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聖都観光デート

 手続きを終えて聖都に入る。


「妖精の国とは聞いていましたが、生活雰囲気は王国とあまり違いがありませんね。」

 聖都の街並みを見て海崎が言う。

「俺ら人族とほとんど同じだし、王国の隣接国だ。行き着く先は同じだろうよ。」


 俺たちは聖都の中心部へと辿り着いた。


「ようこそ妖精聖国ケルリアへ。アストリア王国の勅使御一行様。そ、そちらは鷲獅子(グリフォン)でしょうか…。」

 聖都中央にある迎賓館の入り口にいた門番は、鷲獅子(グリフォン)を見て顔を強張らせる。

 街中を鷲獅子(グリフォン)を連れて歩くのは目立っていたが、流石に建物に鷲獅子(グリフォン)を入れるのは難色を示される。

「こいつは()()()使い魔でね。下手に攻撃とかしなければ暴れだしたりしないから大丈夫だよ。」

 ーーまぁ、俺はこいつと意思疎通できんけど。

 それに、()()とは言っていない。

「さ、さようですか…。しかし、館内には…。」

「おや?部屋に神獣を入れてはいけないという決まりでも?」

「いえ…。」

「だったら問題ないな。通してくれ。」


 少し強引だが仕方ないだろう。暴れたときすぐに対処できるのは俺ぐらいだぞ。目の届かないところに離れて困るのは俺じゃなくて君らの方だと思うけどな。馬屋なんかにおいたら、明日には馬が二、三頭消えてるぞ。


