って一日の疲れを流したいところだが文句は言えない。
用意された着替えは意外にも質がいい。寝巻にするには伸縮性がもう少し欲しいところだが十分だ。
海崎が戻ってくる前に寝てしまおう。下手に意識すると眠れなくなりそうだし。
あいにくと、土日を半徹夜状態で怒涛の月曜日を迎えた俺は、すぐに眠りの世界に入った。
人生で、一番長い一日が終わりを告げた。