 俺たちは宿泊室に通される。本来の予定では到着は明日のはずであり、今日の予定は特にない。


 コンコンコンッ…

 何からしようかと考えていると俺の部屋の扉が叩かれる。

「どうぞー?」

 俺はコップに水を注ぎながら来客を通す。

「零さん。」

「どうした?」

 扉越しに海崎の声が聞こえる。どうして入って来ないのかと思いながら返事をする。

「せっかく聖都まで来たので、一緒に街を回りませんか…?」

 海崎からのお誘いとは想定外だった。

 避けられていたと思ったが、もう気にする必要はないということだろうか…。

「ああ。」


 調教師(テイマー)の近衛兵に鷲獅子(グリフォン)を任せて聖都へと出る。



鷲獅子(グリフォン)と零さんのおかげで観光する時間も得られて良かったです。」

「まぁそうだよなぁ。本来なら予定だけ済ませたらトンボ帰りだったし。」


 俺と海崎は中央広場を目指して大通りを歩く。

「そういえば、鷲獅子(グリフォン)には名前はつけないんですか?」

「ああ。命名は重要だからな。適任者に任せるまでは不便だがあいつはグリフォンのままだ。」

「…適任者?あ…紅葉さんですか?」

「そ。」

 会話をしながら歩いていると、海崎が立ち止まった。

「零さん…。」

 彼女の視線に捉えていた集団を見る。


 建物の影で白銀の髪を持つ美女が、ガタイのいい3人の男達に引っ張られていた。

「さっさと来い!」

「いやよ…。もう嫌っ!」

「文句言うな!」

「離してっ!」

 白銀の女性は俺たちと目が合い、視線で何やら投げかけた。


「…どうしますか…?」

 海崎が尋ねる。それは助けるのか?という問いかけだろうか…。

「…一応声はかけてみよう。なぁ、君…。」

 俺は白銀の美女に声を掛けた。


「なんだぁ?」

 一人の男が俺の声に反応して近寄る。

「お前は呼んでねぇよ…」

「んだと⁈ドツクぞゴルァ。」

 ーーあぁ…うーん…やっぱり?チンピラに絡まれた可哀想な美女…といったところか…。


「助けが必要ですか?」

 海崎が尋ねた。

「助けて…。」

 涙を浮かべてこちらを見る彼女を前に、もう後戻りはできない。

「この人たち、いつも私を苦しめるの…。私は何も悪いことしてないのに…。助けて…お願い…。」


 海崎は白銀の彼女と一瞬見つめ合った。そして視線を戻して俺に耳打ちした。

「零さん。やめておきましょう。明らかに地雷です。」

 ーーいや…。流石にここで手を引いたら倫理的にも道徳的にもまずいわ…。


「貴様には関係ねぇだろ!それ以上近づけば怪我しても知らんぞ。」

 俺の近くにいた男は服の袖を捲り上げる。


 カシャー


 緊張感のあるシーンに唐突に流れた電子音。


「え?お、おい…海崎。何してんだ?」

 海崎が手にしたスマホから流れたシャッター音で、ここにいた全員の注意を引いた。

「犯行現場の証拠は抑えるべきかと…。あ、どうぞ続けてください。」

 海崎はスマホを手にしたまま何食わぬ顔でそう告げた。

「た、助けて…。」

 白銀の彼女は俺に飛びついた。

 ーーあ、甘いいい香り…。じゃなくて…。

「そいつを返せ!容赦せんぞ!」

「キャーーー!」

 男たちは拳を振り上げて迫った。


 ーー身の程知らずかよ…。


 数十秒足らずで襲い掛かった3人を無力化し、地面に男達は転がった。

「お、覚えてろよー!」

「退却!退却ー!」

「後で後悔するからなー!」

 ーー模範的過ぎんだろ…。

 背中越しに叫びながら男たちは逃げていく。腰につけた剣を抜かないあたり、ただのチンピラというところだろう。


「た、助けてくれてありがとう。あの人たち、いつも私を追いかけて付いて来るの…。」

「ぉ…あ、ああ…。それは災難だったな…。」

 腕に抱きつく彼女から甘い香りがする。

 星華さんとは違った年上の魅力を醸す美少女。そんな人が抱きついてくるなんて…唆ります、はい。


「…零さん、とりあえず彼女の名前でも…」

「ん?あ、ああ。そうだな。」

 俺は余計な思考から戻って抱きつく彼女を離した。


「だったら、私の一押しの喫茶店を案内するわ。助けてくれたお礼もしたいし。付いてきて?」

 白銀の彼女は俺の手を引いて歩き始めた。


「あなたとっても強いのね。」

「まぁ割とな…」

 人類の中では最強クラスなのは間違いない。

「あなたが傍にいてくれるのはとっても安心できるわ」

 腕に抱きつかれた彼女の胸の感触が、俺の鼓動を早める。

「あ、歩きにくい。少し離れてくれ。」

「あら…ごめんなさい。」


 大通りから一本裏手に入った喫茶店に入る。

「助けてくれたお礼に御馳走するから何でも頼んでいいわ。」

 身なりからいってただの町娘とは思えない。お金も持っているのか。

 金も魅力もあれば、下世話な男に絡まれるというのも無理はないだろう。


 適当に注文を済ませると、白銀の彼女は俺のすぐ隣に座り直した。

「さっきは助けてくれてありがとう。すごく怖かったわ。」

「あ、ああ。いや、助けた訳じゃない。成り行きだ。」

「そう?でも助けられたのよ。お礼はどうすればいいのかしら。私にできることなら、な・ん・で・も・するわ。」

 ーーなんでも?今何でもって言った?

 いかんいかん。女性耐性無さすぎて思考が飛ぶ。それと近い。

「…分かったからとりあえず離れてくれ。」

 いつの間にか密着していた彼女の体を引き剥がす。

「…いや…だった?」

 上目遣いの潤う瞳が俺の目と合う。

 ーー目と目が逢う、瞬間にー…じゃなくて…。

 さっきから思考が定まらずに意味不明なことが頭に過ぎる。

 ーー煩悩菩提、煩悩滅却。


「…名前を伺ってもよろしいですか?」

 ーーナイス海崎。

 俺の正面で話が進まないことに痺れを切らしたように海崎が名前を尋ねた。

「リリスよ。」

「そうですか。私達はアストリア王国の人間です。私は澪緒。そちらは零さんです。」

「そう…。お二人の関係はぁ?」

「……同郷の仲間です。」

 一瞬考えて海崎は答えた。勇者が王国を離れている情報は軍事機密なことを考えると、勇者仲間というのは言えないから妥当な線だろう。


「そう…。よかったわ。」

 ーー良かった?


「お待たせしました。」

 注文した品が届いて話が遮られる。俺がその意図を尋ねようとした時には、彼女は甘い物を前にフォークを手にしていた。


「レイ、私のタルトを一口食べない?ほら、あーん…」

 一切れのケーキが目の前に差し出される。

 ーーこれが伝説のあーん、パクっというやつか。ではでは俺も失礼して、あー…

「…リリスさん。あまり私の仲間にちょっかいを掛けないで下さい。」

 食いつく前に海崎の声で我に返る。完全に食べる気満々だった。まるでそれが自然かのように、なんの違和感もなく差し出された甘味に喰らい付こうとしていた。

 ーー恐ろしや…女の魅力…。

 というか、こんな店の中でそんなバカップルよろしく頭の中までスイーツで溶かされている様な真似をするとは不覚である。俺は半開きの口を閉じる。

「あら…。ダメなの?それとも、何か困ることでもあるのかしら。」

「仲間が餌付けされるところを見るのは気持ちが良い物ではありません。」

 ーー俺は犬かよ…。


「レイこの後暇かしら?」

 妖精だからなのか…?なんでこんなに艶容なのか。仕草も雰囲気も全てに於いて悪意があるとまで思う誘惑の果実。

「…そこの海崎と、街を見て回る予定だ。」

「そう…。でもそれって忙しい訳じゃないのよね?…個人的なお礼をしたいわ。」

「個人的なお礼?」

 ゴクリ…。

 ーーいや、ゴクリってなんだよ。なに生唾飲んでんだよ、俺は…。

「女が男の人にするお礼なんて、一つしかないでしょう?」

 耳元で囁かれた吐息が当たって背筋が刺激される。

「れ、礼はこれで十分だ。気にするな。」

 俺はテーブルに置かれたケーキを手で取って口に押し込む。


「…あら…そう。じゃあせめて街を案内させて?見て回るんでしょう?()()自慢の街なの。」

「…彼女に聞いてくれ。」

 俺は海崎に判断を委ねる。

「私に投げないでくださいよ…。私は一人でゆっくり回りますので、お二人はどうぞご自由に。」

 海崎はコップの中身を飲み干すと、すくっと立ち上がった。

「あら…気が利くのね。ありがと。」

「お、おい海崎…。」

「…私と二人きりは嫌かしら…?」

 リリスの手が俺を顔をクイっと自分の方を向けた。

「いや、そういう問題じゃなくてだなーー」

「…リリスさん。」

 俺の言葉にかぶせる様に海崎は立ち止まって言った。

「あなたが何をしようと勝手ですが、…もし零さんの想いを踏みにじる様な真似をするのであれば、私は決してあなたを許しませんよ…?」

 彼女から漏れるほんの僅かな殺気が、それを本気で言っていると語っていた。

「か、海崎?お前何を言って…」

「あらあら。怖いわ…。」


 彼女はそれだけ言うと、店を出て行った。

 ーー俺の想いを踏みにじる?なんのことだ…?

 せっかくの海崎との関係改善機会を失ってしまったことは踏みにじられたというカウントにはならないのかな…。


 俺はアイスティーを口に入れながら彼女の言葉の意味を考えた。

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